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〈在日朝鮮学生学術フェスタ 論文賞〉 中級部理科授業で実効性ある教材を作成するための理論と実践

中3理科「地球と宇宙」編から

1 研究内容と目的

 科学技術の時代と呼ばれる21世紀、科学技術の基本知識を教えることを使命とした理科教育の重要性が叫ばれている。反面、日本社会では「理科嫌い」「理科離れ」が深刻な社会問題となっており、在日同胞社会も日本社会の影響を少なからず受けている。

 天文学研究クラブでは、今まで独自に行ってきた近隣の初中級学校に対する「出張プラネタリウム」や、昨年に朝大理工学部が作成した「理科実験DVD」の経験を通して、朝大生が朝鮮学校に直接働きかけ、貢献することの大切さを感じることができた。そしてまた、朝鮮学校の理科教育の実態を見たときに、理工学部で専攻知識を学ぶ私たちだからこそ朝鮮学校の発展に多様な方法で貢献していくべきだと切に感じた。

 そこで私たちは、天文学研究クラブで学んだ知識を生かし、朝鮮学校の中級部理科教育、とくに中3理科「地球と宇宙」編を習ううえで実用性のある教材を作ることにした。

 作成した教材が実用性のあるものになるためには、朝鮮学校の理科教育に対する正確な実態把握と分析に裏打ちされた理論が必要である。

 そのうえで朝鮮学校の理科教育と、とくに中3理科「地球と宇宙」編を研究し、教材を作ることにした。

 2 本論

 (1)朝鮮学校の理科教育に関する考察

 @理科教育の目標

 理科教育は教育内容上、自然を対象とした科学技術教育であり、生徒たちに人類が築き上げてきた科学技術の成果を体系的に教え、自然を深く認識し変革することのできる認識能力と実践能力を備えさせなければいけない。

 つまり理科教育は、生徒たちに宗教や主観に左右されない科学的自然観と共に、自然を対象とした創造的能力を培うことを基本目標とする。

 A理科授業での教材の役割と重要性

 理科教育の目標を具現化し、生徒たちに変容をもたらすのが理科授業の役割である。

 授業は、教師・生徒・教材の3つの要素で構成されている。

 教師が教材を使って生徒たちに働きかける行為を教授指導といい、生徒たちが教材や教師に働きかけ自らの変容を促進させる行為を学習という。教師と生徒は教材を媒介として相互作用する。

 また教材は、「学習目標」と「学習内容」、そして学習目標を達成するための学習内容をどう教えるかという「活動」、生徒たちの変容が学習目標に沿ってもたらされたかどうかを検閲する「評価」の4要素で構成されている。

 このように、理科授業で教育の目標を達成し、生徒たちの変容をもたらすためには、教材が重要な役割を担っているといえる。

 ところが、朝鮮学校の教師たちが教科書に見合ったほかの教材を探すとなると、どうしても日本語の教材が多く、生徒たちの生活指導をするかたわらでオリジナルの朝鮮語教材を準備するとなると、大変な労力を要する。

 かといって、朝鮮学校の授業で使われる教材が日本語でいいはずがない。朝鮮語で自然を習うのは理科科目のみであり、この機会を逃せば習うチャンスはなかなかまわってこないだろう。

 余談だが、筆者も今回の論文と上映したプラネタリウムの作成期間に馴染みのある天文学上の専門語を朝鮮語に直す時、どうしても違和感をぬぐいさることができなかった。それは長い間、専門用語を朝鮮語で認識せずに日本語で認識してきたせいであろう。

 このように、朝鮮学校において朝鮮語教材の重要性は自明だが、現場の教師たちがそれを作成、準備する事は困難である。

 ここでもまた、私たちがこの問題に貢献する事の意義が見えてくると言えるだろう。

 B現在の生徒たちの実態

 次に、その教材を通して学習する生徒たちの実態を調査した。

 国際数学・理科教育動向調査の2003年調査(TIMSS2003)によると、日本学校の生徒たちが理科を嫌い、理科の重要性を見出せていないという結果が見えてくる。一般的に、科学技術が高度に発展し生活が豊かな国ほど、生活の中で当たり前のように使われる科学技術製品を使用する場合、特別な専門知識を必要としない、恵まれた生活の中でそれ以上の向上心を持てない、などの理由によって国民が理科の重要性を見出せないと言われている。

 日本学校の生徒たちの傾向性は、彼らだけに限られたものではないだろう。同じ社会の中で暮らす朝鮮学校の生徒たちも、少なからず同じ傾向にあると言えなくもないはずだ。2000年に実施された「『理科嫌い』『理科離れ』に対する実態報告」によると、朝鮮学校の生徒たちの中で理科を難しがる現状が見えてくる。とくに中1、高1と転換期を迎える時期から難しがるようだ。

 また、男子は生物、女子は物理に対する興味が低く、地学はどちらとも低い。これは、地学が持つ特性に関わる問題であろう。つまり、生徒たちは実験を好み興味を示す傾向にあるのに、地学ではその特性上、実験を行いにくいからだと考えられる。

 (2)中3理科「地球と宇宙」編に対する考察

 理科教育の目標は、科学的自然観と自然に対する創造的能力を培うことにあるが、中3理科「地球と宇宙」編はそれに適した内容だといえる。それは、宇宙の広がりを想像し、それらに挑戦し続ける天文学者たちの活動史を体系的に習うことによって、生徒たちの想像力を総動員し能動的な活動を引き出しやすいからだといえる。

 また、いつの時代でも宇宙の神秘は人々の好奇心を惹きつけてやまない。

 中3理科「地球と宇宙」編の教科書内容を分析してみたところ、「第1章 地球の動きと天体の動き」では、観察や疑似体験を通して習える内容であり、「観察」「やってみよう」など、生徒たちの理解を促す多様な内容が取り上げられている。

 それに比べ「第2章 太陽系の天体」は、直接目で見られないものが多く、写真や映像を通してしか体験できない世界なので、どうしてもただ覚えさせるだけの知識を強要するような授業になってしまう。

 以上のような研究をもとに、中3理科「地球と宇宙」編の「第2章 太陽系の天体」のビデオ編集教材を作った。

 3 今後の課題と活動予定

 今回作成した教材を授業で使用し、生徒たちの実際の反応を集計・分析し、より効果的な教材を作りたいと思う。

 また、初中級学校に対する出張プラネタリウムを積極的に行い、朝鮮語で星や宇宙を見る楽しさを教えていきたいと思う。(朝大理工学部3年 尹彗玉)

[朝鮮新報 2007.12.10]