〈教室で〉 西大阪朝鮮初級学校 2年担任 李昌受先生 |
一人ひとりに目を向けて、基本の授業をしっかりと 「アンニョンハシムニカ!」。休み時間に初級部2年の教室に足を踏み入れると、少し恥ずかしがりながらも、元気にあいさつをしてくる生徒の声が響いた。また、楽しそうに友だちと会話する生徒、机に向かい課題のプリントとにらめっこをする生徒、その子を励まし手伝う生徒らの姿がうかがえた。男子3人、女子5人。このクラスを受け持つのが、教員歴15年目の李先生だ。 みんなで考え 算数の時間。手始めに百マス計算で脳を活発化させ、内容に入る。この日から習い始めたのは、「万」。教科書の両面には、100粒ずつが1つのブロックになっている稲穂の絵がぎっしりと描かれている。「一つのブロックに何粒あるか数えてみよう」。李先生がこう声をかけると、生徒らはそれぞれ一生懸命に数え始める。「1、2、3、4…」と一粒ずつ数える子、まず1列が10粒ずつだと把握し「10、20、30…」と数える子、「10粒が10列。10が10集まると…」と数える子など数え方はそれぞれだ。全員答えは「100」。どんな数え方をしたのか、一人ひとりに尋ねる。そして、どのような数え方が的確で効率が良いかをみんなで考え、答えを出す。 また、低学年には理解しにくい大きな数を、積み木などの教材を使い「100、200…」と数えさせることで、抽象的なものから具体的なものへと、理解を深めさせていく。 生徒一人ひとりの反応や表情にしっかりと目を向けながら、受け答え、実践、教材、ヒントなどで、生徒の思考能力を引き伸ばす。 胸に響く指導を
教員には、教授、教養、部活指導、行事などやることが山のようにある。その中でも、学校教育者としての基本である教授が最も大切だという。教授案(教案)を練るものの、予想外の答え、トラブル、生徒の飲み込み具合の相違など、筋書き通りにいかないのが授業。どうすれば、最短距離で教授目的を達成できるのか、研究に余念がない。 今年の2年生の数は8人。一般的には少人数だろう。少人数は、一人ひとりをしっかりと見ることができる反面、大変なことも多い。しかし、李先生は、多数も少数もあまり差を感じないという。今まで、最多では35人、最少では4人を担任した。多数、少数を考えるのではなく、「自分の目の前にどんな生徒がいるのか、その生徒たちのためには何が最適なのか」を常に考えながら、授業の準備に取りかかる。 また、担任する間だけではなく、初級部、中級部を卒業してどう成長していくかも見据えながら、指導する。今、この時に何が最も必要で、欠けているのか。どのタイミングで、どんな言葉をかければいいのか。生徒の動態に注意を払い、一人ひとりをしっかりと理解し、指導を行う。「頭ごなしに言いつけても、生徒はわからない。生徒の胸を響かせ、実際に行動に移ってこそ、指導した意味がある」。やってあげたい、教えたいことはたくさんあるが、生活の中で生徒が身を以て感じられる場面を見極めて、指導する。
「怒るととっても怖いけど、いつもは優しくておもしろい先生です」と話すのは、2年生の女の子。2年生ばかりではなく、男子教員を遠ざける思春期の高学年の女の子らにも、みんなに慕われている。まず何よりも生徒を愛し、信じ、ふれあいを大切にしている李先生だからこそ、生徒も自然に心を開くのだろう。 初2を受け持ち4年目。最年少の初1から上がってきたばかりの生徒への教えは、初めの1週間が肝心だという。基本の約束ごとを3日間に決め、残りの4日間にそのクラスに応じた指導をする。そうすることによって、その後、生徒の間でトラブルが起こっても、自ら相談し合い、例にそった新しいルールを決め、解決しようとする。子どもたちの中で学級文化が生まれ、発展していくのだという。 資質向上のために ほかの先生たちが「李先生のおかげで授業観が変わった」というほどに、探究心が強く、授業に人一倍こだわりを持つ。それゆえ、自然と周りの先生たちも、教授に力が入るようになった。 担任の傍ら、教務主任、大阪朝高学区初級部社会分科長を兼任している。大阪は、教育研究においてとても熱心な地域だ。その中でも、李先生が分科長を務める初級部社会分科は、02年度から5年連続で近畿教育研究会、中央教育研究会で優秀論文賞を受賞している。これも「諸先輩教員の教え、研究成果の土台があるからだ」と謙遜に振り返る。今年の夏には、同分科で合宿も行った。意見を交換し合い、経験を共有し、刺激し合うことでお互いの意欲を高め、資質を向上させる。 生徒募集の際にも、抽象的な説明ではなく、「学力を100%保証し、そのうえ、豊かな人間に育てる」ということを誰もが胸を張って堂々と言えるように、教育学的資質を高めるように教務主任として、教員らへのアドバイスも怠らない。 李先生が教授を重要視するのは、「授業は学校教育の根幹であると同時に、奥が深いもの。授業で子どもを育てることができる。授業改善こそ、あらゆる学校問題の糸口だ」という確固とした想いからだ。「生徒の笑顔と何かに真剣にチャレンジする表情」を力の源に今日も教壇に立つ。(姜裕香記者) ※1971年生まれ。東大阪朝鮮第1初級学校(当時)、東大阪朝鮮中級学校、大阪朝鮮高級学校、朝鮮大学校教育学部3年制師範科(当時)卒業。93年度から東大阪朝鮮初級学校、泉州朝鮮初級学校、生野朝鮮初級学校教員。現在、西大阪朝鮮初級学校で初級部2年担任、教務主任、中央教育研究大会初級部社会分科中央委員などを務める。98、02学年度中央教育研究会で論文賞受賞。 [朝鮮新報 2007.11.16] |