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朝大・法律学科卒業生の快挙 初の新司法試験合格者 1期生卒から4年

 在日同胞社会を取り巻く環境の変化に対応し、同胞運動を新たな高い段階へと発展させるため、民族教育の最高学府で法律の専門家、とりわけ在日同胞の生活と権利を法的に擁護するエキスパートを養成しようと1999年、朝鮮大学校政治経済学部に法律学科が新設された。理論教育とともに資格取得のための実践的なカリキュラムが設定された。1期生が卒業してから満4年、民族教育を体系的に受けてきた同学科1期生の金敏寛さん(27、成蹊大学法科大学院修了)、「明玉さん(26、南山大学法科大学院修了)の2人が先月、新司法試験に合格した。今後修習期間(11月から1年)を経て弁護士となる。この朗報はまたたく間に全国に知れ渡った。「朝鮮大学校の歴史でも特記すべき成果」だと張炳泰学長も指摘している。

高い比率誇示

新司法試験に合格した金敏寛さん(左)と「明玉さん(右)

 法律学科設立当時、成績優秀、情熱あふれる学生が各地から集った。しかし、学生らは旧司法試験1次試験の免除のため日本の大学の教養課程を履修する「ダブルスクール」のハンデを負った。

 しかし学生たちはめげなかった。法務省には、1次試験免除を求める要請活動もした(2004年8月に認定された)。2004年度には法科大学院制度が新たにスタートし、すでに国立大学大学院などへの受験資格が認められていた朝大生にも受験資格が認められ、弁護士資格取得へのもう一つの道ができた。

 ハンデを乗り越えた1期生の2人が、「最短距離」で合格したことに「大きな意味がある」と朝大で刑事法を教える東京造形大学の前田朗教授(51)は強調する。「カリキュラムは、設立当初からしっかりしたものだったうえ、バラエティに富んでいる」。

 同校の法律学科は、日本の大学の法学部に比べ教師と交流しやすい少人数制で授業を進める。それでいてカリキュラムは同等。今回、2人は1期生20人の中からの合格で、その比率はきわめて高い。「小さなパイの中から合格者が出た」(前田教授)意義は大きく、これにより朝大の、そして初、中、高、大の体系的な民族教育の実効性が内外に広く誇示された。

開かれた展望

法律学科学生らの大学生活風景

 法律学科卒業後、満4年での新司法試験合格。朝大関係者、そして各地の在日同胞らは喜びに浸っている。

 池永一・政経学部学部長は、「新司法試験合格者の輩出により、弁護士への確固たる展望が開かれた。同胞社会を守っていくという固い意志、強い意欲でがんばってもらいたい」と合格者にエールを送る。

 同学科はすでに司法書士、行政書士の資格を持つ卒業生を輩出している。現在、法律学科卒業生には司法試験を控えたロースクール生が十数人おり、今後も多くの弁護士誕生に期待がかかる。

▽合格者インタビュー

教育権利を守りたい、同胞に恩返ししたい

「明玉さん(東北朝高卒)、金敏寛さん(九州朝高卒)

−法律家を目指したきっかけは

 「明玉さん(以下「)=中級部のとき、沖縄で米軍による女子中学生への暴行事件があった。その頃から女性として、人権問題、法律に関心を寄せるようになった。高級部のときにはチマ・チョゴリが切られる事件もあり、在日朝鮮人への人権蹂躙とたたかいたい、そのためには有資格者(弁護士)にならなければとの思いで、日本の大学の法学部を目指した。しかし、父の強い勧めで朝大法律学科への入学を決めた。

 金敏寛さん(以下金)=初めは、理工学部を志望していた。「法律学科が新設されるので行ってみては?」と勧められ、「行ってみようか」と決めた。ちょうど、国籍の問題について熟考していた時期でもあった。そして弁護士を志した。

−いろんな苦労があった?

 金=1期生なので先輩がおらず、勉強方法で迷うこともあった。自信をもって基本を大事にして進めた。

 新司法試験は法科大学院終了後、5年以内に3回のみの受験が可能だから緊張感があった。

 「=受験の経験がない中、精神、肉体的に自分とのたたかいだった。食事と睡眠の時間以外は勉強という生活が続いた。受験を迎えるまで正直しんどかった。

 金=地元福岡での受験勉強は相談する人もおらず孤独だったが、自分自身を信じ、「いまやっていることは間違ってはいない」のだと言い聞かせ、一生懸命打ち込んだ。

 「=私の場合、この1年間は「女性として身なりを整える」という感覚は捨てて勉強に没頭した。朝夕が逆転していた。受験前は「化粧の時間ももったいない」という感覚だった。

 金、「=すでに「権利擁護の現場」で働いている同級生らの姿が励みとなった。

−目標は

 「=民族教育を守りたい。また、戦後補償問題、ドメスティック・バイオレンスなどいまだ残る女性への差別撤廃にも尽くしたい。今は「同胞のために」というやる気でいっぱいだ。

 金=修習期間を終えて弁護士になったら、同胞社会、とくに朝鮮学校の置かれている環境改善に関わっていきたい。地元の福岡には同胞弁護士が少ないので、九州の朝鮮学校の教育条件をより良いものにするため、尽力したい。

−後輩へのアドバイスを

 金=可能性を信じて励んでもらいたい。どこに行っても勉強するのは自分自身。日本の大学に行っていたらどうなっていたか想像もつかない。「食べるための弁護士」になろうとしていたかもしれない。朝大では優秀な同胞の先生方や著名な非常勤の先生から学ぶことで、専門の勉強だけでなく、「世界と自分」という枠内で考えられる。「在日同胞社会と自分」「日本社会と自分」というなかから、私は弁護士を選んだ。

 「=弁護士は「エリート」という印象が強い。私は勉強のできるタイプではなかった。それでも朝鮮学校に通いながら、「在日の不平等さ」を変えなければと思った。夢を持ち、学校で進路指導も受け弁護士への魅力を感じてきた。なにを志向するのか。このことを考えるのが大事だ。

−最後にひとこと

 「=自分の人生をどう過ごすのか−朝大の先生方の熱意と親身なアドバイスのおかげで、夢を追い求めることができた。深く感謝している。試験についていうなら、テクニックなどない。自信と気合だ。

 民族教育を通じ得たものは、差別は許さないという正義感だ。朝大在学中は勉学だけでなく、民族観が深まったし友だちが増えた。本当に良かった。

 金=弁護士を目指すなら、相当な覚悟が必要。これが本音。その意味で朝大での集団生活は貴重だった。在日同胞社会のなかで一生懸命働いていきたい。

▽在学生の声

 難関を突破したというニュースを聞いて、大きな勇気をもらった。自分も合格できるのではという力をもらえたし、これまで以上に勉強に精進しようという気持ちにもなった。合格した先輩との座談会では、受験を乗り越える精神力の強さを垣間見た。(金星姫さん、法律学科4年)

 法律学科に在籍する学生らは、自分たちが選択した道で結果がでる、この道が間違っていなかったのだと確信した。2人は人格も優れていた。私自身、共感できる部分が多く、自身の目標がより具体化した。一生にこれ以上ない努力をしなければという決心が大きくなった。(康潤碩さん、法律学科3年)(李東浩記者)

[朝鮮新報 2007.10.22]