〈ウリナラ昆虫仰天記〉 「タガメ」を襲った悲劇… |
私は現在、夏目漱石の代表作「坊ちゃん」の舞台であり、日本で最も古くて有名な温泉の一つ−道後温泉のある松山市で大学研究員生活を送っています。 住まいは、四国4県に唯一ここにしかないウリハッキョの寮です。同校関係者らの好意により、空いた一室を借りて「居候」しています。 現在取り組んでいる研究は、カミキリムシ科に属する昆虫の分類学的研究です。ただし、これは昨年9月に、やむをえない事情によって変更されたテーマです。それ以前は朝鮮半島、とくに「共和国の昆虫相に関する研究」を行いたいと強く願っていました。
テーマ変更を迫られたやむをえない事情とは、安倍政権による対朝鮮敵視政策にほかなりません。昨年のミサイル発射実験以降に行われた不当な経済制裁によって情勢が緊迫しました。担当教授と検討した結果、「共和国の昆虫相に関する研究」テーマは将来へ持ち越すことにしました。 実は、共和国の昆虫相に関する研究を行いたいと強く思った経緯は、大学2年生(2002年)の夏休みまで遡ります。1カ月間、朝大学生代表団として祖国を訪問したのがきっかけでした。 代表団の一員として祖国を訪れた時期は、アリラン公演が盛大に行われていた期間でした。 公演は夜間に行われたため、あちこちに設置されたライトが、場内をまるで白昼のように長時間照らし続けていました。 最初は公演のスケールの大きさにただただ見入っていただけでしたが、ふと観覧の合間に何気なく周囲を見渡し、びっくり仰天。なんと、ライトの周辺を無数の昆虫が飛翔し、ぐるぐる回っているではありませんか!
昆虫には、光に向かって飛んで行く「走光性」という本能があります。ライトをめがけて飛んで行く昆虫にすっかり心を奪われた私は、公演そっちのけで幾度も「飛行部隊」に熱い視線を投げかけていました。 昆虫採集を決行すべく、公演終了後のわずかな自由時間を利用してライトの下へ猛ダッシュ。しかし、手が届きません。指をくわえて恨めしく上を見上げてばかりいた次の瞬間…。 何やら大きな一群がライトに勢い良く突っ込み、ぶつかり、弾み、床に落ちてくるではありませんか! (コウモリかなぁ。いやいや、もしかしてオオクワガタ?) あわてて落下地点へ駆け寄りました。 そして、その「一群」を見た時、私は感激と興奮と驚きのあまり、声が出ませんでした! その「一群」は、しきりに自慢の鋭利な鎌を開閉しながら、私に喧嘩でも挑んでくるかのように扁平な体を動かしつつ必死にもがいていました。 驚いたのは、これだけではありません! よく見渡すと、辺り一面にいるではありませんか!?(ありえへん!! これ、すごい!! ウリナラ、どんだけ魅力的なん!?) …しかし、私の感動は次の瞬間、無惨にも悪夢へと変わりました。 公演を見終えた後に隊列をなした人民軍隊の面々が、その「一群」を躊躇することなく踏み潰して行進していたのです!! しかも、あ〜〜、人民軍隊を乗せたトラックまでもが、私の目の前で彼らをペシャンコにしてしまう始末…。 その後、祖国で採集した昆虫類を調べたのですが、アリラン公演の競技場で捕まえた「一群」は、「タガメ」でした。 とくに走光性の強い種で、日本では昔、どこの田畑でも普通に見られた昆虫だったと言います。それが都市化や農薬汚染などが原因で、今では大変珍しい昆虫の代表とも言われるようになってしまいました。 今にして思えば、貴重な「タガメ」との出逢いでした。「タガメの一群」が過去の風物詩となってしまった日本では、おそらくもう二度と見ることの叶わない光景だろうと思います。 その光景が、他国ではなく自分の祖国のものだと感じた時、私はこれから自分が祖国のために、民族のためにできることがたくさんあるのではないかという自信と実感を持つようになりました。心底、祖国が宝の山のように思え、愛おしく感じられました。 今回、祖国訪問期間の昆虫採集で得た経験について一部を紹介しましたが、短い滞在期間にもかかわらず、多くの仰天させられる出来事がありました。 祖国の山河や人々が懐かしく、思い出すだけで愛おしさが込み上げてきます。「日本のデパートに行くと、カブトムシが500円以上で売買されている」と聞いて、驚愕していた祖国の人々の顔が昨日のように思い出されます…。 あの期間に得た経験は、私の夢の種だったのかもしれません。その種を、祖国統一や民族の幸せ、喜びのために美しく花咲かせるよう、右手に虫捕り網、左手に虫籠を携えながらこれからも必死に(?)研究に励む決意でいます。 暇があれば、ぜひ一度松山に遊びに来てください。もちろん、「虫捕りグッズ」御持参で!(韓昌道、愛媛大学大学院農学研究科生物資源学専攻環境昆虫学研究室修士2年) [朝鮮新報 2007.8.17] |