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第19回 総連各級学校教員の教育研究大会 民族教育の質向上を

実践報告、研究成果を発表

 1月27〜28日、東京都北区の東京朝鮮中高級学校で「第19回総連各級学校教員の教育研究大会」が開かれ、日本各地の幼稚班、初、中、高級学校教員と関係者など786人が参加した。大会では2003年に初級部、04年に中級部、05年に高級部で新しく採用された教科書をもとに、20の分科会で180編のレポートや論文が発表された。各分科の模様を紹介する。(文=金潤順、呉陽希、鄭茂憲記者、写真=盧琴順記者)

初級部算数教育分科 「できる」から「わかる」授業に

城北初級の金和恵教員

 初級部算数教育分科では、日本の教育現場での学力主義、序列主義について指摘しながら、民族教育の算数授業で児童たちに「考える力」「問題を解決する力」「考える楽しさ」を与えていくことが強調された。

 また、▼民族教育における「20世紀の算数教育像」を「できる」から「わかる」の授業にシフトする観点でとらえ、▼2006年初級部算数中央統一試験から児童の学力を正確に分析、対策をたて、▼発表論文に対する討論を深めることが強調され、あわせて、教科書改編に向けた教科書分析と学習内容の検討などが行われた。

 まず、今学年度の日本各地の算数教員294人に対するアンケート結果が報告され、授業の流れ、授業方法など実践の状況、その是非の評価など教員たちの悩みなどが発表された。

 つづいて、数学的思考に関する論文が3編発表された。北九州初級の李明哲教員は論文で、「数学的な思考力」とは、「考える力」を指し、その力が育っていく過程で、算数への関心と意欲が養われると述べた。李教員は、思考力は実際の「思考体験」を通じて養われるものであり、最初から問題を解く手段や方法を知識として与えるべきではないとしながら、オープンアプローチ型の授業を行った経験について述べた。これは、解法や答えが複数考えられる問題(オープン問題)を用いてさまざまな結果を得たあと、それを互いに確認しあって児童自身に数理を創造させる学習法。この過程で、児童たちの関心が向上したと報告した。

 城北初級の金和恵教員は、低学年で最初の難関である繰り上がりのある足し算について99年からの研究結果を発表した。金教員は、現行の指導法は児童たちの理解力にあったものではないとの疑問を呈し、児童たちの計算法習得をさらに複雑にしていると指摘。より順次的に思考を開発するための授業プロセスと方法を研究し実践した結果、より楽しく学べる成果がでたと述べた。

 同分科では、児童たちから「自分で解いた、わかった、作った、発見した、なぜ、どうやって、こうやってみよう」などの意欲や態度を引き出し、達成感のある算数教育を実施していこうと確認しながら、今後、朝鮮大学校と連携して研究を深め、07年度に算数教材講習を行うことを決めた。

中高級部英語教育分科 「発信型」の英語教育に

英語教育はいま、より実践的なコミュニケーション能力を育てることが求められている

 中高級部英語分科では、改編された教科書(中級部2003年度、高級部2005年度)を用いての研究成果を一般化させることが大きな目的とされた。

 中級部では、「聞く」「話す」「書く」「読む」の言語の4技能の基礎を養うと同時に、表現能力を向上させるために、総合的には「聞く」「話す」を中心に4技能をバランスよく高めるための授業が求められている。

 高級部では中級部で養った4技能の基礎と、その関連知識を習得させ、発信能力をより高めるための「話す」とともに作文(「書く」)に力が注がれている。

 発表された論文では、改編された教科書の方向性に沿って、「発信力」を高めるために英語で理解して英語で表現する能力育成を中高一貫して行っている神奈川中高級学校の英語教育に注目が集まった。同時に各地の学校、とくに地方の学校が直面する「少人数クラス」を、いかにメリットとして英語教育に活かすのかという議論もなされた。また京都中高級学校が取り組む「習熟度別授業(レベル別にクラスを分ける授業方法)」の論文には多くの質問が寄せられた。

 また、パワーポイントの使用や音楽を取り入れて、授業をより効果的に行うという実演も行われた。

 英語分科の分科長を務める張末麗教員(神奈川中高)は「各地の実践の成果を共有することが大切」だと語る。そのためにも学区内で活発な意見交換を行っていくとともに、前回(2005年1月29、30日)の教研を機に設けられた朝鮮学校の英語教員たちのサイトを活用して、他校のよりよい実践を取り入れてほしいと話す。

 思考言語としての日本語、朝鮮語がその基礎となるため、英語を習ううえで、それらの言語知識と言語能力の水準が英語力に少なからず反映されると張教員は分析する。

民族性教養分科 新たに準正規教育をテーマに

初日は朝鮮学校での取り組み、2日目は準正規教育の経験発表が行われた

 総連20全大会では、同胞たちの民族性を守る問題をこれ以上先延ばしにできないとして、民族教育の強化、発展とともに、同胞が暮らすいたる所に準正規教育網を張り巡らし、在日同胞社会の民族性を守りぬくことを中心課題のひとつとして提起した。20全大会以降、各地に民族学級、土曜児童教室、午後夜間学校などの教室が開設され、民族教育の経験が積まれてきた。

 2年前に開かれた第18回教研から新たに設けられた民族性教養分科では今回、日本の学校に通う同胞児童、生徒などを対象にした準正規教育に関するテーマが新たに加えられた。

 初日の正規教育の場においての研究発表では、初級部低学年から高級部に至るまでの意欲的な取り組みが報告された。2日目の準正規教育についての発表では、福岡初級、栃木初中、茨城初中高、南武初級の実践報告が行われた。

 福岡初級・張有辰教員は、九州全域の同胞児童を対象に、長崎夏季学校、大分夏季、冬季学校を開設し、02年3月には同校初級部の児童たちと福岡、大分、佐賀、長崎の日本の学校に通う同胞児童たちの合同交流会を80人規模で開いた経験などを披露した。そして、「6年間におよぶ土曜児童教室を通して、50余人の受講生が学び、そのうち8人が同校と九州朝高に入学、編入し、現在は、商工会職員、地域朝青非専従常任委員、朝鮮大学校学生として成長した」と成果を紹介した。

 栃木初中には土曜児童教室を通して昨年、3人が入学、編入している。

 参加者たちは各校の取り組みに熱心に耳を傾け、学父母たちの反応についても意見を交わしていた。

初中級部社会、歴史、地理教育分科 実生活に密着した「生きた」授業

教育の値を向上させようと真剣に取り組む教員たち

 初中級部社会、歴史、地理教育分科では、12編の論文発表および討論が行われた。

 同分科では、授業内容をいかに実生活と密着させて取り入れるかに多くの関心が注がれた。

 東京第2初級・金成午教員は、初級部6年生の社会の内容に含まれている裁判の項目と、東京都が同校に対し校地として使用している都有地の明け渡しなどを要求している「枝川裁判」と関連づけて理解させるよう努めた。

 裁判に対する一般的な知識だけではなく、現在同校をめぐり行われている裁判への正しい認識とともに、それを支える人々の活動を通じて児童たちの愛校心を育むきっかけになればと思い、この研究にとりかかったという。授業では、実際に「枝川裁判」に関わるマスコミの報道や出版物など多彩な資料に児童が直接触れたことで、そうした気持ちが自然と芽生えたことに大きな意義があったと述べた。

 南武初級・成明美教員は、初級部5年生の授業で初めて南朝鮮社会についての内容が紹介されると指摘、児童たちが統一世代であるという自覚を育む授業と実践活動を行った経験について述べた。成教員は、児童らが南の絵本作家との交流などを通じて、立場は違っても統一を願っているのだと実感していたと述べた。また、「南北コリアと日本のともだち展」が主催する絵画展のワークショップに参加し、日本と北、南、在日の児童の交流を深めることによって、「在日」としてできることは多く、その役割を果たしていかなければならないとの認識が深まったという。

 さらに、統一世代の児童たちに、教室内の授業だけでなく、課外授業などの機会を意識的に作るべきだと強調した。

 東京第1初中・姜成蓮教員は、中2朝鮮歴史の壬辰倭乱から朝鮮通信使までの内容を現在の朝・日関係と絡めて教えることによって、生徒たちに歴史を学ぶ重要性とその意味を考えさせ、正しく情勢を見る目を養うきっかけを作り、学習意欲を高めることができたと報告した。

 一方、授業の質の向上と、生徒らの興味と理解力を高めることを目的にパワーポイントでの授業が一部で行われており、尹太吉教員(東京第4)、金星年教員(愛知中高)らがその経験について発表した。

障害児教育研究会 専門家を交え、推進委発足

初めて開かれた研究会には60余人の教員が参加した

 障害児教育研究会(1月26日夕)には、関東地域の各級学校校長と日本各地の教員など63人が参加した。

 中央教研で障害児教育に関する研究会が単独で開かれるのは初めて。これまで初級部の各分科で経験発表などがされていた。

 総連中央教育局・宋根学副局長は、「ムジゲ会や同胞福祉連絡会などから、障害児にも民族教育を望む声があがっていた。教育文化活動と同胞生活奉仕活動は、総連の愛族愛国運動の2本柱。同胞たちのニーズに応えるため、同研究会を新設した」と経緯を語った。

 研究会では障害児教育に取り組んできた現場教員と社会福祉士、臨床発達心理士を含む推進委員会が発足した。今後は、この分野に関する認識、知識をさらに深め、障害児教育に関する指針を定めていく方針だ。

 研究会では、「民族教育で福祉(障害児)教育を行ううえでのいくつかの方法」「LD/ADHD児童指導についての報告」「わが校で個別指導を実施した経験について」「ダウン症の児童を教育、支援した経験について」のレポート発表に続き、「自閉症児童に対する指導方法について」「言語能力が低く、対人関係が弱く、多動性のある幼児Aに対する指導」についての補足討論が行われた。

 日本の学校で来年度から実施されようとしている特別支援教育を見越して、朝鮮学校でも今後は、障害をもつ児童1人ひとりの人生設計までを予見した教育や、他児童、生徒への福祉教育(学父母を含む同胞への福祉観への支援も含めて)、障害児教育に関するネットワークづくりなどにも取り組んで行く方針だ。

 参加者たちは、担当教員の確保、特別授業の運営、学父母、医療、福祉機関との連携などについて活発な意見交換を行った。

[朝鮮新報 2007.2.9]