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人権擁護委に提出した申立書(要旨)

40人の弁護士 滋賀初級への大阪府警の強制捜索

 既報のように、40人の弁護士が8月2日、警察当局の滋賀朝鮮初級学校に対する強制捜索と関連し、日本弁護士連合会人権擁護委員会に人権救済申立書を提出した。申立書は、滋賀初級に対する強制捜索が日本国憲法と刑事訴訟法、国際条約にも違反するものだと指摘。総連と在日朝鮮人に対する違法捜査は決して許されないものだと強調した。申立書の要旨を紹介する。

日本国憲法などに違反

教育の場を土足で踏みにじることは決して許されない(滋賀初級に対する大阪府警の強制捜索)

 2007年1月28日に強行された大阪府警による滋賀初級での違法な強制捜索は、現に初等教育が行われている民族学校に、警察権力が土足で踏み込むという異常なものであった。かかる違法捜査は、同校に在籍する在日コリアンの生徒らとその保護者らのプライバシー権(日本国憲法13条)、平等権(同14条)、適正な手続きを受ける権利(同31条)などを侵害するとともに、在日コリアンのための民族教育を実施している滋賀初級の民族教育権(同23条、26条)とそこで平穏に学ぶ子どもらの権利(同26条)を踏みにじるものである。

 また、いわゆる拉致事件発覚後の在日コリアンに対する差別的、排外主義的風潮を奇貨として、警察庁長官自身が在日コリアンに対する政治目的捜査の強行を公言してはばからない状況に照らせば、大阪府警の強制捜索が、警察庁の統一的な方針によって実施されていることは明らかである。

 そもそも、刑事捜査は「犯罪の捜査をするについて必要があるとき」に限り行うことができるものであり(刑事訴訟法218条1項)、ほかの意図に基づく刑事捜査は、形式的に刑事被疑事実の形式を仮装していても、それが違法となることは明らかである。

 漆間巌警察庁長官(当時)が、2007年1月18日、記者会見において、「北朝鮮に日本と交渉する気にさせるのが警察庁の仕事。そのためには北朝鮮の資金源について事件化し、実態を明らかにするのが有効だ」「北朝鮮が困る事件の摘発が拉致問題を解決に近づける。そのような捜査に全力を挙げる」旨を強調し、政治的意図に基づく捜査を行う方針を公言している。警察庁の進める「北朝鮮に日本と交渉する気にさせる」ことを目的として実行されるこのような捜査が、違法であることは明らかである。

 そして、滋賀初級での強制捜索に関して発付された捜索差押許可状には、差し押さえるべき物として、およそ車庫とばしの被疑事実の解明にとって必要があるとは解しがたい「海外送金依頼書、組織図、国内外郵便物及び関係書類」などが挙げられている。かかる記載に照らせば、本件捜査が上記の警察庁の方針に従ってなされた「北朝鮮」に圧力をかけるという政治目的のもとでなされたものであることは明らかであり、本件捜査が、違法であることもまた明らかである。

 そもそも、強制捜索は人権に対する侵害を伴うものであり、捜査は原則として任意捜査によって行わなければならない(刑事訴訟法197条1項)。また、強制処分であれ任意処分であれ、警察権の発動にあたっては、社会公共の秩序維持に必要な最低限度の警察作用にとどまるべきで、その処分の目的の正当性、目的達成の必要性、その目的を実現する手段の妥当性と被疑者、市民の側の被る利益侵害の程度が比例していなければならない(捜査比例の原則、日本国憲法31条)。

 車庫とばしの事案においては、客観的証拠として「自動車登録ファイルの新規登録や自動車保管場所の証明書の申請状況、住居の虚偽移転申請状況などの資料」「自動車販売に関する注文書、契約書、保管場所所有者と使用者の契約関係書類、自動車損害賠償保険関係書類、自動車車検証など」を収集すれば、犯罪を立証しうる。

 しかし、本件においては滋賀初級の捜索などせずとも、上記客観証拠を収集することなど容易であったことは明らかであり、同校での捜索を行う必要性自体そもそも存在しなかった。それにもかかわらず、滋賀初級の校長らに対して、あらかじめ同意を得て協力を要請するなど任意の捜査をすることなく、教師らが東京での全国民族教育研究会の参加のために不在であるすきに、突如強制捜査に及んだ大阪府警の捜査手法は、この点だけ見ても極めて不当である。

国際条約、規約などにも

 大阪府警は、本件被疑事実に何ら関係ない朝鮮学校に通う在日コリアンの児童、生徒の氏名、保護者名、住所、電話番号などの個人情報が記載されている名簿を押収した。また、本件においては、車庫とばしにかかる虚偽の申請が行われてから半年も経過した後に、100人以上の警察官と機動隊が、日本の小学校に相当する同校を取り囲み、校長室や教員室、教育会室などに土足で立ち入り、4時間にわたって強制捜索を行った。

 一方、大阪府警の強制捜索によって侵害された在日コリアンの児童、保護者の不利益は著しく大きい。すなわち、氏名、住所、電話番号および朝鮮学校の在籍者であることは、いずれも個人の私生活上の事実に関する情報であり、プライバシーの権利として保護されるべきものであり、大阪府警による名簿の差押、押収はかかる権利を侵害している。

 また、在籍する児童らは、学校の玄関や校門、運動場などに大勢の警察官が入って強制捜索をしたことをテレビや新聞などを通じて知り、生活の大部分を過ごしている学びの場を違法な捜査によって荒らされたという精神的打撃を受けており、その大きさは計り知れない。さらに今後、彼らは、警察の強制捜索がいつ入るかわからないという不安定な状況の中で授業を受けざるをえず、平穏な環境の中で民族教育を受ける権利についても重大な侵害が生じている。

 とくに、朝鮮学校は日本国内における数少ない民族教育の場であり、今回の強制捜索は民族教育の圧殺に通じるものであり、「国際人権規約B規約」第27条ならびに「子どもの権利に関する条約」第29条および第30条の規定に違反する。

[朝鮮新報 2007.9.3]