総連中央会館固定資産税等 東京地裁判決の不当性 北野弘久・日本大学法学部名誉教授 |
「公益のために直接専用」 東京都が総連中央会館(東京都千代田区)に固定資産税および都市計画税を課税したのは違法だとして、総連中央が同処分などの取り消しと全額減免を求めた訴訟の判決で、東京地方裁判所は7月20日、総連中央側の請求をすべて棄却する不当判決を下した。東京地裁の下した判決の不当性とその法的根拠などについて、日本大学法学部の北野弘久名誉教授にまとめてもらった。 都税条例に該当 朝鮮総連本部(以下「本部」)の固定資産については美濃部亮吉知事時代に、在外公館に準ずる施設として1964年度以来、固定資産税等を全部免除することとされた。本件03年度固定資産税課税処分までは、いちいち減免申請手続を求めないで、自動的に全部免除の扱いがなされてきた。石原慎太郎知事時代においても、その在任1期3年および2期の1年は全部免除の扱いがなされてきた。 都税条例134条1項2号は、「公益のために直接専用する固定資産」を減免すると規定している。本件固定資産が在外公館に準ずる施設として40年間その固定資産税等の全部を免除されてきた事実に鑑みても、筆者としては都税条例適用上は134条1項2号に該当するとみるべきであると考える。この点、本判決が「本件固定資産が不特定多数の者の直接の利用に専ら供されていない」ので、134条1項2号に該当しないとしたのは誤りである。本件本部事務室等は、渡航手続のほかに、日本との文化交流、日本を含む各国との外交活動、民族教育など、通常の在外公館と同じような公益活動に現に供されているからである。まさに本件固定資産は「公益のために直接専用する固定資産」に該当するといわねばならない。 課税庁は、本件は都税条例134条1項4号(「前各号に掲げるものの外、規則で定める固定資産」を減免する)問題であると主張してきた。同条例をうけて都税条例施行規則は、「条例134条1項4号に該当するものは、賦課期日後火災その他の事由に因り、滅失し、又は甚大な損害を受けた家屋その他特別の事情があると認められる固定資産とする」と規定している。「その他特別の事情があると認められる固定資産」の具体的内容については同規則はまったく規定するところがない。 そこで、税務行政の実務では、本判決も引用している都主税局長通達基準の(ア)「課税することが建前であるが、社会通念上、課税することが明らかに不合理であり、かつ近い将来において、非課税等の立法措置がとられる可能性の強いもの」、または(イ)「固定資産の使用実態等が、都の行政に著しく寄与すると認められ、減免措置に対して、都民の合意が容易に得られるもの」に該当するかどうかを運用基準にしている。 在外公館に準ずる施設 本判決は、この通達基準に従って判示した。判決において行政の内部取り扱いにすぎない通達基準に従うことに問題がないわけではない。本判決は、旅券発行業務などの部分に限って通達基準(イ)に該当すると判示した。本判決は「朝鮮総連は、北朝鮮から在日朝鮮人に対する旅券発給権限の委任を受けていることを除けば、同国の法制上の行政機関ではなく、基本的には、在日朝鮮人とその団体によって構成される任意団体の性格を有する」と述べる。本判決は、「通達基準(ア)の事情の存在が認められないとする処分行政庁の判断に明らかな誤りがあるとは到底いえない」と判示する。 しかし、「総連は、朝・日両国間に国交がない状態のもとで、日本人民との友好親善のための外交代表部格の使命と役割を遂行している」ことが公式に証明されている(03年10月6日、北朝鮮外務省スポークスマン談話)。北朝鮮は、つとに国際連合に加盟し、世界百数十カ国と国交を有する独立国である。日本国とも02年9月17日、「朝・日平壌宣言」をとりまとめ、国交正常化の方向が示されている。 加えて、40年間も在外公館に準ずる施設として本件固定資産の全部につき公然と免税扱いがなされてきた事実がある。筆者としては、本件固定資産の全部につき、通達基準(ア)(イ)の双方に該当すると解したい。 信義則に違反 また、信義則違反については、本判決は「仮に本件各不動産の利用状況に変化がなかったとしても、これを取り巻く社会情勢等の変化いかんによっては、都の行政に対する寄与度ないし都民の合意の獲得の難易度の点では従来通りの減免が難しくなるような場合も十分に考えられる」と述べるにとどまる。社会情勢等の変化の内容は示されていない。本部の利用の実態、関係法令等につき変化がない以上、40年間の法的保護を打ち切るだけの特段の事情が説明されるべきである。筆者としては、明らかに信義則違反が成立すると考える。 また、平等原則違反については、本判決は「台北駐日経済文化代表処…として使用されている固定資産税の全額免除措置が都税条例や本件規則の規定に照らして適法なものであることについては何ら主張立証がない…」と述べるにとどまる。これはまったく意味不明である。本件につき平等原則違反の成立についても疑問の余地がない。 [朝鮮新報 2007.7.30] |