「犯罪集団」の刻印 「嫌疑はこじつけ」、日本平和学会有志ら 留学同強制捜索で抗議声明
警察当局が4月25日、留学同中央本部事務所を不当に強制捜索した問題で、平和について研究する日本の大学教授、研究者からなる日本平和学会(会長=内海愛子・元恵泉女学園大学教授)の有志ら48人が、不当な捜査に抗議し再発防止を求める声明を発表。2日付で安倍晋三首相と漆間巌・警察庁長官あてに送付した。以下、全文を紹介する。
在日本朝鮮留学生同盟への強制捜査に対する平和学会有志声明
2007年4月25日、警視庁は1973年に発生した拉致疑惑事件に関する容疑で、在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)の傘下団体「在日本朝鮮留学生同盟」(留学同)への強制捜査を強行しました。朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)への制裁措置に並行する一連の強制捜査の一環として行われた本件強制捜査は、高等教育機関に在籍し学ぶ、本会会員も含む在日朝鮮人学生らの研究、教育の権利を著しく侵害するものであり、私たち平和学研究者にとって、また高等教育の現場に身を置き学生たちの育成に従事する者にとって、看過することのできないものです。
留学同は、日本の大学、大学院、短大、専門学校で学ぶ在日朝鮮人学生らが参加する団体であり、その活動主体は現役の学生たちです。一方、捜査対象となった事件が発生したのは実に34年も前のことです。たとえ容疑者が学生時代に留学同に所属していたとしても、そのことをもって、その当時に生まれてもいない若者たちがメンバーである学生団体そのものに「工作員の人材供給源」との嫌疑をかけ強制捜査するなど牽強付会の極みであり、在日朝鮮人学生を北朝鮮との外交交渉における「人質」として、彼ら彼女らに対する「犯罪集団」イメージを刻印することを目的とした暴挙であると言わざるをえません。
留学同のメンバーは日本で生まれ育ち、日本の大学等で他の学生たちと机を並べ、未来への夢と希望をもって学ぶ、普通の若者たちです。自己の民族性とその具現としての国籍を大切にする以外は日本の学生となんら変わらない彼ら彼女らに、どうして朝鮮国家の行為の責を負わせることができるのでしょうか。
本件強制捜査がメディアで大々的に報道され、「在日朝鮮人学生団体=拉致容疑団体」というイメージが広範に流布されたことで、何十年も前の拉致事件とは何ら関係のない在日朝鮮人学生らのキャンパス生活が、敵意と差別の視線に晒された重苦しく肩身の狭いものになることは、現下の社会情況から容易に想像できることです。それによって、どれだけ彼ら彼女らの心が傷つけられ、どれだけ恐怖心を与えるか、警察や政府は想像できないのでしょうか。これによって、在日朝鮮人学生が研究者として大成する芽を断たれる事態さえ生起しうることを、私たちは研究者、教育者として深刻に憂慮するものです。
日本で生まれ育った在日朝鮮人の若者が民族や祖国を追求する原点は日本の植民地支配にあることを、日本人は無視してはならないはずです。拉致問題は、6カ国協議の「共同声明」(2005年9月19日)および「初期段階の措置」声明(2007年2月)がいみじくも指摘するように、「行動対行動の原則」に従い「不幸な過去を清算し懸案事項を解決すること」を並行して行い、日朝間の正常な国家間関係を醸成することによってこそ、真の解決を見出せるでしょう。在日朝鮮人への暴力的な迫害はその道に逆行し、拉致問題の最終的解決はもちろん、北東アジアの平和をも脅かすものであると私たちは強調します。
以上の観点から、私たちは留学同への不当な強制捜査に抗議し、二度とこのような暴挙を繰り返すことのないよう、強く訴えるものです。
[朝鮮新報 2007.7.9]