大阪朝高側の準備書面(要旨) 同校土地問題に関する第2回公判 |
大阪朝鮮高級学校の土地問題に関する裁判が現在行われている。11日には大阪地裁で第3回公判が行われる。大阪朝高側は、5月23日に行われた第2回公判で準備書面を提出。同校が建設された歴史的経緯と民族教育をはじめとするこどもたちの学習権を保障するよう強く求めた。以下に準備書面の要旨を紹介する。 本件訴訟において、原告東大阪市が被告学校法人大阪朝鮮学園に対して、明け渡しを請求している本件土地は、同学校法人が運営している大阪朝鮮高級学校の基盤的な教育施設である運動場のほぼ4分の1にあたる運動場用地であり、同高級学校において、母国語での普通教育や体育を学ぶ生徒たちの学習権、教育権を保障するすぐれて「公共の用に供している」教育施設の重要な一部である。 本来、行政が施行する土地区画整理事業は、「健全な市街地の造成を図り、もって公共の福祉の増進に資することを目的とする」(同事業法1条)ものであり、土地交換分合等を通して、必要とする学校や公園、道路などの公共の用に供する用地を創り出すための都市計画に基づく事業である。また、土地区画整理事業に基づいて、民間の商業土地や居住用土地などを減歩する目的は、この減歩によって保留地を生み出し、これを処分等することを通して、公共の用に供する用地や事業費を捻出するところにある。 また、一般に、商業土地や居住用土地に対して減歩がなされた場合でも、土地区画整理事業による換地処分対象土地自体はその地価を高めるものとなるのが通常である。しかし、学校などの教育施設や、鉄道、港湾、防火、防水施設などの「公共の用に供する施設」は、土地の減歩それ自体が著しくその「公共性」を減殺することになるものである。それゆえに、土地区画整理事業法は、学校施設など「公共の用に供する施設で政令で定めるものの用に供している宅地」については、減歩を前提とする照応の原則を適用するのみではなく、換地計画自体において、その位置、地積等に特別の考慮を払い、換地を定めることができる(同95条)とし、「換地計画において、一定の土地を換地として定めないで、その土地を当該施設の用に供すべき宅地として定めることができる」(同95条3号)としているのである。そして、同政令58条5号において、「学校教育法第1条に規定する学校、同法第82条の2に規定する専修学校及び同法第83条1項に規定する各種学校」をその特別考慮の対象としている。 原告東大阪市は、本件土地区画整理事業について、「人間尊重に根ざした市民都市の創造」をその理念としている。そして、この原告東大阪市の本件土地区画整理事業の理念と、土地区画整理事業法における「公共の福祉の増進」「公共の用に供する教育施設に対する特別の考慮」の趣旨からすれば、原告東大阪市は、大阪朝鮮高級学校において母国語での普通教育や体育を学ぶ生徒たちの学習権、教育権を保障するため、同高級学校の基盤的な教育施設を保護することこそが求められるものである。 しかるに、原告東大阪市による本件基盤的教育施設である運動場用地の明け渡し請求は、同高級学校で学ぶ生徒たちの学習権、教育権を著しく侵害するものであり、原告東大阪市の本件土地区画整理事業で掲げる理念にも反するばかりか、同事業法の教育施設に対する特別の考慮の趣旨にも反している。 また、被告学校法人朝鮮学園の前身である財団法人大阪朝鮮学園は、1966年3月3日の寄付行為の一部変更により、「各種学校」としての認可を受けた大阪朝鮮高級学校を運営の傘下に置き、財政上の理由から、近い将来の取得を前提に、訴外学校法人東京朝鮮学園に本件従前土地の取得を依頼したうえで、1968年頃より、本件従前土地上に、大阪朝鮮高級学校の校舎建設を行うべく原告東大阪市とも協議を重ねて来ている。そして、1972年5月15日、原告東大阪市は本件土地区画整理事業の告示を行い、翌5月16日、東大阪都市計画事業中部土地区画整理事業施行者である原告東大阪市と、学校法人東京朝鮮学園及び財団法人大阪朝鮮学園との間において、「事業の換地計画(仮換地指定計画)により後刻決定される減歩は土地等で行うものとし、その方法については財団法人大阪朝鮮学園が建築する学校という教育施設の有益性の立場を考慮して、双方協議のうえ履行するものとする」との覚書が取り交わされている。さらに、1991年12月24日、本件土地区画整理事業に伴う区画整備道路の築造に際しても、本件土地区画整理事業施工者である原告東大阪市と被告学校法人大阪朝鮮学園との間において、「乙(被告)が取得を希望している末尾記載の土地については、昭和47年(1972年)5月16日付覚書及び誓約書の趣旨から現状の仮換地指定となったものであり、甲(原告)、乙(被告)誠意をもって協議する」との覚書(乙第4号証)が取り交わされている。 そして、被告大阪朝鮮学園は、原告東大阪市の必要性の要請を受けて、1992年3月19日までに、本件土地区画整理事業に伴う区画整備道路用地の該当部分を原告東大阪市に明け渡している。また、この1972年と1991年の各覚書作成の事実は、本件大阪朝鮮高級学校の運動場用地が同校で学ぶ生徒達の学習権、教育権を保障するための有益な教育施設であり、本件仮換地指定自体も、あくまで、本件運動用地を被告大阪朝鮮学園が取得できるようにするための、暫定的かつ原被告間が協議を続けることを条件とするものであったのである。そして、被告学校法人朝鮮学園は、後述の通り1972年5月16日の前記覚書作成以降、原告東大阪市の求めに応じて誠実に協議を続けてきたのである。また、原告東大阪市は、本件運動場用地が同所にて現に生徒たちが学んでいる教育施設であることを十分に考慮してか、1997年8月の協議以降、2005年11月18日付の協議再開の申し入れまで、約8年3ヶ月間、協議、交渉の申し入れを行なってはいない。しかるに、朝鮮民主主義人民共和国をめぐる政治的緊張を主張する一部市議会議員などの政治的動向や、それと連動すると思料される、2006年3月5日付の産経新聞による「東大阪市有地 朝鮮学校 無償で占有」と題する見出し記事が突然に掲載されるに及んだ。そして、それ以降、原告東大阪市は、前記各覚書による誠実なる協議条項を一方的にかなぐり捨て、被告大阪朝鮮学園に対して、本件運動場用地の明渡しを強行に求め、同5月以降、協議、交渉までもこれを拒否し、本件提訴に至っているのである。 以上の通り、原告東大阪市による本件請求は、人格形成の基礎である母国語で普通教育を学び、本件運動場用地において体育を学び、民族的アイデンティティを育んでいる生徒達の学習権、教育権を奪うものであり、更に、原被告間で取り交わした前述した各覚書による「誠実なる協議条項」を一方的に破棄するものであって著しく不当な請求なのである。また、原告東大阪市の本件請求は、すぐれて公益性を有する本件運動場用地に関する明渡しの必要性については、何らの合理的な主張を行うことなく、原告東大阪市自らが施行した土地区画整理事業の形式的な手続きのみに依拠した請求であり、大阪朝鮮高級学校で学ぶ生徒達の実体的な学習権、教育権を奪うに値するものとは到底評価し得ないものである。 [朝鮮新報 2007.7.2] |