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若きアーティストたち(43)

絵本作家・崔玉貴さん

「2作目、3作目とどんどん書きたい」と意気込む崔さん

 緑のきれいな山で暮らす、うさぎちゃん、ねこちゃん、いぬくん、ひよこちゃん。山にたった一つしかない「虹の花」をみんなで大切に育てようと順番に花に水をあげることにする。しかし、「みんながあげているから大丈夫」と水やりを怠け、「虹の花」を枯らせてしまう。みんなは涙を流し悲しむ。次の日も「虹の花」をさがすが見つからず、ふと見上げた空に大きな虹が。うれしくてまた泣いたうさぎちゃんの目は真っ赤になってしまう。

 絵本「にじのはな」(文芸社、06年8月出版)は「なぜ虹は空にあるのか」「うさぎの目はなぜ赤いのか」という仮説から出発した物語だ。

 この作品は著者の崔玉貴さん(22)にとって絵本作家としてのデビュー作。現在、長野朝鮮初中級学校の付属幼稚班で教員をしている彼女は、「打ち込めるものが欲しくて、軽い気持ちで」昨年末、出版社に原稿を送った。すると出版社から「ファンタジー性あふれる作品」だと評価され出版することになった。

 いちばん驚いたのは誰よりも本人。「こんなにもとんとん拍子にことが進んでいいのかと…」と苦笑いを浮かべる。

 原案は大学時代に朝鮮語の授業の課題で作成したもの。当時教員から高い評価を受けたこともあり、「内容には自信があった」という。

 出版社へ原稿を送ろうと決心した際、必然的に日本語に訳さなければいけなかった。

幼稚班で担当する園児とともに

 いざ、日本語にするとなると「うまく言葉が出てこず、不自然でとまどった」。子どもが一人で読んでも理解できるようにと、言葉選びには慎重になった。子どもたちがどんな単語を使って会話をしているのか、受け持っている園児の言葉を注意深く聞いた。「あさって」という単語は「次の次の日」というように工夫をしたり、リフレインを多用し子ども特有の好奇心からくる「なんで?」という疑問を物語の中で解決できるようにした。作中のイラストも候補をいくつも作り、実際絵本を手にする子どもたちが好きなものにと、園児とともに選んだ。

 幼稚班教員が書いた絵本は、読み手と同じ目線に立った「思いやり」がこもった1冊となった。製本されたものが手元に届いたとき、「『やったー』と叫びました」と喜びのかたわら、自分の新たな一面を発見し、幼稚班から大学まで民族教育を受けた「在日」としての可能性を強く感じたという。

 「自分が何者であるのかという『芯』をしっかり持てたからこそ、チャレンジできた」

 今、一つだけ心残りに思うのが表現の問題だ。朝鮮の童話には冒頭で「トラがたばこを吸っていた頃」というユーモラスな表現が使われる。日本語で「むかしむかし」という意味だ。作品の出だしも当初は朝鮮の表現を用いたが、やはり「むかしむかし」とするように編集者から勧められた。「2作目、3作目とどんどん書いて、いつか『トラが…』の表現が認められるようにしたい」と意気込みをみせる。(呉陽希記者)

※1984年生まれ。長野朝鮮初中級学校、愛知朝鮮中高級学校、朝鮮大学校教育学部保育科卒業。学生時代より同胞障害者家族たちのネットワークグループ「ムジゲ会」のボランティアに参加。今年8月絵本「にじのはな」(文芸社)を出版。現在母校の付属幼稚班で教員として活動。ヘルパー2級。

[朝鮮新報 2006.11.14]