東京で東北アジア平和シンポ 地域平和に向け市民連帯訴える |
東ア平和実現へ新秩序構築を シンポジウム「東北アジア平和のための韓国と日本の役割」が10月28日、東京の日本プレスセンターで行われた。 シンポジウムは、南の「民主化運動記念事業会」が「6月民主化抗争」20周年記念事業の一環として企画したもの。 朝鮮の核実験に対する国連決議が採択されるなど地域情勢が緊張する中で、朝鮮半島の統一、地域安全保障など、東北アジアに平和と繁栄を実現するための諸問題が話し合われた。 午前の第1部では、「シアレヒム社」代表の鄭敬謨氏、ソウル大学の白楽晴名誉教授が南朝鮮民主化運動と朝鮮半島統一に関して基調発表を行った。午後には、南と日本、在日朝鮮人の知識人らによるパネルディスカッションが行われた。 パネリストらは、東北アジアの冷戦体制克服と核問題の平和的解決が地域の平和と安定に繋がると発言。また日本の右傾化や軍事化に憂慮を示し、靖国神社や在日朝鮮人問題、過去の清算など、日本が自らの責任を果たすよう求めた。一方で、平和実現に向けた広範な市民連帯の必要性を訴えた。 統一問題、安全保障、過去清算など議論 10月28日のシンポジウム「東北アジア平和のための韓国と日本の役割」(主催=民主化運動記念事業会)では、朝鮮半島をはじめとする東北アジアでの平和体制構築が国際社会の関心事となる中、同地域に横たわるさまざまな問題が論議された。内外から集まったパネリストらは朝鮮半島の統一、安全保障問題、日本の責任などの議題に沿って活発な意見交換を行った。 在日同胞の役割強調
第1部で講演した「シアレヒム」主宰の鄭敬謨氏は、南の民主化運動と日本の朝鮮への関わりについて歴史的な考察を行った。 鄭氏は、「民主化」プロセスを経た南と朝鮮戦争の破壊から立ち上がり独力で米国と渡り合っている北が歩んできた道のりについて考えると、平和統一を成し遂げるであろう朝鮮半島が来るべき「東北アジア共同体」の中で大きな役割を果たすと述べた。 一方、「東北アジア共同体」形成の過程において「つまずきの石」となりうるのが日本だと指摘、「日本は極東のイスラエルと化しつつある」と懸念を表した。 また、統一問題をテーマに講演を行ったソウル大学の白楽晴名誉教授は、6.15共同宣言は朝鮮半島がベトナム式やドイツ式の統一とは異なる固有の方式で統一されなければならないという原則を提示したと評価、北南関係の現状に関する自身の分析も交えながら、朝鮮式の統一は「市民参与型」「民衆主導型」になるべきだと主張した。 「世界に先駆けて新たな国家形態を創出する」統一のプロセスは現在進行中だと述べると、会場からは大きな拍手が巻き起こった。 白名誉教授は一方、朝鮮半島統一における在日同胞の役割の重要性を強調するなど、在日同胞が持つ大きな可能性についても言及した。 総連と民団の和解が一時的に効力を失っている事態は遺憾であるとしながらも、南北の交流、協力が大勢である以上、両団体の関係は再び進展すると指摘、在日社会は統一に対する海外同胞の参与の新たな次元を開拓することにより、世界の海外同胞の模範になるだろうと述べた。 非核化が急務 朝鮮の核実験を機に緊張の度合いをますます深める東北アジア情勢。シンポジウムでは、東北アジア地域が抱える共通の課題として「脱冷戦」の問題がクローズアップされた。冷戦構造からの脱却へ向けた関係各国の取り組みについて、朝鮮半島核問題など安全保障上の課題も含めて幅広く論議された。 雑誌「世界」の岡本厚編集長は、朝鮮の核実験には、「悪の枢軸」と名指ししながら先制攻撃も辞さないという強硬な姿勢をとる米国の対朝鮮政策が作用していると指摘した。 また、冷戦時代最大の受益国であった日本は当事者意識がきわめて低かったため、冷戦後も地域の平和と安定に関する有効なビジョンを打ち出すことができなかったと述べた。 核問題については、核軍縮、廃絶に向けた動きが鈍磨していることに懸念を示し、「自分たちの核は認めるが相手の核は認めない」という2重基準では問題は解決しないと指摘。米国をはじめとする核保有国の核も当然批判されるべきだと主張した。また核抑止論に依存しない、よりラディカルな問題解決を目指さなければならないと述べた。 吉田康彦教授(大阪経済法科大学)は、東アジア市民の連帯をもとに「北東アジア非核地帯構想」の実現を訴えるとともに、核問題解決のためにブッシュ政権が朝鮮との対話に応じるよう強く求めた。 白楽晴氏も、唯一の被爆国である日本が、「北の核については敏感に反応するが、国内の核武装論や米国の核の傘に庇護されている現実については無関心」だと苦言を呈した。 アジアに対する責任 一方シンポジウムでは、在日朝鮮人問題や朝鮮半島の分断など、東アジア地域の近現代史全体に関わる「日本の責任」を問う声も強く上がった。 東京大学の高橋哲哉教授は、東北アジアの平和を考えるうえで避けて通れない問題として、靖国神社の問題を挙げた。 高橋教授は、小泉前首相が在任期間、近隣諸国から厳しい批判を受けながらも、それらを無視し挑戦的な態度すら取りながら参拝してきたことに言及、朝鮮半島出身者の合祀取り下げ問題への対応など、靖国問題に関する日本の姿勢にはアジアに対する「ヒュブリス(傲慢、思い上がり)」が明白に表れていると指摘した。 高橋教授が最も警戒すべきだと指摘したのが、靖国神社の「国営化」と「憲法改正」の動き。9条が改訂され海外で軍事力を行使した場合、国営化された靖国神社に戦死者が祭られることになる。天皇や首相がそれに参拝すれば本質的な部分で戦前のシステムが復活することになり、大きな警戒が必要だと述べた。 さらには前政権にも増して対米従属を深めようとする安倍政権に対して、「アジアに対する責任を果たし、米国からの自立を図るべきだ」と述べた。 早稲田大学の李成市教授は、ヨーロッパによってなされた抑圧を近隣諸国に移譲するという東アジアの「抑圧の連鎖」の歴史に言及、現在も植民地時代の抑圧が残る日本において「魂の脱植民地化」実現の必要性を強調した。 ほかにも、「日清戦争から始まった100年にわたる侵略の道のりの始発点に戻りつつある」(李泳禧、漢陽大学名誉教授)などと、右傾化、軍事化に突き進む日本を憂慮する声が相次いだ。 尹健次教授(神奈川大学)は、「日本にとって朝鮮は自らを映す鏡」だと表現、他者を介さないひとりよがりの歴史観の横行、自民族中心の歴史意識という、歴史認識の「致命的な弱点」を抱えている日本は、自らの思想的課題の一番奥底にある「朝鮮との関係」について見つめ直すべきだと述べた。(李相英記者) [朝鮮新報 2006.11.2] |