日朝国交促進国民協会主催シンポ 「拉致問題と過去の清算」発言から |
2月4〜8日に北京で開かれた朝・日国交正常化会談の結果を受けて、2月24日に日朝国交促進国民協会主催によるシンポジウム「拉致問題と過去の清算」が東京都千代田区の日本教育会館で開かれた。シンポジウム報告者たちの発言を紹介する。(整理=文聖姫記者、文責編集部) 合理的な個人補償の前倒し
今回の会談で朝鮮側がいくつか出した新しい主張は、「突飛」「策略」などと報じられているが、過去の清算問題と関連して経済協力だけでなく、強制連行、虐殺、「慰安婦」については別個補償が必要だと述べた点はたいへん重要であった。 日本は2002年の平壌宣言で、植民地支配により朝鮮人民に多大な損害と苦痛を与えたことを謝罪するとした。そして、国交正常化後に経済協力を行うことが明記された。これに伴い1945年8月15日以前に生じた両国民のすべての財産および請求権を放棄するとした。 平壌宣言発表直後には、過去の清算は経済協力に限定するという趣旨の朝鮮側の論評があった。しかし、拉致問題が異常に取り上げられ、国交正常化交渉も1回で中断した。その間に変化が起きた。 平壌宣言1年目に際した03年9月16日、朝鮮外務省スポークスマン談話は、虐殺蛮行、強制連行、「慰安婦」などの重大人権被害から優先的に解決することを求め、真相調査、謝罪、相応の補償などを望んだ。昨年10月に訪朝した際、宋日昊・外務省副局長(現在、朝・日会談担当大使)も同様に確認した。 日朝間では植民地支配によって日本がもたらした損害と苦痛に対して、反省し謝罪したことに基づいた経済協力に、道義的責任に基づく個人補償が添えられるのはきわめて自然だ。 経済協力はいろいろな判断によって計算されるが、個人補償が要求されるのであれば、それを前倒しで実施することができると思う。これによって過去の清算に対する努力を示すことが可能になる。前倒し実施が合理的なのは、植民地支配の被害者が高齢でどんどん亡くなっているからだ。前倒しで個人補償を実施することは、拉致問題の交渉を促進する道だと考える。 「拉致問題の解決なくして国交正常化はありえない」というのは平壌宣言に反する誤った考えだ。正常化を実現する過程で拉致問題の解決が可能だ。(和田春樹、日朝国交促進国民協会事務局長、東大名誉教授) 日韓会談の問題点把握を
日朝交渉が日韓交渉をモデルにして進んでいることを考える時、日韓会談の過程にどういう問題点があるかを把握することが非常に重要だ。 日韓会談は足掛け15年、7回にわたって行われた。持ち出し論に代表される久保田発言で第3回会談が中断した際、韓国側は久保田発言の撤回、日本の請求権の撤回の代わりに李承晩ライン撤廃などの6項目の提案を行ったが、これがある意味では前倒しの前例になる。 61年に発足した朴正熙政権は、経済成長を目標にして日本と妥協しようと考えた。最後の7回目を、韓国側は請求権関係会議と呼び、日本側は経済協力関係専門家会議と呼んだ。請求権放棄をめぐって韓国側は最後まで粘ったが、結果的に完済を認めた。その後、日韓双方の請求権が消滅した。 韓国政府は対日民間請求権申告に関する法律などで被害者、遺族に補償することを決め75〜76年に支給。財源は日本の無償協力3億ドルのうちから58億円(5.4%)が拠出された。ここでの問題点は@遅かったA小額だったB対象が狭かった(戦没者に限られた)という点だ。 日韓会談の教訓に基づいて日本が朝鮮にどう対処すべきか。 まず、経済協力と補償は分離した方が良い。 また、75年でも遅かったが、いまや遅くなりすぎた。補償は早急に実施すべきだ。「慰安婦」、徴用被害者などに対する補償は、国交正常化以前に分離して行うのが良い。(高崎宗司、津田塾大学教授、同協会理事) 遺骨返還は初歩的な人道問題
朝鮮人強制連行犠牲者の遺骨問題と関連しては、連合国軍司令部の指令(47年2月26日)により遺族が韓国に居住する者に限定し、これまで8835体が引き渡された。だが、南北の分断を利用して、北には一体も返していない。 東京・目黒の祐天寺には1136柱(本籍南=705柱、北=431柱)、埼玉・金乗院に131柱の遺骨があり、日本政府が管理している。この問題は朝鮮解放後も59年間放置されたが、04年12月、韓日首脳会談で盧武鉉大統領が小泉首相に調査を要請した。日本政府は04年9月6日、外務省が民間企業約100社に「朝鮮半島出身労働者の遺骨調査について」依頼。05年には総務庁が各都道府県に情報提供などを依頼するなどした。 だが、これは当事者不在の調査だ。また、朝鮮人犠牲者名は一貫して非公開だ。「情報の公開に関する法律」を適用しているというのが厚生労働省側の説明だが、同法ではその前提として「人の生命、健康、生活または財産を保護するため、公にすることが必要であると認められる情報を除く」とある。遺骨は生命に関する問題だから公開すべきだ。 最大の問題点は、都道府県への調査依頼書で政府が612社の強制連行企業と作業所名をすべて把握しているにもかかわらず、それを伏せている点だ。 初歩的な人道問題である遺骨問題の解決なくして過去の清算はありえない。(洪祥進、朝鮮人強制連行真相調査団朝鮮人側事務局長) 第3次「慰安婦」調査実施を
平壌宣言では、過去の清算を日韓条約と同じ経済協力方式で行うとされた。一見日韓条約と同じように見えるが、全く同じではない。 日韓条約では植民地支配に対する清算の立場は示されなかった。まして、「慰安婦」問題は論議に上ることすらなかった。 平壌宣言では、日本側が過去の植民地支配により朝鮮人民に多大な損害と苦痛を与えたとしたが、このことの意味は非常に大きい。損害と苦痛の対象には「慰安婦」問題も含まれる。 2月の日朝会談で宋日昊・外務省朝・日会談担当大使は、過去の清算に関して一括妥結経済協力だけでは不十分だとして個人補償を求めたが、このことを注視すべきだ。 過去の清算に関して常々感じているのは被害者の視点が欠落しているということだ。どれだけの人が被害者の声に耳を傾けたか。 私たちは拉致被害者、家族たちの声を聞くことで、彼らの長年の苦しみに胸を痛めた。 植民地支配の被害に遭った強制連行者、「慰安婦」の方々に対しても同じようなことが言える。 被害を認識しないままの反省とお詫びとはいったい何なのか。根本的原因は被害者不在の政治的解決の優先にあることは否定できない。 北にいる被害者たちも他の地域と同様高齢化しており、92年に朝鮮政府が申告を呼びかけて以来名乗りを上げた元「慰安婦」の半数近くが亡くなっている。時間が少ないのは被害者だけではない。責任を果たす意味においては日本にとっても残された時間は少ない。 日本政府は第2次では含まれなかった、朝鮮の被害者を含めた第3次「慰安婦」調査を早急に実施すべきだ。(西野瑠美子、VAWW−NETジャパン共同代表) 在朝被爆者との連帯を
日韓条約で個人補償はいっさい解決済みとされた状況の中で、ジャーナリストとして在韓被爆者問題に取り組んできた。 70年12月に「孫振斗密航事件」が起きた。被爆者である孫さんは「不法滞在」中に被爆者手帳交付申請却下処分の取り消しを求め訴訟を起こし、勝訴した。 最高裁判決では国の責任が認められたが、それまでに7年8カ月かかった。 しかし、渡日治療制度は86年11月に打ち切られた。 90年5月の日韓首脳会談では、治療支援基金40億円の拠出で合意。これによって、在韓被爆者の組織である「韓国原爆被害者協会」は、約10年間にわたって混乱し運動も難しくなった。 90年代に入り広島、長崎の元徴用工らが被爆者裁判を起こしたが、いずれも敗訴した。 97年には在外被爆者に現行法適用を求める広島集会が行われた。在韓被爆者である郭貴勲さんが、帰国により打ち切られた手当ての支払いなどを要求して99年に起こした裁判は勝訴。北米、南米でも勝利した。 日本政府が道義的責任を感じるなら、今後、被爆者手帳がなければ被爆者と認めないという原則を、在外被爆者に関しては変えていくべきだ。在朝被爆者との連帯も深める必要がある。(中島竜美、フリージャーナリスト) [朝鮮新報 2006.3.3] |