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米国は本質を見極めよ イランの核開発、朝鮮とは違う

中東の大国として

 ウラン濃縮をめぐるロシアとイランの交渉が予想通り平行線をたどっている。

 このあと、3月6日からのIAEA(国際原子力機関)があらためて国連安保理への付託を決め、舞台は安保理に移ることになろうが、安保理が経済制裁を発動したくても常任理事国の足並みがそろわず、イランの核開発を止めさせる手立てがないという手詰まり状況に変わりはない。

 イランはウラン濃縮を自国内で実施し、核開発技術を取得し、「核燃料サイクル」を確立することが目的で、この基本政策を変更する意図は全くない。目指すは、核保有国となり、中東の大国としてにらみを利かせ、米国主導の中東民主化≠阻止することにある。

 その背景にはイスラム原理主義にもとづく独自の世界観と価値観がある。イランは人口7000万、紀元前500年いらいのペルシア王国の伝統を受け継ぎ、1979年、イスラム革命によって親米のパーレヴィ王朝を打倒してからは、宗教国家として欧米のキリスト教文明に対峙する存在となっている。サミュエル・ハンティントン教授が冷戦終結後の世界に出現すると予言した「文明の衝突」の一方の旗頭なのだ。

 しかも、中東ではサウジアラビアに次いで第2の産油国、確認埋蔵量では原油も天然ガスもロシアに次いで世界第2位だ。日本は原油輸入の15%をイランに頼っているうえに、アザデガン油田の開発権を取得、とうてい経済制裁には同調できない。拒否権をもつ安保理常任理事国の中国もすぐ南のヤダバラン油田の採掘権を確保、液化天然ガスの輸入も増大しており、イラン依存度を強めている。

 そうした先進国、石油消費国の弱みを知り、読み込んで、イランは強気に出ているわけだ。

 そのイランは、将来、石油資源が枯渇したあとのエネルギー源の確保にあると、核開発の理由づけをしているが、それがいまひとつ説得力をもたないのは、資源枯渇は少なくとも数十年先の話であり、真の意図を隠しているからだ。

米主導のNPT体制

 原子力平和利用、つまり原子力発電は巨大ハイテク産業で、原子炉設計、建設、運転には10年の歳月と数十億ドルの資金を要するが、国内にウラン資源があり、採掘、転換、濃縮、燃料加工、さらに使用済み燃料再処理(プルトニウム生産)の技術を取得すれば、いつでも軍事転用、つまり核弾頭生産が可能である。これを阻止するために、核兵器保有国はNPT(核拡散防止条約)加盟国にIAEAの査察受け入れ(保障措置)を義務づけているわけだ。その代わり、NPTは第4条で平和利用(発電)の権利を保証しているのだが、米国はさまざまな口実をもうけて、一部の国には認めようとしないのだ。

 このため、NPTに加盟せず自力核開発をした国(インド、パキスタン、イスラエル)、NPTに加盟しながらIAEAに未申告の施設で核開発をしている、あるいはしたとされている国(イラン、朝鮮現在は脱退=A過去に南アフリカ)、一時試みて断念した国(イラク、リビア、ブラジル、アルゼンチン)などがあり、NPT体制は機能せず、空洞化している。

 その原因は、NPTそのものが米国主導で5カ国の核兵器保有を既得権として認めている不平等条約であることにある。この点がインドの核開発の最大の理由だったのだが、ブッシュ政権はそのインドと原子力平和利用協定を結んで、インドを事実上の核保有国として認めようとしているのだから、身勝手も甚だしい。

 ちなみに日本はNPT加盟の模範生で、全施設をIAEAの保障措置下において平和利用に徹しながら「核燃料サイクル」をほぼ確立した世界唯一の非核保有国だが、燃料として再処理したものの、燃料消費のメドがたたず、未使用のプルトニウムが貯まる一方で、核武装を企図しているのではないかと海外から疑惑の目で見られているのは衆知の通りだ。米ロ英仏中の核兵器保有国はすべて「核燃料サイクル」を国内で確立している。

国交正常化に応じよ

 以下、イランと朝鮮を比較してみよう。

 唯一の共通点は、ともにNPT第4条の「平和利用の権利」を主張していることだが、両者の思惑は根本的に異なる。イランは冒頭で述べたように、あくまでも「核燃料サイクル」の自力開発を通して核保有を目指しているのに対し、朝鮮は、平和利用を唱えながら寧辺で使用済み燃料を再処理してプルトニウムを抽出、ある程度溜め込んだ段階で核保有宣言をして米国を交渉のテーブルに引き出す「手段」に利用、その交渉戦術が功を奏して北京の6者協議開催につながっていることだ。

 朝鮮にとって、「核」は貴重な対米交渉のカードだ。イランと違って石油が一滴も出ない朝鮮が超大国の米国と対等に渡り合えるのは、ひとえに「核」がもつ神通力にある。記録で検証するかぎり、金日成主席は、すでに1950年代に原子力平和利用に着目し、大量の留学生を旧ソ連に派遣して基礎研究に当たらせて国産原子炉製造に着手したが、IAEAに未申告の施設でプルトニウム生産を始めたとすれば、それが対米交渉のカードとして政治的に利用できたからだ。米国が対朝鮮敵視政策を改めていたら、その必要もなく、朝鮮の核問題解決がこれほど長期化することもなかったであろう。

 しかし朝鮮半島の非核化は主席の遺訓であり、金正日総書記もこれを再三、確認、昨年9月19日に合意された6者協議の共同声明にも謳われている。イランとの最大の違いだ。

 朝鮮は、軽水炉提供を条件に核兵器と既存の核計画を放棄することに同意しており、確認されているかぎり、再処理(プルトニウム生産)しかしておらず、ウラン濃縮には手を染めていない。ブッシュ米政権は、イランと朝鮮の違いを見極めて、6者協議を通じて米朝国交正常化に応じ、朝鮮半島非核化に協力すべきである。(吉田康彦、大阪経済法科大学教授、元IAEA広報部長)

[朝鮮新報 2006.2.27]