〈3カ月の朝鮮取材を終えて〉 緊張高まる朝鮮半島情勢 |
厳しさ増す対米、対日世論 4月下旬から3カ月あまり朝鮮に滞在し取材活動を行った。北南関係をはじめとして、対米、対日関係など慌しく動いた内外情勢をふり返りながら、滞在期間に見た現地の様子を報告する。 北南関係冷え込む
昨年、「第2の6.15時代」という新たな発展の局面を迎えた北南関係は、今年に入り紆余曲折を経ながらも概ね順調に進展してきた。 6月初め、済州島で開かれた北南経済協力推進委員会第12回会議では、「軽工業および地下資源開発協力事業に関する合意書」が採択された。 6月末には金剛山で離散家族の特別面会が行なわれ、日本人拉致被害者・横田めぐみさんの夫であった金英男さんが南に住む家族と28年ぶりの再会を果たした。双方の思惑が複雑に絡み合ったこの問題を、離散家族再会事業の枠組みの中で「朝鮮戦争とそれ以降の時期の行方不明者」として解決したことは、北南人道主義事業におけるひとつの大きな成果にあげられる。 6.15北南共同宣言発表6周年に際して光州で開催された民族統一大祝典も、統一への熱い思いを内外に誇示した意義深い行事となった。 しかし、7月5日の朝鮮のミサイル発射訓練を巡る国際政治の動きは、北南関係にも影響を及ぼした。
朝鮮側はミサイルの発射について、「自衛的国防力強化のために行った通常の軍事訓練の一環」「主権国家としての合法的権利」(6日、外務省スポークスマン)だと主張、圧力を強める米国や日本との対決の構図が浮きぼりになり、緊張は一気に高まった。 朝鮮に対する「制裁決議」を巡って国連安保理を舞台に各国の駆け引きが続く中、釜山で閣僚級会談が開催されたが、次回開催日程も決められないまま終わった。コメ、肥料支援、離散家族再会などの人道事業も中止に追い込まれるなど、北南間の対話と接触は凍結状態にある。 米国に追従した日本は、ミサイル発射への対抗措置として9項目からなる制裁を発動するなど、事態をより激化させる方向に進んだ。 とくに「万景峰92」号の入港禁止措置については、「在日同胞の祖国往来の道を閉ざす非人道的な措置」「ミサイル発射と全く関係のない卑劣な行為」といった非難の声が朝鮮国内の広範な階層から巻き起こった。 また、日本国内で相次いで起こった朝鮮学校生徒に対する暴力、脅迫事件について朝鮮赤十字関係者らは、「一番弱い立場のこどもたちが標的になるのは許せない。日本には人道、人権の感覚がないのか」と怒りをあらわにした。市民の間でも、朝鮮に対する排他主義的な感情を反映した「テロ行為」だとの認識が広がっている。 現役閣僚による「敵基地先制攻撃」発言など、戦争前夜を思わせる日本の状況に、市民の対日感情はかつてないほど厳しくなっている。 「科学技術強国」目指す 一方、国内経済に目を移してみると、経済状態の上向きの流れが確固たるものになっているという認識が一般的だ。現在は農業、エネルギーなどの緊要な経済問題を優先的に解決する一方、情報産業時代のニーズに合わせた科学技術の発展を推し進めている。 4月中旬に開かれた最高人民会議では、「強盛大国建設の各部門で全面的攻勢を繰り広げて、経済発展と人民生活向上において決定的転換を起こす」(朴奉珠総理の報告)ことを内閣の最重要課題として打ち出した。 「全般的経済活性化の鍵」と目されている金属工業部門では、国内の主要な工場、企業所で生産設備の改造、現代化が進められている。 国内最大級の製鉄所である黄海製鉄連合企業所は、昨年100トン電気炉を新たに導入したのに続き、今年に入り一部の溶鉱炉とその関連工程を同時に現代化する作業に着手した。同企業所のキム・チュンゴル技師長によると、製鋼工程を集約化し経費を最大限低くする一方、老朽化した設備を一新し先進技術を取り入れることによって生産物の質を高めていく計画だという。同時に製鉄工程も現代化し、製鋼と製鉄のバランスを維持することにも注意を払っている。 「エネルギー消費量の節約と実利に合った経営方式の構築」が目下の課題だとキム技師長は話した。 一方、昨年豊作に沸いた農業は今年も経済の中心課題にあげられている。最高人民会議でも、「生産を決定的に高め、食糧問題を円満に解決しなければならない」と、その重要性が強調された。 天候の影響により、一部の地域で田植えの時期が遅れるというアクシデントはあったが、現場はいたって楽観的な雰囲気だった。 朝鮮では近年、「農業の科学化、情報化」を推し進めた結果、昨年は穀物の増産において大きな成果が達成された。 6月上旬に訪れた平安南道文徳郡リプソク協同農場は、多収穫品種や先進営農技術を積極的に導入するなど、農業問題の解決に向けたさまざまな対策を講じていた。新しい試みが実を結んでいるとあって、農場員らも意気軒昂といった感じだった。行政と科学者、生産現場による一致した取り組みが農業に新しい風を吹き込んでいるとの印象を受けた。 農業部門に限らず、近年朝鮮では経済発展における科学技術の重要性が強調されている。今年の最高人民会議では、初めて科学技術発展に関する問題が単独の議題として提出され、2022年まで朝鮮を「科学技術強国」の地位に押し上げることが宣言された。 内閣は国家科学院の役割を高め、人材の育成に力を注ぐ一方、「科学技術と経済に対する統一的指導管理システム」を構築中だ。同部門への投資額も増加している。 国の「中核基礎技術分野」として注目を集める情報通信、ナノ技術、生物工学の研究成果もメディアを通じて盛んに紹介されている。 目下のところ基幹工業部門の現代化という、90年代に先送りにされた課題が残っており、食糧問題やエネルギー問題の解決も切実だ。依然として不足しているものも多いが、経済の活性化と人民生活の向上のための土台が着実に築かれていることはまちがいない。 復旧活動に全力 7月中旬から下旬にかけて朝鮮を襲った大雨は、全国各地でじん大な人的、物的被害をもたらした。 7月17日現在の統計によると、水害による犠牲者は全国で549人にのぼり、行方不明者が295人、負傷者も3000人を超えている。約2万4000町歩(1町歩は約1ヘクタール)の農耕地が被害を受けるなど、農業への影響も懸念されている。 今回の水害により、大マスゲームと芸術公演「アリラン」は来年4月に延期された。14日から平壌で開催される予定だった「8.15民族統一大祝典」も中止となった。 南や日本の一部では、犠牲者1万人以上などと被害状況を伝えているが、あまりにも誇張された数字だ。 被害の規模は決して小さくないが、被害発生直後から国を挙げての大規模な支援活動が行われ、復旧は急ピッチで進んでいる。 7月末に訪れた平安南道成川郡でも、全国規模の支援活動に力を得て復旧活動に精を出す地域住民の姿があちこちで見受けられた。(李相英記者) [朝鮮新報 2006.8.11] |