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朝・日国交正常化会談朝鮮側団長 宋日昊大使 本紙単独インタビュー 「過去の清算、一歩も譲れぬ」

 4〜8日に北京で、3年3カ月ぶりに開かれた朝・日政府間会談朝鮮側代表団長の宋日昊・外務省朝・日会談担当大使に話を聞いた。(金志永記者)

制裁には物理的対応

−今回の会談に対する評価を聞かせてほしい。

 会談で朝・日双方は互いの立場をよりよく知ることができた。朝・日平壌宣言の基本原則に従い両国の関係が改善されなければならないとの認識も再確認した。

 全体としては日本も会談が有益であったとの認識を持ったようだ。もちろん、今回の会談は互いの一致点よりも相違点がより多く確認されたといったマスコミの報道を知らないわけではない。

 朝鮮側としては、日本側がもう少し誠意ある準備をしたうえで会談に臨むべきだったと思う。従来の立場を繰り返し、それが世論になることを目的に会談に臨むなら、どんな問題も解決できない。

 現在、朝・日両国は敵対関係にある。そのために多くの問題が未解決のまま残っているが、これを解決するには朝鮮側の努力だけではダメだ。日本も誠意を見せるべきこと、努力すべきことがある。

 拉致問題を解決するために、朝鮮はできることは、最大限能力を発揮してできるよう努め、誠意を示してきた。日本側の主張は死亡者を生き返らせて連れてこいということだ。

 日本側は拉致問題で何らかの進展がなければ「厳しい対応」、つまり制裁を加えるとの立場を表明したが、われわれは日本がもしそうでるなら強力な物理的対応をとると答えた。また、日本自身の歴史的課題である過去の清算を引き続き回避するなら、われわれも厳しい対応をせざるをえないと伝えた。

 もちろん、国交正常化を目標にした会談での討議がこのような流れになってはならない。実際に提起される問題を解決し関係を改善するためには、相違点をあと回しにして共通点から見つけねばならない。現時点では朝・日が敵対関係にあるだけに、できることとできないこと、やりやすいこととやりにくいことを分けて、一つずつ方法論を見つけねばならない。

−会談で日本は「拉致問題の解決なしに国交正常化はありえない」との論理を再び展開したようだが。

 明確にしておくが、われわれは拉致問題を解決して経済協力や、いかなる政治的代価を得ることも期待したことはない。

 今まで拉致問題解決のために誠意ある努力を傾けてきたが、それは拉致という行為自体が悪いことだと承知しているからこそ良心的、道徳的に行動したまでだ。

 今回の会談はもともと、実務接触の過程で日本側が提起した内容に基づいて準備された。日本側は過去、朝・日政府間会談で拉致問題だけを論議してきたため過去の清算問題は実質的に深く討議できなかったとして、会談が再開されれば過去の清算、拉致、安保の3つの分科に分けて討議しようと提案した。自分たちも過去の清算問題に誠実に取り組むと語った。

 にもかかわらず、今回の会談の性格も拉致問題を討議する場になってしまい、再び原点に戻らざるをえない状況だ。拉致問題に関する国内世論、強硬勢力の圧力を考慮し、この問題を重点的に協議する場を設けるため、われわれに「過去の清算に対する誠意」について述べたのではないかとの疑いすら持っている。

遺骨鑑定の真相解明を

−拉致問題と関連した日本の主張について。

 日本は今回の会談で「生存者の帰国」を求めたが、過去何度も調査活動を行った結果として、該当する拉致被害者たちが死亡した事実が確認されている。すでに日本政府関係者らは死亡と関連した目撃者らと平壌で会って彼らの証言を聴取し、問題解決のための朝鮮側の誠意と努力に謝意を表したいきさつがある。

 にもかかわらず、ここに来て「生存者の帰国」を持ち出したのは理解できない。「真相究明」も同様だ。われわれは資料と遺品をすべて提供し、それに関して説明もした。

 「実行犯引き渡し」と関連して持ち上がっている「辛光洙問題」についても、すでに以前、「旅券所持法違反」問題と関連して日本側に通報したが、その時には日本は引き渡しについて持ち出しもしなかった。日本側がわれわれの通報内容を十分に了解したからだろう。

 だが、今回突然、彼(辛氏)が横田めぐみさんの拉致に関与したかもしれないとの「証言」が出たことで、それを根拠に主権国家の公民を引き渡せというが、話にもならない。拉致に関与したとの証言者が誰かもわからないし、その証言者をわれわれが直接確認しなければならない。ウソを流布する目的を明らかにする必要がある。

 ただし全体的には、拉致問題解決のためのわれわれの誠意と努力を日本も知っており、遺骨問題に関して数多くの疑惑が浮上していること、つまり拉致問題は解決されたとの朝鮮側の主張が立証できる状況ができている。こうした中で、ある勢力が「新たな拉致問題解決」を持ち出してきた。

−朝鮮側が横田めぐみさんの遺骨鑑定の真相解明を優先させなければならないとする根拠は何か。

 過去の経緯を見るかぎり、われわれが日本に対して誠意を持って対応すればするほど、疑問点がより大きくなり、新たな問題点がより多く提起されるとの結論に到達せざるをえない。

 そのためわれわれは、これまで解決された問題、進行状況を念頭に置いて、ここで提起された問題から解決されなければならないと主張している。それが横田めぐみさんの遺骨鑑定の真相解明だ。

 まず、鑑定を担当したという帝京大学元講師の吉井富雄氏と朝鮮の鑑定家たちが面談し、鑑定結果に対する検証作業が実現されねばならない。

 遺骨も返還されなければならない。日本が「偽物」と断定した以上、所持する必要がない。われわれは平壌にいる遺族に遺骨を返さなければならない。彼らもそれを要求している。

 再び強調しておくが、遺骨鑑定の真相が解明されないかぎり拉致問題を取り巻く状況はいつになっても収拾できない。

「財産」で論じられない

−過去の清算問題はどのように討議されたのか。

 日本の過去の清算は両国関係を改善するうえで核心的な問題だ。この点においては一歩も譲れない。

 日本が行うべき過去の清算は大きく3つ。

 第一に、日本が植民地時代に朝鮮人民に被らせた人的、物理的、精神的被害を補償すること、第二に在日朝鮮人の地位問題を解決すること、第三に略奪した文化財を返還することだ。

 一番目の補償問題に関しては、平壌宣言ですべての財産および請求権を放棄するとの内容が示されており経済協力方式で解決できる。だが、これはあくまで過去の物質的被害に対する金銭補償の性格と同じだ。

 植民地時代の強制連行と虐殺蛮行、「従軍慰安婦」問題などは別途計算されなければならない。人間は財産ではない。平壌宣言で示された財産および請求権の放棄は、国家や個人が所有した財産を取り戻す権利を放棄するということだ。しかし、前で述べたような日本帝国主義の人権蹂躙犯罪に時効はなく、財産問題のように論じて経済協力方式で解決できるものでもない。

−過去の清算問題に関する分科会談では在日朝鮮人の地位問題も深く討議されたようだが。

 在日朝鮮人の地位問題は、実際に日本に住む同胞たちに迫害が加えられる問題なので至急解決されなければならない。国交が正常化される前にでも解決すべきだ。日本側もそれを認めるからこそ、小泉首相が2004年5月の2回目の訪朝時に在日朝鮮人を差別せず、友好的に対すると述べ、総連第20回全体大会に同様のメッセージを送ったと思う。

 在日朝鮮人が日本に住むようになった歴史的経緯、彼らが置かれている現在の社会的状況を考慮するとき、ほかの一般在日外国人とは区別される特別な地位が与えられなければならない。「特別待遇」のなかには、在日朝鮮人の尊厳と民族性の保障、日本社会での安全で安定した生活の保証などが含まれる。

 われわれが朝・日会談を行う目的は、在日朝鮮人の実際の生活とはかけ離れて考えられない。国交正常化がすぐに実現されなくても、在日朝鮮人の地位問題は一瞬たりとも忘れてはならない。今回の会談では在日朝鮮人の地位問題と関連した討議に特別多くの時間を割いた。われわれは今後もこの問題をわれわれ自身の最優先課題として、日本との交渉に断固たる立場で臨むだろう。

全同胞の期待に応える

−朝・日会談担当大使に任命された感想と今後の抱負について聞きたい。

 たいへんな重責を担ったと思っている。この任務を果たすために、すべての知恵と能力を発揮する決意でいる。祖国と海外に暮らすすべての同胞たちの期待に沿えるよう一生懸命がんばりたい。

 朝・日関係改善のための会談であるだけに、総連のアドバイスと助けを積極的に受けることが大切だ。日本で活動する活動家の意見、同胞たちの生活体験を尊重してこそ、会談でも良い結果が得られると思う。

 異国の地で民族の魂を抱いて暮らすことは決してやさしいことではない。われわれは総連と在日同胞がつねに信念を持って愛族愛国運動を繰り広げることを確信している。朝鮮代表団は、そのような同胞たちの姿に力を得て、今後も自分たちの使命に忠実に精いっぱい努めていくつもりだ。

[朝鮮新報 2006.2.14]