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〈教室で〉 西東京第2初中 音楽 鄭成姫先生

ウリハッキョを歌声あふれる学校に

 全校生徒32人。東京都町田市の西東京朝鮮第2初中級学校で、初級部1年生から中級部3年生まで全校生徒の音楽の授業を受け持つ鄭成姫先生(29)は、音楽を通して生徒たちの「民族の心」を育てるため日々奮闘している。

 鄭先生は、生徒たちが「朝鮮の本物の芸術」に触れられるようにと、金剛山歌劇団による「特別課外授業」を組み、中級部男子生徒全員での民族打楽器重奏や、タルチュム(仮面舞)はじめさまざまな農楽にもチャレンジするなど、「民族色豊かな」取り組みに励んでいる(中級部男子生徒全員による民族打楽器演奏は、昨年、本校初の在日朝鮮学生中央芸術コンクール優秀作品に選ばれた)。

「国語」の授業?

 初級部3年生の児童たちは、鄭先生のピアノの音に合わせて、「ドドドド、レレレレ、ミミミミ、ファファファファ…」と、手の高さで音程を示しながら音楽の授業に参加していた。

 「あれはハンドサインと呼ばれる動作。3年生の1学期は、楽譜のドレミを歌える(読める)ようにするための大事な過程なので、音を耳だけではなく、体で覚えるための訓練もしている」と、鄭先生はいう。

 鄭先生の授業では、音楽の基礎知識はもとより、「民族的」な要素がふんだんに取り込まれている。ピアニカを吹かせても、曲のリズムを活かして「チャンダン」を意識させたり、新しい歌を習うのに「国語」の授業さながら先生に続いて歌詞を音読し、単語の意味をかみ砕き、曲を聴く前に歌詞から歌のイメージをつかませる。

 鄭先生の「これは、どんな歌でしょう? 怖い歌? 楽しい歌? おもしろい歌?」との問いかけに、児童たちは「楽しくて愉快な歌!」と声をそろえる。

 曲のイメージをつかめたところで鄭先生は初めてその歌を聴かせる。軽快なリズムに合わせて首を振る児童たち。先生に続いて、2小節、4小節ずつ歌う児童たちは、すぐに曲に親しんでしまった。

 リズム遊びの場面では、児童たち自身が主役になって、新しく習った歌の手拍子の打ち方を研究する。「パチ うん パチパチ」「パチ うん パチ うん」「「パチ うんうん パチ」の3通りの手拍子から、歌の導入部分と中間、おしまいの部分のリズムの取り方を相談しあう。生徒数は少ないものの、ほのぼのとした授業風景から鄭先生の細かい心遣いが感じられた。

高い向上心

ドレミの音階を手で表現

 学生時代から大の音楽好きで、いずれは音楽教師になりたいと考えていたという鄭先生。音楽に関する教育学を専門的に学んだのは朝大研究院のとき。国立音大で1年間聴講し、日本のゼミやセミナーにも積極的に参加した。リトミック(ダルクローズ)、コダーイ、オルフの3大音楽教育にも関心を寄せ、魅力ある世界に引き込まれていった。

 その向学心は教壇に立ち6年経った現在でも衰えず、セミナーに参加するため箱根まで足を伸ばしたり、サークル活動で名を馳せている神戸朝高吹奏楽部の演奏会を聴きに行ったり(以前、この企画で取り上げた)、横浜朝鮮初級学校音楽講師の崔玉姫先生の授業を見学に行ったり、都内の朝鮮学校音楽教師たちとの授業研究に出向いたりと休むことを知らない。

 鄭先生は、教員生活6年間をふり返り、「あらためてここの生徒たちは私からしか音楽の授業を受けないことを実感した」と話す。初級部1年生の音楽を初めて受け持ったとき、「この子たちに最初に朝鮮の歌を教えるのは私なんだ…」と感動を覚え、中級部の授業では、アジアの民族音楽や民謡、オペラまで幅広く取り上げる中で、「音楽の授業を通して子どもたちに広い世界を伝えられるのがうれしい」と感じたという。

生徒に寄り添い

楽しいリズム遊びのようす

 「ウリハッキョを歌声あふれる学校にしたい」と願う鄭先生は、音楽の授業を通して各学年各クラスをよく観察している。「歌を歌う、声を出すというのは人の心と直結している。歌声が明るく、全員が元気よく声を出しているクラスは友だち関係が良い表れ」。

 歌がうまい、下手というより、歌うことが大好きな子ども、ウリノレを思いっきり歌える子どもになってほしいと、鄭先生は望んでいる。

 そんな思いから鄭先生は、「初、中級部生が一緒に歌える歌を−」と、4年前に全校生合唱曲の創作を思いついた。詩作は生徒に任せ、自身は作曲をした。できあがった曲は毎年学芸会で披露されている。今年2月の同校60周年記念行事に先立ち、学校創立当時の話を聞いた生徒からは、「ウリハッキョはぼくらの家」という歌詞が生み出され、鄭先生の胸を熱くした。合唱曲を子どもたちが声高らかに歌う姿に鄭先生は毎回涙が出るという。

 また、少年団活動のひとつとしてクラス対抗歌合戦を催し、自分たちの好きな歌を楽器をならし、踊りながら、思いっきり発表させているほか、学期毎の音楽試験を録音し、生徒たちの歌声の成長記録も取っている。「中1と中3の卒業時ではまるで別人! すごく変わるんですよ!」と、鄭先生はうれしそうに語る。

 卒業するときには生徒一人ずつに自分の歌声と、最後の試験で歌ったクラス全員の声をMDに録音してプレゼントする。そこには、母校での音楽の思い出をいつまでも大切にしてほしいという鄭先生の願いが込められている。

 「確かにちょっと大変なんですけど、人数が少ないからこそやってあげられることなので」と笑顔を見せる。生徒一人ひとりに寄り添う姿勢から、たっぷりの愛情を感じた。(金潤順記者)

※1977年生まれ。横浜朝鮮初級学校、神奈川朝鮮中高級学校、朝鮮大学校師範教育学部音楽科、同大研究院予科2年卒業後、西東京朝鮮第2初中級学校音楽教師。02年模範教員、04年度中央教研論文賞(集団)受賞。初級部5年担任。

[朝鮮新報 2006.9.2]