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〈教室で〉 横浜初級 音楽 崔玉姫先生

笑顔あふれる体験型授業

 神奈川県横浜市の横浜朝鮮初級学校。3階の音楽室に近づくと、児童たちの競うようなリコーダーの音が響いてくる。教室には「八」の字型に机が並べられ、真ん中はトライアングル型の「広場」となっている。

ピアノを弾きながら指導する崔先生

 崔玉姫先生(48)がピアノの鍵盤を「ジャン、ジャン、ジャ〜〜〜ン」と叩くと、5年生の児童たちは音に合わせていっせいに礼をする。

 まずはピアノの軽いリズムに合わせてジャンプをしながら体をほぐす。

 「お・し・り」と先生が言うと、児童たちは「キュ〜ッ!」と声を合わせてお尻をしめる。「下っ腹」と先生。児童らは「ボン!」と下腹を手のひらで叩いて緊張させる。「顔」というと、「ウィ〜ン〜〜〜ナァ〜」と笑顔を作る。呼吸ピッタリ。乱れる者は1人もいない。

 崔先生は、「ウィン〜ナァ〜」と発音する際に、鼻腔と咽喉を大きく開けて声を響かせるコツを教える。そのまま発声練習に。崔先生の指示通り、児童たちは高く、低く声を響かせる。

みんなノリノリ

歌、踊り、チャンゴのグループ別に音楽を表現する

 この日の音楽鑑賞は、ブラームス作曲の「ハンガリー舞曲第5番」。

 音楽鑑賞といってもじっと座って聴くのではなく、「目の前にオーケストラがいると想像して」指揮をしながら鑑賞する。

 崔先生は2拍子のリズムの取り方を丁寧に指導し、曲の場面により、やわらかかったり、激しかったり、高くて軽かったり、粘りっこかったりする音を指先で「指揮」しながら表現してみせる。

 先生の指先を見ながら今度は児童たちだけで。曲を知っている子とそうでない子とでは、指先の動きにズレがある。しかし、どの子も曲をしっかり聴き、音を手先で表現しようと必死になっている。真剣な眼差し。かすかな緊張。テンポが速まったりゆっくりしたりするたびに、子どもたちの顔に緊張と笑みが交差する。

音楽鑑賞は「指揮者」になったつもりで

 朝鮮の童謡「小川」を歌うときには、崔先生は「後半部分はあるチャンダンにぴったり。何のチャンダンかな?」と児童の興味を引きつける。

 唄いながら、聞きながら、「チャンダン」を考える児童たち。

 唄い終えて、「わかった人!」と崔先生が声をかけると、「はい!」と元気良く手が挙がる。

 指名された児童は中央の「広場」に立ち、チャンゴを叩きながら歌を唄う。叩いているのは「アンタン チャンダン」だ。

 授業のおしまいには、歌と、踊りと、チャンゴのチームにそれぞれ分かれて、「オンマがうれしく笑ったら」「王様カボチャ」を楽しく表現した。

「楽しくまなくちゃ」

 崔先生の授業には「体験」がたくさん散りばめられている。「音楽は子どもたちの情操教育のひとつ。朝鮮学校ではこれに加えて、民族的な情操を養うことも重要な役割となっている。自国のものを好み、すばらしいと思う感情は、他のものを拒絶したり、見下したりすることではないはず。音楽を通して、朝鮮のものを楽しい、好きだ、と思ってもらえたら。そして、その気持ちをずっと持ち続けてもらえたら」と、熱く語る。

 初級部1年生から6年生までの音楽の授業を受け持つ崔先生は、「集中力が長く続かない低学年であるほど、手遊びや踊りなどの身体表現を取り入れる工夫が必要」と考える。

 低学年の授業では、音楽室の中央にある「広場」に5本のひもを川の字のように並べて、児童自身が「音符」になって音楽を表現する授業も行われる。そうした身体表現に幼いときから慣れ親しんでいるためか、この日の5年生の授業でも「ノリ」はバッチリ。先生が無理矢理「やらせ」ているのではなく、児童たちが「楽しんで」表現しているのがよく伝わってきていた。

向上心を持ち続け

 さまざまな工夫が凝らされた崔先生の授業の裏側には、20代の頃から興味を持ち学び続けている「リトミック」が生かされている。

 リトミックとは、スイスの音楽教育家エミール・ジャック・ダルクローズが考案した音楽教育法で、リズムや音に対する人間の身体的な反応・行動に着目し、リズムを身体の運動によって把握させようとするもの。

 「一言でいえば音楽の視覚化。音楽を目で見るように体を使って表現する。それを民族教育の目的に合わせてかみ砕いた」

 大学で2年間学んだだけで満足していては「教育者として枯渇してしまう」と考えた崔先生は、現在も学び続け、朝鮮学校の音楽の授業以外にも、地域の1歳児以上の幼児を対象としたリトミック教室などのボランティア活動にも積極的に取り組んでいる。

 「自分の力が朝鮮学校の枠の中だけではなく、日本の人たちにどれだけ通じるか知りたくて」

 「遊び」の中にも音楽の基礎知識がぎっしりつまった崔先生の授業に学ぼうと、同校に足を運ぶ後輩教師も少なくない。

 崔先生は、「教育は、人の人生に深く関わる仕事であるだけに、怖いくらい責任を感じている。最後まで、誠実にまっとうできれば」とまっすぐな眼差しを向けた。(金潤順記者)

※1958年生まれ。横浜初級、神奈川中高、朝大師範教育学部(当時)音楽科卒業。川崎初中で8年、その後横浜初級で教壇に立つ。南吉田小学校母語教室講師。文芸同神奈川支部副委員長兼音楽部長。在日同胞歌謡など多数作曲。代表作に「バスに乗って電車に乗って」「風よ吹け」「いち、に、さん」「ウリハッキョの青い木」。

[朝鮮新報 2006.6.17]