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〈性教育は命の教育(下)〉 兵庫県朝鮮学校保健活動報告 「生まれてくれて、産んでくれてありがとう!」

初級部低学年の授業紹介

1年生の授業では人形を使って説明する

 1年生の授業ではまず、からだ各部位の名称と「プライベートゾーン」を守る必要性をキャラクター人形を用いて生徒の興味をひき、わかりやすい言葉で教えている。1年生の主題は「パンツをはく意味がわかる」というもので、パンツをはいていないミッキーマウスを登場させ、どこがおかしいか生徒に発言させる。

 また、知らない人に声をかけられ、連れて行かれそうになったときは、大声で助けを求め、逃げることを教え、一人ひとりに前に出て実践してもらっている。ちなみにこのときの知らない変な大人の役は、看護師が担当している。どの学校でも低学年では授業の反応が良く、発言も活発に見られる。

 2年生の授業では、当日の授業までに、各家庭で準備を必要とする。まず、右側に「元気に生まれてきてくれてありがとう」という感謝の気持ちをこめて、親が妊娠出産時の様子やおなかの子どもに対する思い、出産時の感動や周囲の家族の喜んだ姿を書いてもらい、次に、生まれた時の子どもの身長、体重を中央に書いて、当時の写真を張り付ける。左側には「大切にうんでくれてありがとう」というタイトルで、子どもが感じたことを書き入れる。これを授業当日に一人ひとりが前に出て発表する。

 親子が向き合い、家族愛を確認する作業ができることを目的としている。

 3年生では、一番身近で小さな社会単位である家庭で、子どもたちがどんな役割を与えられ、またがんばっているかを書いてもらっている。親からは子どもの名前の由来と、家庭で子どもががんばっている様子を書いてもらい、名前に込められた親の思いを実感し、また、子どもは認められているほこらしさを感じてもらえるようになっている。

 これを、授業では生徒一人ひとりが前に出て発表している。最近ではウリハッキョにおいても離婚家庭が増えていることから、担任の教員からの情報をもとに、そのような家庭の場合は、保護者欄は保護者なら誰が書いても良いことになっており、写真も時期を限定していない。

おわりに

 このように私たちは担当看護師制を維持し、発展させながら、ウリハッキョの保健活動を展開してきた。しかし、学校へ出向き、環境点検や性教育授業を行うだけでは保健活動は不十分だと考えるようになった。そこで保護者、教員を含めた生徒を取り巻く大人たちへの交流を深め、知識や情報を共有し啓蒙することで本来の子どもの心身の健康が実現できると考えた。

 今年度の活動を通して感じたことは、看護師に接する生徒、教員、親の表情が前年度にも増してとても親しみのこもったものになってきたということだった。

 生徒たちは看護師の名前と顔を覚え、授業には興味津々の笑顔でのぞんでくれている。保健担当教員との連絡や調整もスムーズになり、看護師自身にも保健授業の醍醐味を味わう余裕も生まれてきた。

 保健授業がなく、保健室も養護教諭もいなかったウリハッキョで、いま既存の保健教育を超えた「命の教育」が着々と根をおろしつつある。

 ウリハッキョは現在、その存在すら危ぶまれるのではないかと不安になるほどの統廃合がすすみ、民族教育は在日を生きる私たちにとって、大切に守らなければならないもののひとつになってきた。また、2005年度の保健活動報告は、近畿地区看護研究学会で「ウリハッキョの看護師先生誕生!」として、12月、滋賀県の大津で発表予定となっており、広く日本社会の看護専門職者らに紹介できることとなった。

 どの時代も子どもたちは未来への宝として大切にされてきた。ウリハッキョの子どもたちも例外ではない。私たちは今後もこの活動を通し、子どもたちの健やかな成長にかかわっていきたいと考えている。

 (兵庫県朝鮮学校保健校医会看護部会=金志純1 姜順姫1 康仁順1 徐理和1 趙春香2 金秋月1 孫春美1 鄭緑仙3 福川奈津2 濱田浩子2 小泉詔子1 姜京富4。※1=看護師、2=助産師、3=保健師、4=医師)

 本文は、昨年11月に開かれた第28回医協学術報告会で発表された論文である。

●保健教育の目的と指導目標について●

学年 主題 設定理由 指導目標
初級部1年生 パンツをなぜはくの? 日常生活の中でパンツ(下着)をつけるのは、ただ単に「恥ずかしいから」というだけではない。外性器を危険から守ることは性被害から身を守るためであるということを理解させる ・パンツをはく目的がわかる
@恥ずかしいからはく
A男の子にはペニス、女の子にはワギナがあり、バイ菌から守る
・「からだは自分のものであるという身体感を育てる
初級部2年生 私が産まれた時 「自分が産まれた時」について学び、命の尊さとありがたさについて考える機会とする ・たったひとつの命を持ってこの世に産まれてきた自分の存在について気づくことができる
・親への感謝の気持ちを持つことができる
初級部3年生 家庭での自分の役割 家庭、家族内での自分とその役割を自覚し、社会の基本単位である家庭について考えることを通じ、他者(アボジ、オモニなど)から認められ支持されている自分を発見できる ・家庭で自分ががんばっていることを振り返ってみることで役割を自覚する
・家族から評価されていることを知る
初級部4年生 赤ちゃんのはじまり 5年生になれば理科や保健の授業で「からだのしくみ」や「第二次性徴」などを学習する。しかし「からだのしくみ」を学ぶことは、それぞれの発育段階に応じて、繰り返し行うべきであると考える。初級部高学年の4年生でも高学年なりの「からだのしくみ」を学習し、第二次性徴教育の前段階とする ・身体の仕組みを知る。
・赤ちゃんはどうして産まれるのかを知る
初級部5年生 男の子、女の子 第二次性徴の学習は「からだの発育と心の発達」について指導する。しかし、射精や月経の起こる理由の説明は、子どもたちにとって大変わかりにくく、自分の身体の成長や発達に不安を抱くことが多い。身体の構造を「不思議」や「神秘的」だと伝えるのではなく、「科学的ですばらしいもの」として子どもたちに正しく伝える ・男女の性器のつくりと働きについておよそわかる
・第二次性徴としての射精や月経が起きている意味がわかる
・男子、女子の相互が思いやりの心をもつことができる
初級部6年生 心の中も大人に〜好きになるのはなぜ?〜 5年生の授業で「からだの発育」を学習したが、「心の発達」も重要である。子どもにとって大変つかみにくい「心」の概念を、心の変化を子どもたちに感じてもらいながら、「脳」の仕組みや自分をコントロールすることができるようになること、人を思いやる心を育んでほしいということを伝える ・思春期の「心の変化」とはどういうことかわかり、、身体と心の成長を自覚することができる

[朝鮮新報 2006.1.23]