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〈検証 再入国問題−下〉 入管対応にばらつき はっきりとした要求を

日本の法制度でも基本的人権として承認

人権と生活権が脅かされている在日朝鮮人の立場を幅広い市民に訴える同胞青年ら(8日、国会前)

 前号で述べたように国際法上、在日朝鮮人の再入国の権利が不当に制約されてはならないことは明らかであるが、日本の国内法上も在日朝鮮人の再入国の権利は、基本的人権のひとつとして保障されていると考えられる。

 日本国憲法22条1項は、外国人にも(少なくとも永住外国人には)一時的海外旅行の自由(=再入国の自由)を保障しているものと解釈されなければならない。前述の在日朝鮮人祝賀団事件判決が「渡航の自由は、日本人のみならず日本国に在留する全ての外国人にとっても基本的な人権であるから、前示のとおり、日本国の利益又は公安を害する行為を行うおそれのある者でない限り、いずれの国向けの再入国であっても許可されるべきあり、その国が日本国の政府によって承認されているか否かによって再入国の拒否が左右されるべきではない」(地裁判決)、「或人々が本来享有する海外旅行の自由を行使することが、たとえ政府の当面の政策に沿わないものであっても、政策に沿わないということのみで右自由権の行使が公共の福祉に反するとの結論は導かれないのである」(高裁判決)と判示していることは注目に要する。

 この点、最高裁判所は「我が国に在留する外国人は、憲法上、外国へ一時旅行する自由を保障されているものでない」との姿勢をかたくなに守り続けている。永住者、短期滞在者の区別に何ら配慮することなく、外国人であるという理由だけで一律に再入国の自由の権利性を承認しない最高裁の時代錯誤な考え方は、一刻も早く是正されなければならない。

 また、入管特例法10条2項は「法務大臣は、特別永住者に対する入管法第26条の規定の適用に当たっては、特別永住者の本邦における生活の安定に資するとのこの法律の趣旨を尊重するものとする」と定めている。そして、1999年の入管法改正の際、衆参両議院の法務委員会においては、特別永住者の再入国許可制度のあり方について「政府は、次の諸点について格段の努力をすべきである。…特別永住者に対しては、その在留資格が法定されるに至った歴史的経緯等を十分考慮し、再入国許可制度の在り方について検討するとともに、運用については、人権上適切な配慮をすること(参院)」「特別永住者に対しては、その歴史的経緯等にかんがみ、再入国許可制度の在り方について検討するとともに、人権に配慮した適切な運用に努めること(衆院)」との付帯決議がなされている。

 このように、特別永住者の在留、出入国に関して特別の配慮が必要であることは、日本の国内法上も(不十分とはいえ)承認されているところなのである。

基本的人権に制限許されないとの認識を

 本稿執筆時点において、朝鮮半島情勢は核実験問題などを巡って依然緊張状態にあり、在日朝鮮人の再入国許可に対する「厳格審査」がいつまで継続されるか、予断を許さない。

 そこで、再入国許可を取得しようとする同胞たちが入管の窓口で不当な制約を強いられた場合、どのように対処すべきか、その処方箋を述べておきたい。

 まず、再入国の自由、渡航の権利が基本的人権の一つであり、恣意的に侵害されてはならないものであるという認識をしっかり持つことが必要である。

 基本的人権である再入国の権利が法務大臣の自由な「裁量」によって犯されて良いはずがない。ましてや、入国管理局の現場職員の恣意的な判断によって不当に制限されることは断じて許されないのである。

 次に、法務省本省による各地の入管に対する「指示」の範囲を、正確に理解することが大切である。

 法務省入国管理局長名義の通達によれば、一般の同胞たちに求められているのは、シングルの申請の場合には「渡航目的、渡航先、日程等」の申告、マルチの場合でも、「(2回以上の)渡航日程の提出」にすぎない。これはいずれも、本人の自己申告で十分である。

 また、朝鮮への渡航自粛要請はあくまでも「自粛」の要請にすぎず、入管当局が朝鮮への出国を差し止めることはできない。

 9月10日付の東京新聞の記事によれば、法務省は「(入管職員に)旅行計画書まで求めろとは命じていない。そういう例があったら、法務省に教えてくれれば、指導します」と述べているという。また、在日本朝鮮人人権協会からの問い合わせに対しても、法務省は「旅行会社が作成した正規の旅行計画書や、航空券の提示まで求めることはしない。本人の申告により、2回以上の出国の必要性が認められれば、マルチの許可を出す」と明言している。

 もしも、入管窓口で、旅行会社作成の正規の旅行計画書や航空券の提示を求められた場合には「法務省本省はそのような指示はしていないはずである。今すぐ本省に問い合わせてほしい」とはっきり要求してほしい。

 各地の事例でも、入管はほとんどの場合、本人の申告のみでマルチの許可に応じている。親族訪問や商用などで頻繁に海外(朝鮮、第三国を問わず)へ行かなければならない人にとって、毎回の出国ごとにシングルの許可を取得するのは、金銭的にも時間的にも大変な負担となるであろう。シングルの許可しか出せないといわれた場合には、今後も出国の必要性があることを具体的に述べるとともに「法務省本省の指示では、2回以上の渡航予定があれば、マルチを認めるよう指示されているはずである」ことを伝えると良いだろう。

 なお、これらの点は、各地の入管窓口ごとに対応にばらつきがあることが予想される。違法、不当な対応をされた場合には、決して泣き寝入りせず正当な権利主張を行うべきであるし、個人での対応が困難な場合には、すぐに在日本朝鮮人人権協会(東京都台東区台東3−41−10、TEL 03・3837・2820)などの相談窓口に連絡してほしい。(李春熙、田村町総合法律事務所)

[朝鮮新報 2006.11.17]