警視庁公安部の強制捜索による押収処分の取り消しを求め 大阪府商工会が大阪地裁に提出した準抗告申立書(要旨) |
申立の趣旨 警視庁公安部外事二課所属の司法警察員馬場祐司が、平成18年3月23日、被疑者原敕晃、洪萬植、坂本こと辛光洙に対する国外移送目的拐取、国外移送、監禁罪被疑事件について、大阪市北区中崎1丁目5番18号、ミレ信用組合5階、申立人(在日本朝鮮大阪府商工会)方において執行した押収処分を取り消す旨の裁判を求める。 1、申立人は、大阪府内に在住する、在日朝鮮人商工人らにより結成された、祖国の自主的平和統一と、在日同胞商工人の企業権をはじめとする、諸般の権益を拡大援護することを目的とする、法人格なき団体である。 2、平成18年3月23日、警視庁公安部外事二課は、いわゆる原敕晃さん拉致事件に関連して、申立人方を強制捜索し、別紙押収物件目録記載の物件を押収した。 3、しかし、以下の通り、上記押収処分は、必要性、相当性を欠く違法な処分であるので取消を逃れない。 4、申立人方と本件との関連性は全くない。 @そもそも、本件被疑事実は、北朝鮮工作員である被疑者が、上記原さんを拉致し、北朝鮮に連行した、とのものであると見られ、新聞報道やインターネット上に流布している、韓国ソウル刑事地方院の判決書などの情報等を総合すると、その犯行日時は、今から25年以上前の1980年6月頃のことと見られる。 A(場所的、組織的関連性がない) ところで、本件被疑者が申立人の会員であった事実はもちろん、現在、会員で被疑者のことを知る人物は一人もいない。唯一、本件被疑事実と申立人を結びつけているのは、被疑者の協力者であったとされる、李三俊が1978年4月から1980年6月頃まで、申立人の理事長であったことと、同じく協力者として上記判決書に氏名が掲げられた李吉炳(故人)が、1978年4月から1986年9月頃まで、申立人の会長(非専任)を勤めていた、ただその事実のみである。そして、上記判決書には、確かに李三俊が協力者であった旨記載されているが、その内容を見ても、同人が申立人の理事長であることを利用しただとか、同人が部下に何かを命令したなどの事実は、一切記載されていない。また、新聞各紙の報道により公知であるところによると、同人は、本件被疑事実への関与を一切否定しているとのことである。そして、そもそも上記判決書に掲載されている証拠を見ても、申立人と被疑者との何らかの繋がりを裏付ける客観的な物証は、全くないことが明白である。すなわち、本件被疑事実と、本件捜索押収の場所との間には、何ら組織的にも場所的にも関連性は認められない。 B(本件被疑事実と本件押収処分との間の時間的懸隔が甚だしいこと) また、すでに述べた通り、本件犯行は、すでに四半世紀前のことであるが、各種帳簿類の法廷保存期間などもとうに過ぎており、当時の資料はほとんど存在しないし、存在したとしても、本件犯行のような重大な機密行動に関する資料を被疑者が、それもあえて多数人が常に出入りする申立人方事務所内に保管するなど、ありえないことは常識以前の問題と言える。つまり、本件被疑事実と本件強制捜索、押収処分との間の時間的懸隔を見ても、その隔たりは甚だしく、本件押収処分の場所に、本件被疑事実に関連する物的証拠が存在する可能性は皆無である。 C以上の通り、本件被疑事実は、申立人となんらの関連がないし、いうまでもなく、これに関連する資料が申立人方に存在するはずがないことは、火を見るより明らかである。それにもかかわらず、一般大衆の耳目を集めるために、あえて強制捜査敢行の直前に、マスコミに対し情報をリークしてマスコミを総動員した上で、本件捜査を行い、なんらの関連性もない資料を、捜査当局は押収したものであるが、被疑事実と関連のない物件を押収することは違法であり、許されないことである。 D判例によっても「犯罪の態様、軽重、差押物の証拠としての価値、重要性、差押物が隠滅毀損されるおそれの有無、差押によって受ける被差押者の不利益の程度、その他、諸般の事情に照らし、明らかに差押の必要がないと認められるとき」には、差押えは許されないものとされており(最高裁(三小)、昭和44年3月18日決定、刑集23巻3号153項)上記の通り、本件被疑事実は、場所的にも組織的にも申立人とは関連性がなく、また被疑事実の日時と押収処分の日時との間には、著しい開きがあり、実質的にも被疑事実に関連する証拠が現存する可能性は、極めて乏しく、ましてや不特定多数人が上記来集する本件押収処分の場所に、本件被疑事実に関連する証拠が存する可能性は、皆無であることに鑑みて、また押収された物件の内容もてらしあわせて見たときには、本件押収処分は、全く関連性の乏しい資料を、申立人の不利益において持ち去ったもので、明らかに差押えの必要性がないと認められる場合に該当すると、言わざるを得ない。 5、強制捜査の必要性がない。 @ところで、いわゆる拉致問題は、戦後の冷戦状況がもたらした悲劇であり、その適切、人道的な解決は、日朝両国民の望むところであることは、言うまでもない。このことについて、申立人やその所属会員、さらに在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)とて、異論のないところである。小泉首相の2002年9月17日、訪朝の中で、その事実が明るみになってがく然としたのは、なにより在日朝鮮人たちであった。そして、拉致問題の解決を求める世論の高まりの中、朝鮮民主主義人民共和国と日本との関係が冷えきったことにより、在日朝鮮人らは、祖国に帰国した家族との行き来もままならなくなり、チマ・チョゴリの生徒に対する暴行など、いわれなき差別、暴力、偏見におののいて暮らしているのが現実である。その意味において、日本に暮らす在日朝鮮人らもまた、拉致事件による被害者なのである。 Aそして、拉致問題について、総連議長は、2002年9月22日、大阪朝高50周年記念大会における挨拶の中で「今回『拉致問題』の事実に関しては、とても遺憾に思う。半世紀もの間に深く刻み込まれた不幸な過去の傷跡を取り除き、国交正常化交渉を具体化し、一日も早く正常な関係を築かなければならない」と述べ、拉致問題の解決を望んでいる旨を公式に明らかにしている。また、総連大阪府本部委員長は、同月21日の大阪朝高50周年記念祝賀宴において、「あってはならないことだ、拉致されて亡くなられた方に心から哀悼の意を捧げたい」と述べ、拉致事件に対する、強い憤りと、犠牲者に対する哀悼の念を示しており、正しく真相を究明すべきであるとの立場を示している。 B総連の立場は、上記の通りであるから、総連及びその構成団体である申立人としては、仮に本件被疑事実に対する、任意の捜査が行われるならば、それに対して積極的に協力する用意がある。そして現に、上記李三俊も任意の取り調べを受けているものと見られるが、これに応じて捜査に協力している模様である。 C以上のような総連及び申立人の態度に鑑みるならば、あえて強制捜査を為さなければならないほどの必要性は微塵も見出せない。申立人は、拉致問題が人道的に解決されて、2002年9月17日の日朝平壌宣言にもとづいて、両国関係が改善されていくならば、諸手を挙げて捜査当局に協力するものである。 Dにもかかわらず、上述のとおり、マスコミ総動員の上で捜査当局が本件捜査に踏み切ったことは、かえって両国政府の対立を煽るものでしかない。本件捜査から約半月後には、朝鮮民主主義人民共和国の代表などが国際会議出席のために来日しているが、本件強制捜査は、このような政治状況に合わせて演じられたパフォーマンスでしかない。しかし、それによって申立人は、業務上必要な資料が持ち去られて、業務に支障をきたしているばかりか、従来親しくしていた日本の友人はもとより、会員や同胞からさえ、拉致に何らかの形で関わったかのような疑惑の目を向けられ、大変困惑しているのである。 E上記の通り、本件被疑事実と申立人との間の関連性が、極めて薄いことも合わせて考慮するならば、もしも捜査機関が必要であるというならば、任意の捜査を行うので全く十分であった。にもかかわらず、強制捜査という手法を選択したのは、明らかに相当性の範囲を逸脱した違法不当な強制捜査であると言わざるを得ない。 6、結論 上記の通り、本件押収処分は、押収物と被疑事実との間の関連性が明らかに存在せず、仮に捜査の必要があるとしても、総連も申立人も、拉致問題の早期解決を求めていることなどからすれば、明らかに相当性の範囲を逸脱した強制捜査である、と評せざるを得ず、違法不当な処分であることは論をまたない。よって、本件押収処分は、違法なものであるので、その取消を求めて、本申立を行う次第である。(添付書類省略) [朝鮮新報 2006.4.25] |