東京、神奈川の朝鮮、中華学校 寄付の税優遇からの排除などで日弁連に人権救済申し立て、理不尽な線引きに「待った」 |
東京朝鮮学園、神奈川朝鮮学園、横浜山手中華学園と学父母の会は13日、欧米系の外国人学校が受けている税制上の優遇措置(寄付金の損金、控除扱い)などを朝鮮学校や中華学校が受けられないのは差別だとし、日本弁護士連合会に人権救済を申し立てた。 永住者通う学校を排除 申立書は、「日本政府の政策は二重の基準を用いて、一部の外国人学校、民族学校に対する差別的取扱いを正当化しようとしている」とし、人権侵害の是正を勧告するよう求めている。 是正を求める具体的な内容としては、朝鮮学校と中華学校を▼「指定寄付金」制度(※1)の対象▼「特定公益増進法人」(※2)▼日本私立学校振興、共済事業団の「受配者指定寄付金制度」および「融資制度」(※3)の対象として認め▼朝鮮学校卒業生の大学入学資格(※4)を個別の審査なしに認めることを求めている。 文部科学省は、欧米系の一部の外国人学校に対して認めている免税優遇措置を朝鮮学校や中華学校については認めていない。とくに永住者が通う民族学校をあからさまに排除している。 1996年には、山口朝鮮学園が下関朝鮮初中級学校の校舎改築のために集まった募金を「指定寄付金」の対象にするよう申請しようとしたが、当時の文部省国際教育室長が「朝鮮人を育てるのを目的とする朝鮮学校は日本の公益に資するとは思えない」と反対したこともあり認められなかった(朝日新聞1997年8月7日付)。 幅広く活動、公益性ある 朝鮮学校や中華学校のほとんどは、日本政府からの補助がいっさい無いなか、運営資金の大部分を学父母や同胞らの寄付に頼らざるをえない状態にある。しかし、その寄付行為に対してまでも差別が課され「二重の苦痛」を負わされている。 神奈川朝鮮初中高級学校の禹載星校長は「在日朝鮮人3世、4世にあたる本校生徒たちが卒業後、経済、文化、スポーツなど日本社会のいたるところで幅広く活躍し、日本の活力になっているのは現実。これはまさに日本の公益に資するのではないか。国際化の流れに沿って認めてほしい」と訴える。 東京朝鮮学園の金順彦理事長は「これまで朝鮮学校の新築、改築のほとんどを同胞、学父母たちの寄付で行ってきた。教員たちが寄付金を募りに同胞の家を回ることもある」と語る。「今も多くの朝鮮学校の校舎が老朽化しており、教育資金を必要としている」が、差別が足かせになっている。免税優遇措置が差別なく適用されれば寄付も募りやすくなるという。 妨害ともとれる 文部科学省は、アメリカンスクールやインターナショナルスクールなど一部の外国人学校については、「指定寄付金」制度を適用したり、「特定公益増進法人」として認めた。しかし、生徒の在留資格などを理由に、朝鮮学校や中華学校などアジア系の民族学校を事実上排除している。 金哲敏弁護士は「主に短期滞在者の子どもを対象にする外国人学校と、日本に根ざして暮らしている永住者の子どもを対象にする朝鮮学校や中華学校との間にラインを引くのはあまりに理不尽だ。両校が日本で多様な人材を育ててきたことは事実。そのような学校を排除する日本政府の主張は断じて認められない」と指摘する。 「外国人学校の先駆的役割として、朝鮮学校と中華学校が一緒に申立を行ったことは意義が大きい」と語る李春熙弁護士は「今回の問題は学校運営に関わる問題。本来なら日本政府の責務として解決されなければならないが、日本政府は何もしないばかりか、ある意味、妨害しているとも言える。必ず是正されるべきだ」と指摘する。(李泰鎬記者) 申し立ての内容と現状 ※1「指定寄付金」制度 法人や団体への寄付金(例えば校舎増築などへの寄付金)について、所得控除や損金扱いされることで寄付行為が優遇される制度。大蔵省告示154号(1965年4月30日)は、「各種学校」への寄付行為についても対象になるとしており、実際、いくつかのアメリカンスクールやインターナショナルスクールの校舎建設などに対して適用された。だが、文部科学省は同じ「各種学校」の朝鮮学校、中華学校について認めなかった。96年に山口朝鮮学園が申請した際、文部省(当時)は「朝鮮人学校を各種学校として認められない」とした1965年文部事務次官通達を根拠に挙げ、朝鮮学校における教育を「相当の理由があるものと認めることは適当ではない」として制度適用を認めなかった(1996年8月、文部省学術国際局の文書から)。だが、同通達は2000年に国会で失効が確認されたはるか以前の1975年、すべての朝鮮学校が各都道府県で「各種学校」としての認可を受けた時点ですでに無効だったと言える。つまり、事実とかけ離れた強引な理由付けによって排除されたと言える。文部科学省は山口朝鮮学園の申請に対し「朝鮮学校は公益に資さない」とした当時の文部省国際教育室長の発言について、「そのような理由で認めなかったわけではない」としているが、発言自体については「確認できない」としつつも否定もしていない。 ※2「特定公益増進法人」 教育、科学の振興、文化の向上、社会福祉への貢献など、その活動の公益性が高いと認められる法人。一般の学校や専修学校を経営する学校法人などが指定されており、認定された法人への寄付は控除、損金扱いとなる。2003年度から「初等教育又は中等教育を外国語により施す各種学校」も含まれるようになったが、文部科学省告示第59号(2003年3月31日)において設けられた2つの要件−@「外交」「公用」「家族滞在」の在留資格を持つ子どもたちを対象にした学校であること、A教育活動について欧米の国際評価機関による認定を受けること−により、アジア系の民族学校は軒並み排除された。 ※3「受配者指定寄付金制度」及び「融資制度」 「受配者指定寄付金制度」は、私立学校の教育研究の発展に寄与するために日本私立学校振興、共済事業団を通じて寄付者が指定した学校法人へ寄付する制度。「各種学校」については適用されない。「融資制度」は、学校法人に対し施設の整備や経営などに必要な資金を貸し付ける制度。朝鮮学校と中華学校は対象外となっている。日本私立学校振興、共済事業団は私立学校の教育の充実、経営の安定、教職員の福利厚生、資金の貸付などを行っている。朝鮮学校と中華学校の教職員らは、同事業団の前身である旧私立学校教職員共済組合の時代から私学共済に加入しており、2つの制度に関してのみ差別的扱いを受ける理由はない。 ※4朝鮮学校卒業者の大学、専門学校受験資格問題 文部科学省の省令等改正(2003年)により外国人学校、民族学校卒業者に受験資格が与えられたが、朝鮮学校卒業者には各大学、専門学校による個別の入学資格審査が課せられた。受験者や学校側に負担が課せられたままとなっていたが、そのうえ、個別審査すら拒否する大学、専門学校があった。看護専門学校への進学を希望した東京朝鮮中高級学校のある卒業生は、受験の可否を問い合わせた21校のうち11校から「受験資格なし」の回答を受けた。省令改正で設けられた「国際評価機関による認定」「公的な確認」「個別審査」といったものがあいまいで、現場に正確に行き渡っておらず、新たな差別と人権侵害を生んでいる。 [朝鮮新報 2006.3.18] |