〈熊本朝鮮会館への固定資産税等免除措置〉 政治的偏見、「結論ありき」の判決、「法の論理」に従って、冷静かつ客観的に |
北野弘久日大名誉教授に聞く、熊本朝鮮会館への免除措置に関する福岡高裁の判決
熊本朝鮮会館(熊本市九品寺)への熊本市の固定資産税等の免除措置を適法とした一審の熊本地方裁判所の判決(05年4月21日)に対し、福岡高等裁判所は2日、これを覆す不当な判決を下した。今回の判決がなぜ不当であり、東京をはじめ各地でこのような動きが活発になりつつある背景などについて、日本大学法学部の北野弘久名誉教授(75)に聞いた。 −今回の判決の何が不当なのか。
まず、判決では固定資産所有の名義人が有限会社朝日商事であることを非常に強調している。同社は営利事業を行っており、公民館類似の公的活動を行っているかを論じる必要はないとまで言っている。 しかし、これは間違っている。正式には在日本朝鮮人総連合会熊本県本部が所有しているが、同本部が人格なき社団であるため、名義上そうなっているだけである。 これまでの40数年間、熊本県の全行政においても、そういう前提で免除扱いしてきたのではないか。 次に、「熊本朝鮮会館はもっぱら朝鮮民主主義人民共和国(以下朝鮮)の国益のため、在日朝鮮人の私的利益のための活動しか行っておらず、日本社会一般の人々の利益になるような活動は行っていないため、免税は適当でない」という判決の論理だ。 1964年に締結された「外交関係に関するウィーン条約」第23条では、在外公館に対する税の免除を規定しており、その趣旨を踏まえて朝鮮との国交はないが、総連をそれに準ずるものとして免税扱いにしてきた。また、1953年の自治庁(現総務省)次官通達においても、在外公館に対する固定資産税等は免除するという取り扱いが示されている。 熊本市においてもこのような趣旨から、同じように免税扱いをしてきたものと思われる。 在外公館に準ずるものと認められてきた熊本朝鮮会館が、朝鮮の国益、在日朝鮮人の人権擁護や民族活動を中心に行うのは当然であり、そのこと自体が公益性を持つ。 また、在日朝鮮人は日本社会の構成メンバーであると共に納税義務も果たし、日本社会発展のためにさまざまな面で協力している。熊本朝鮮会館では、彼らの基本的人権の擁護や朝鮮語をはじめとする民族文化を伝える事業も含めて日本社会との文化交流も行っており、これは他の大使館、領事館でも同様だ。 熊本朝鮮会館では、在日朝鮮人や熊本県民が朝鮮を訪問する際のパスポートその他の渡航手続きを行っており、これも公益性を有している。 つまり、東京の中央本部はもちろん、熊本県本部をはじめとする各地方の総連組織は、実質的に外交関係があった場合には大使館または領事館的な地位にあり、そのような理解のもとで免税扱いされてきた。 だから、熊本朝鮮会館で民族に関する資料を展示するのは当然だが、判決はそれを履き違えている。熊本朝鮮会館は普通の公民館とは違う。しかし、普通の公民館と違うところに公益性を持った在外公館的な役割を果たすところに意味がある。 ちなみに、熊本市も公民館とは言っていない。熊本朝鮮会館は、市税条例第50条1項2号「公益のために直接専用する固定資産(有料で使用するものを除く)」に該当し、市税条例施行規則第6条「公民館類似施設に該当する公共施設」であると認定している。 −不当だとする法的根拠は。 そもそもの発端は、石原東京都知事が二期目の途中から拉致問題その他の朝鮮に対する国民感情の悪化を利用して、彼の個人的、主観的な政治感情から免税扱いをやめ、それが各地方での流れとなっただけで、根拠はまったくない。本件では、熊本朝鮮会館などの利用の実態に変化がない以上、課税する根拠はない。その点、熊本市はこうした流れに惑わされず、一貫して「法の論理」に基づいて行政を行ってきた。 法理論的には、法の一般原理である信義則に違反し、課税は無効となる。 判決を見ると、パスポートの発行などは本来政府がするべきことであり、熊本朝鮮会館でやることではないと主張しているが、これに関しては、東京都でさえも公共的なものと認め免税している。 このような判決文が裁判官の名前で示されているのは日本国の恥であり、国際的にも問題になる。 −判決から受ける印象は。 朝鮮に対する政治的な偏見をむき出しにした、「最初に結論ありき」の判決だ。 裁判官は本来、「法の論理」に従って冷静かつ客観的な判断を下すべきだ。熊本朝鮮会館が、現実的に領事館的な公共施設としての役割を果たしている以上、冷静に、「法の論理」に従って免税すべきところを、政治的、個人的な感情で判決をまとめている。 このような不当な判決が出たことは一度もなく、他の裁判や行政に悪影響を与えることを憂慮している。(整理、李松鶴記者) ※北野弘久(きたの・ひろひさ):1931年生まれ。早稲田大学大学院法学研究科(憲法学)修了。大蔵省主税局・国税庁勤務後、1960年学界へ。東京大学社会科学研究所講師などを経て64年日本大学法学部専任講師。同助教授、同教授。01年名誉教授。現在、法学博士・日本大学名誉教授、税理士、弁護士。専門は税財政法、憲法。日本学術会議会員(94〜03年)、中国・北京大学客員教授(05〜)など。 [朝鮮新報 2006.2.8] |