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弓削達さんを悼む 「力に屈せず、言うべきことを言う」

弓削達さん

 クリスチャンで東大名誉教授・元フェリス女学院大学長の弓削達さんが、14日、死去した。享年82歳。

 90年の「天皇即位の礼」に際し、3人のキリスト教系大学の学長と共に大嘗祭に反対する声明を出し、元右翼団体幹部に自宅を銃撃された。その後教科書問題をめぐっても、執拗な攻撃を受けていた。当時、真夜中に、毎日のように無言電話が続いていたが、その状況を懸念しながらも、弓削さんは「暴力に屈することなく、言うべき事は言わなければ」とキッパリ語っていた。

 生前、何度もお会いして、話を聞く機会があった。日本の戦争責任をめぐる政治家たちの「妄言」を厳しく批判しておられた。

 「『慰安婦は商行為』だったとか、『強制連行はなかった』とか言い張る人たちがいるが、とんでもない話だ。日本が朝鮮や中国を侵略した事実は、どんなに隠そうとしても消し去ることはできない。その罪は決して許してもらえるものではない。戦前、日本は非常にわがままな、恐ろしいやり方で、朝鮮半島を植民地にした。自分たちがやってきたことをきちんと認識することが、朝鮮やアジアの人々と和解する第一歩である」

 「日本人は敗戦後もずっと被害者意識の中に閉じこもって、戦争加害者として酷いことをしたという意識を持てなかった。それどころか、あの当時は仕方なかったとか、学校や教会がつぶされないようにがんばってきたというように正当化する。悔いあらためるのでなく、時流に乗ってケロッとしている」

 「日本は裸になって、隣国、朝鮮半島の人々と向き合って、どうしたら平和に暮らしていけるかを考えたり、話しあったりするのでなく、米国の軍事力というお守りの中で大国面をしているだけだ。日米安保体制の見直しや沖縄海兵隊の削減要求の論議のたびに、日本政府は朝鮮半島を利用している。そして、日本人をだますのに利用している。こうした雰囲気を徹底的に批判しないと、日本だけでなく、世界にとっても不幸になる」

 これらの発言は97年当時のものだが、今の日本の状況に照らしても全く色褪せていない。いかに日本が歴史の歯車を後退させているかがわかる。

 弓削さんは97年、フェリス女学院大学を退任した後も、学生たちに「平和思想史」を教えてきた。その一方で、市民集会などで講演する機会も多く、侵略戦争や天皇の戦争責任を問う発言を続けてきた。また、学長時代には、いち早く朝鮮高校生徒の受験資格を認めて、他の私立大学に大きな影響を及ぼした。常に在日同胞の民族権利や人権について気づかっておられた。

 まっすぐな高潔なお人柄であった。心からの哀悼の意を捧げたい。(粉)

[朝鮮新報 2006.10.21]