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〈同胞法律・生活センターPART3 A〉 戸籍の訂正

 相談事例を通して、読者のみなさんに暮らしに関連する各種の情報を提供する「こちら同胞法律・生活センター」のコーナー。本紙ではすっかりお馴染みになったと思います。前回に引き続き、若い世代からの相談を中心に、私たち在日同胞にとっては古いテーマだけれども、実は新しいさまざまな事例を紹介していきます。今回は「戸籍の訂正」です。

 Q 在日3世です。幼少の頃から自分の性別に違和感がありました。女性である自分自身を受け入れることができず、大変苦しい思いで生きてきました。就職の際は性別を問われることが多いため、なかなか定職にも就けません。2年前に思いきって性転換手術を受け、堂々と男性として生きていけるようになりました。南の本籍地にある戸籍上の性別を訂正するつもりですが、どうすればよいでしょうか?

 A 同胞法律・生活センターには戸籍の訂正に関する相談も少なくありません。しかしその中身は、「生年月日が旧暦のままになっているので訂正したい」「名前の漢字がまちがっているので訂正したい」というものがもっぱらです。

 日本では1998年に初めて性転換手術が認められ、また2004年7月に「性同一性障害者の性別取扱いの特例に関する法律」(以下、特例法)が施行され、戸籍上の性別の訂正が可能になりました。それらを背景にしてか、センターにも「戸籍上の名前が女性風なので、男性らしい名前に変えたい」という相談や、またこの事例のように性別の訂正といった相談が寄せられるようになりました。

 日本では、先の特例法により、@20歳以上である、A婚姻をしていない、B現在、子がいない、C生殖腺が無いあるいは生殖腺の機能を永続的に欠く、D身体の性器が他の性別の性器に近似する外形を備えていること、などの5つの条件を満たしたとき、家庭裁判所の許可を得ることができれば、戸籍上の性別を訂正できるようになりました。

 生物学上の性と心の性、すなわち性自認の不調和で苦しむ人たちにとって、自分の望む性別で生きることを可能にする特例法は、個人の尊厳や人権という視点からも非常に意義あるものでしょう。しかし実際には、性転換手術が大前提であり、現在のところ、その手術が実施できる医療機関が限定されているうえ、手術が妥当かどうかを医師が判断するためには日本神経学会のガイドラインに則った検査やカウンセリング、治療が必要であるなど、当事者が家庭裁判所にたどり着くまでには、時間、費用、手術による肉体的苦痛をはじめ、いくつものハードルを越えなければなりません。

 この特例法の施行以降、性別の訂正を認められた人たちは百数十人を超えるそうです。

 しかし、在日同胞の場合、戸籍の性別の訂正は本籍地を管轄する裁判所で申し立てをします。そのため南の法律や判例に則って判断されることになります。ちなみに南では、日本のような特例法は制定されていません。

 南朝鮮では、性別の訂正の申し立ては1980年代からありましたが、性染色体の異常が無いかぎり認められてきませんでした。しかし、2002年に釜山地方法院が「人間の尊厳と個人の幸福追求権など憲法の理念に基づいて訂正を認めるべき」との理由で、性別の訂正を認めたことを皮切りに、認められるケースが増えています。

 今年の6月22日には、大法院(最高裁判所)で女性から男性への性別の訂正を認める判決が出されています。

 今回紹介した事例では、相談者がすでに日本の特例法で求める5つの条件を満たしており、また、これまで性自認の不調和で苦しんできたことや、今後、元の性別に戻る可能性がきわめて低いことなどから、無事に性別の訂正が認められ、また同時に名前も男性風のものに改名することが許可されました。*南朝鮮の性別訂正の裁判事例については、機会があればお伝えすることにします。(金静寅、同胞法律・生活センター事務局長)

※NPO法人同胞法律・生活センターでは、暮らしをテーマにした各種の講座、学習会を企画し、そこに適切な講師を派遣します。地域の同胞を対象にした講座等の開催を検討されている総連本部、支部の担当者のみなさん、お気軽に事務局までお問い合わせください。TEL 03・5818・5424、FAX 03・5818・5429。

[朝鮮新報 2006.10.3]