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〈同胞法律・生活センターPART2 I〉 婚姻届、出産届でのトラブル

役場職員の「勉強不足」のケースも

 解放後60年が経過し、数世代にわたって日本に暮らしているにもかかわらず、いまだにありがちな相談事例を紹介します。市町村役場の窓口の人たちの勉強不足に因ることが多いようです。特殊な歴史的背景を持つ在日同胞の存在をよく知らない世代の人たちが、行政機関の関係者のなかにも増えていることをしみじみ実感します。

 Q1 朝鮮籍同士のカップルです。婚姻届を提出する際に、役場の職員に「戸籍謄本あるいは婚姻要件具備証明書を提出してください」と言われました。朝鮮籍なので戸籍はありませんし、どうすればよいでしょうか?

 A1 このような相談は少なくありません。4世、5世が誕生している現在でも、在日同胞の婚姻届をすんなり受理しない役所があるようです。上記で述べたように、職員の不勉強は明らかで、その人自身が「在日」そのものの存在を知らずに育った世代のようです。

 ご存知の方も多いですが、戸籍はかつての日本植民地支配時代、朝鮮半島に導入されたもので、現在では日本、南朝鮮、台湾に固有の制度です(南朝鮮では男尊女卑と植民地支配の残滓清算という2つの視点から2008年より廃止されることになりました)。 

 在日同胞の中には「朝鮮」表示であれ「韓国」表示であれ、本籍地に戸籍を持たない人は多いです。そのため戸籍を求めること自体が無理な話です。

 通常、婚姻届の提出の際、戸籍謄本や婚姻要件具備証明書が求められるのは、@婚姻年齢に達しているか、A重婚ではないか、B性別など婚姻成立の要件を本国法上当事者が具備しているかどうか―を役場で形式的に審査するためです。したがって、これらの婚姻成立の要件を具備していることを明らかにすれば、婚姻届は受理されます。

 婚姻届を提出する当事者は、「本国法上、婚姻要件に障害がない」旨の「申述書」を作成して提出すれば、それで婚姻届は受理されます(役所によっては「申述書」の様式が備置されていることもあるので、職員に確認してください)。これについては、昭和30年2月9日付民事局長通達(民事甲第245号通達)が出されています。今後もこの相談事例のように、婚姻届の提出に際し戸籍謄本等を求められるようなことがあれば、この民事局長通達があることを職員に伝えてください。市区町村役場の職員がそれでも理解を示さないようであれば、センターにご連絡ください。センター事務局から直接、職員に説明することも可能です。

 Q2 同胞同士のカップルです。待望の子が生まれ、さっそく「杰」という漢字を用いて命名し、出生届を提出したところ、「人名用漢字の範囲にはない漢字ですので、このままでは出生届を受理できません。別の漢字に変えてください」と言われました。トルリムチャなのでその漢字でないと困ります。変更せざるをえないのでしょうか?

 A2 大丈夫です。その漢字を用いた名前で出生届は受理されます。在日同胞の場合、そのような人名用漢字の範囲外の難しい漢字で出生届を出すことはできます。

 日本人の場合は名前に用いる漢字は常用漢字や人名用漢字の範囲内のものに限られています。この人名用漢字とは、社会生活を営むうえで複雑、難解な漢字は、本人はもとより関係者にも不便や支障を生じさせるゆえに制限すべきだとして、常用漢字のほかに定められているものです。2004年にはその範囲がかなり拡大され、名前に用いることのできる漢字が488字増えました。また、削除された漢字もあります。

 外国人の場合はこの限りではありません。とりわけ朝鮮半島や中国・台湾などのように、本国法上姓名を漢字で表記するような場合、日本人に対しては適用される常用漢字や人名用漢字の範囲などは関係ありません(1981年法務省民事局通達第5537号)。ですから、在日同胞の場合、この範囲外の難しい漢字を使った名前でも出生届は受理されます。

 やはり市区町村役場の職員の不勉強で、この相談のようにすんなりと出生届を受理してくれない場合はこのような通達があることをきちんと伝えてください。

 いずれのような場合も、センターに連絡してください。すぐに対応します。(金静寅、NPO法人同胞法律・生活センター事務局長)

 ※NPO法人同胞法律・生活センターでは、暮らしをテーマにした各種の講座、学習会を企画し、それに適切な講師を派遣します。地域の同胞を対象にした講座等の開催を検討されている総聯本部、支部の担当者のみなさん、お気軽に事務局までお問い合わせください。TEL 03・5818・5424、FAX 03・5818・5429

[朝鮮新報 2006.6.20]