〈同胞法律・生活センターPART2 E〉 在日同胞と年金 -2- |
前回、老齢給付は原則「保険料納付済期間」「保険料免除期間」「カラ期間」を合わせて25年以上あれば受給できる(「受給資格期間」という)が、特例や救済措置が多いので25年を満たしていなくても受給できると述べた。今回は実際に長年もらい忘れていた同胞の事例を紹介する。 ▼もらい忘れの事例
Kさん(79)は1927年生まれのハルモニ。50歳の時、自営業をしていた夫と死別し、4人の子どもを女手一つで育て、今は多くの同胞高齢者と同じく無年金で収入がないので長男と同居している。ある時、Kさんと話していると「夫と死別後、自分の社会保険に入っていたから医療費は助かった」と言うので、会社に勤めていたのかと尋ねると、「弟の会社の食堂で働いていた」と言う。健康保険と厚生年金は、原則同時加入することになっているので厚生年金には入っていなかったのかと尋ねたが、「年金証書もみたことがないし、朝鮮人は年金をもらえるはずがない」と言う。 ところが、1927年生まれのKさんにはカラ期間が20年9カ月あり、さらに1930年4月1日以前に生まれた人の特例により受給資格期間が原則の「25年」ではなく「22年」あれば老齢給付が受けられる(表1参照)ので、厚生年金に1年3カ月加入していれば受給できる。だが、加入期間が短いと年金額は非常に少ないが、5年分はさかのぼってもらえるので一時金として少なくとも数万円はもらえるはずだと説明し、とりあえず社会保険事務所に厚生年金加入期間調査依頼書を出すことになった。用紙を出す時、Kさんは本名、日本名だけでなく誕生日も数種類使っていた(同胞高齢者にはよくあること)ので、そのすべてを記入したのだが、送られてきた回答書を見て驚いた。約11年も加入期間があり、弟の会社だけでなく、知り合いの会社で働いていた期間や次女夫婦の会社の支店責任者になっていた約5年間も含まれていたのである。本人も家族もすっかり忘れていたのだ。 年金をもらえると知り社会保険事務所に行ったが、最初は加入期間が11年というので相手にされなかった。外国人のカラ期間があるので受給権があるはずだと言うと応対してくれたが、今度は職員の方があわてた。60歳時にすでに年金をもらう権利が発生していたのに18年以上も請求していなかったからだ。年金額が約60万円となり、請求していなかったので、5年間(約300万円)はさかのぼってもらえることになった。それ以前約13年間の年金は時効によりもらえないが、生きているかぎり年金をもらえるのでKさんは長生きをして、もらえなかった年金を取り戻したいという。 ▼なぜもらい忘れが生じるのか 年金は自分で請求しないと受給権があってももらえない。同胞高齢者は長い間制度から排除されてきたので適用除外と思い込んでいる場合が多いようだ。「カラ期間」を使う場合は裁定請求の通知が送付されない。また、加入期間の特例として、被用者年金制度の加入期間の特例(1956年4月1日以前生まれの人は厚生年金、共済組合の加入期間が20〜24年あれば受給できる。表2参照)にも、厚生年金制度の中高齢者の特例(1951年4月1日以前生まれの人は、男子40歳以後、女子35歳以後の厚生年金の加入期間が15〜19年あれば受給できる。表3参照)があるが、Kさんの場合どちらにも当てはまらず見落とされたのだ。社会保険事務所はこのような事態を防ぐためサービスの向上を行なっていると言うものの、Kさんのようにすでに受給権のある人への対策はまったくとられていないのが現実だ。 年金制度は複雑なので、自分の(既婚者は夫婦の)年金加入歴を調べ、同胞、法律生活センター、もしくは社会保険労務士に一度相談することをおすすめする。(金季先、社会保険労務士、広島県在住、在日本朝鮮人人権協会会員) 同胞法律・生活センターでは住まいサポート活動を行っています。 引っ越しシーズンの到来です。同胞にとって住まい探しは昔も今も困難がつきもの。センターでは同胞不動産業者や家主さんの協力のもと、住まい探しのお手伝いをします。また、弁護士、建築士、福祉住環境コーディネーター、宅地建物取引主任など各分野の専門家の協力を得ながらさまざまな相談にもお応えします。まずはお気軽にお電話ください(TEL 03・5818・5424、平日の午前10時〜午後5時)。 [朝鮮新報 2006.4.19] |