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若きアーティストたち(32)

映像制作者・梁民柱さん

 台風11号が依然として衰えないまま、関東地方に上陸することになりそうだとの情報が繰り返された8月25日。取材は翌日行おうとの約束を取りつけた5分後に、先方から電話がかかってきた。

 「今日5時に会いましょう」

 −今日ですか? 帰れなくなるかもしれませんよ?

 「大丈夫です。予定がどうなるかわからないので、今日お願いします」

 こうして土砂降りの新宿で、梁民柱さん(26)に会うことになった。

 梁さんは、映画やドラマ、コマーシャルなど、映像制作の最前線で活躍している。少し前までTBS連続ドラマ「汚れた舌」の制作に携わっていた。

 映画製作の過程は、大きく「企画」「準備」「撮影」「仕上げ」の4つに分けられる。梁さんは制作部で作品創りの実作業を担当するため、「準備」(または企画)の段階から関わる。通称「ロケハン」(ロケーション・ハンティング)と呼ばれるスタジオ外での撮影場所探しから、撮影中の天候の変化や不慮のアクシデントへの対応、スタッフ、出演者の食事や宿泊の手配、ロケ地の許可や予算、スケジュール管理、調整をすべて請け負う。

 「作品のストーリーに合った場所を探し、撮影に向けた万全な準備態勢を整える。石畳の路地や、屋根瓦のカフェなど、イメージ通りの場所を知らなければ話にならない」

 朝高卒業後、「人とは違う仕事がしてみたい」と映画の専門学校に入学。自由な校風の中で3年間、実習を積み重ねた。卒業後はドイツ映画や韓国映画の日本ロケにも関わった。最近撮影を終えた「青燕」(今冬韓国公開)は、羽田から飛び立った直後、伊豆半島玄岳に墜落死した女性飛行士・朴敬元の実話を元に描かれた作品。

 ひとたび仕事が入ると自分の時間はまったくなくなる。「夜中1時に帰ってきて、翌朝4時には出かけるような生活。だから、仕事が終わったら一月くらいまとめて休んじゃうんです(笑)」。

 見習いのときは年収80万円くらいだった。体力的にもきつく、同期の6年選手はもうそういない。突然、携帯電話が鳴り、「明日10時出発、荷造りをしろ」との連絡が入った。

 「やっぱり今日にして良かったですね!」

 仕事が始まると、3〜4カ月は家に戻れない。朝高卒業まではどっぷりと同胞社会に浸かっていた。その時、バイトなど短期間の日本人との関わりの中で日本名を名乗ったことがある。しかし、今は本名で通している。それは、「自分を偽って生きるのは苦しいから」。仕事では朝鮮人であることを特に意識したことはないが、朝鮮人で得したことと言えば、名前を覚えてもらいやすいということだという。「『またね』の一言で次の仕事につながるから、名前を覚えてもらうのは本当に大切です」。

 プロダクションには属さず、フリーで活動する。

 「後輩たちには世界をもっと広く見てほしい。変に凝り固まったり、断定せずに、広く、自由に。やってみると意外にできるものだから」(金潤順記者)

[朝鮮新報 2005.10.5]