若きアーティストたち(30) |
バレエ教師・尹淑恵さん 大阪府東大阪市でバレエ教師をする尹淑恵さん(23)。3歳からバレエをはじめ、初級部6年生のときに特別クラスに選ばれた。バレエ漬けの毎日だった。 「バレエは楽しい。でも、中級部3年生になったとき、ふと友だちとは違う自分に気づいた。まわりを見渡すと、女の子たちは寄り道をしたり、遊んだり。そんな普通の女の子の世界にあこがれてしまった」 尹さんは悩んだ。バレエを取るか、「普通の女の子」の生活を取るか。才能を買われて特別クラスに選ばれた分、周りの大人たちはバレエを続けることを願った。しかし、尹さんは反発。大人への反抗とともに少女の心には「自立心」が芽生えていた。 「楽しみよりむしろ、求められるものが大きくなっていくという重圧感に押しつぶされそうになっていた。特別クラスがあるから、良い役をもらったから、踊らなきゃならないと」 葛藤の末、尹さんは中級部3年生の学期末にバレエをやめた。10年以上、毎日のように踊り続けてきた体。頭で考えるのとは違って、音楽を聞いただけで体は反応するようになっていた。 高級部3年間はバレエとは無縁の生活を送った。口演部に入り、演劇にあふれるパワーを注ぎもした。サマースクールや学生会、朝青支部の活動に目覚めたのもこの頃だった。修学旅行先の朝鮮では、人々の温かさに触れて涙が止まらなかった。「日本のテレビの影響もあって、ちょっとした先入観を持っていた。でも、日本のように物があふれていない分、朝鮮は人間くさいというか、人の心が温かいな…と思った」という。 卒業を控えたある日、バレエ教室の先生から1本の電話が入った。「衣装を貸して」と。3年ぶりに聞く先生の声。懐かしさがこみあげてきて尹さんは待ち合わせ場所の喫茶店へと向かった。 「幼いときからお世話になった先生が3人も座っていた。戻っておいでと。心のどこかで待っていた言葉だったかもしれない。でも、すぐには踏み込めないでいる私の気持ちを察して、先生は一度レッスンにおいでよと声をかけてくれた。胸の中で緊張が解けて、それなら一度と…」 再びバレエ・シューズに足を入れた。懐かしい感触。流れる音楽、伸びる筋、吹き出る汗。「やっぱりバレエが好き!」、そのとき尹さんは強く実感した。 「高級部3年間の悩みと葛藤があったからこそ、今、自分の意志で自分の人生を決め、責任を持って生きることができる」と尹さんは考える。先生から「教師にならない?」とのスカウトを受け、今では児童科(小2〜高学年)とベビークラス(4歳〜小1)を受け持っている。夏には名古屋で開かれるコンクールにも出場する。 「バレエが私を成長させた」。尹さんは今、穏やかな気持ちでバレエと向き合っている。 「昔は人より高く足を上げようとか、回転数を増やそうとか、そういうことばかり考えていた。でも今は、どんな形でもこの経験を生かしたいと考えている」 バレエは集中力と表現力、協調性を育ててくれる。「いずれは同胞を対象にしたバレエレッスンにも取り組みたい」と尹さんは夢を語る。(金潤順記者) [朝鮮新報 2005.7.13] |