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IAEA事務局長 ノーベル平和賞受賞の意義、ブッシュ政権批判のご褒美

最後まで3選阻止に動いた米国

 エルバラダイ事務局長とIAEA(国際原子力機関)が今年のノーベル平和賞を受賞した。平和賞だけはアルフレッド・ノーベルの祖国スウェーデンではなく、ノルウェー議会が選考する。「核不拡散体制維持にIAEAの役割が限りなく重要」というのがIAEAの受賞理由だが、「役割が重要」だからというだけでは何か物足りない。

 オスロのノーベル賞委員会は、特定の個人にこれといった該当者が見当たらないと国連機関に平和賞を授与する傾向がある。2001年にはコフィ・アナン事務総長と国際連合が受賞した。同時多発テロに見舞われて常軌を逸し、単独行動主義をひた走るブッシュ米政権を牽制し、国連の復権を期待しての「激励賞」だった。

 今回の決定にも同じメッセージがこめられている。「核の番人」といわれるIAEAに格別の実績はない。イランの核開発は深刻化し、朝鮮半島の非核化も実現しておらず、IAEAにまだ出番はない。エルバラダイ氏も格別の活躍をしたわけではない。今年、同氏は事務局長として3選を果たしたが、米国は最後まで3選阻止に動いた。

 理由は、同氏が2003年のイラク開戦直前の国連安保理公聴会で、「フセイン政権が核兵器を秘密開発し、隠匿している証拠はない」として、ブッシュ政権の侵攻に反対したからだ。結局イラクには一片の核兵器もなかった。これをノーベル賞委員会は高く評価した。ノーベル平和賞を狙うには超大国アメリカの横暴に立ちはだかって論陣を張るのがいい。

 その点では、金正日総書記も有力候補だ。ただし核問題が解決し、朝鮮半島非核化が実現したあかつきに、ということになろう。2000年の平和賞は金大中・前韓国大統領が受賞した。このとき金氏は「自分だけ受賞して金正日総書記に申し訳ない」と語ったが、これは同年6月の南北首脳会談実現だけでなく、大統領就任前の30年にわたる韓国民主化運動が評価されたからだった。朝鮮半島非核化と平和統一に道筋がつけば、次は金正日氏の番だ。

「核廃棄、核軍縮推進機関」に非ず

 今回の平和賞受賞で、IAEAが核軍縮、核廃絶を目指し、エルバラダイ氏がその先頭に立っているがごとき誤解が日本国内に広まったが、IAEAは「原子力平和利用推進」のための機関だ。ルーツは1953年の国連総会におけるアイゼンハワー米大統領の「Atoms for Peace」(平和のための原子力)提案だ。米国は原子力産業振興に政策転換、核燃料の軍事転用を阻止するための国際機関としてIAEAを発足させた。その後、成立したNPT(核拡散防止条約)でも、「原子力平和利用の権利」が全加盟国に認められている。

 現地査察を含む「保障措置」(セーフガード)も米国人技術陣の考案で、発足当初のIAEAは米国の出先機関の様相を呈した。予算も大半が「保障措置」部門に費やされた。事務局も、「保障措置」以外は原子力発電と途上国技術協力(放射線応用)など、職員の大半が原子力平和利用の関係者で占められていることを知っておいていただきたい。(吉田康彦、大阪経済法科大学教授、元IAEA広報部長)

[朝鮮新報 2005.12.5]