〈月間メディア批評〉 批判力と主張ない日本メディア |
朝鮮政府は的確 北京で開かれていた6カ国協議は9月19日、初めての共同声明を採択した。包括的という意味では1994年の米朝枠組み合意よりも幅が広く、東アジアの非核化と平和、安定のベースとなる。 この日午後6時に放送されたNHKラジオのニュース解説のテーマは、2日前に決まった前原誠司・民主党代表選出だった。共同声明採択を矮小化しようとする意図がみえみえだった。 この声明を具体的に履行できるかどうかは、今後の協議の課題だが、韓国が統一後のインフラ整備まで視野に入れて電力供給を確約するなど、朝鮮戦争の終結に向けて前進したのはまちがいない。 また、日本と朝鮮が昨年11月以来、途絶えていた日朝政府間対話の再開に合意したのも大きな成果だ。 小泉純一郎首相は9月20日、日朝政府間対話の再開合意について、朝鮮の核廃棄と拉致解決の位置づけについては「両方大事」と優先順位をつけなかった。町村信孝外相も「幅広く両国間の諸問題を取り上げるということだ」と述べ、議題を拉致問題に限定しない姿勢を強調した。日本政府は今回の再開合意にあたって「諸懸案」を議題とする姿勢に転換し、懸案の中に、日帝の植民地統治の清算も含まれることを認めた。 小泉首相が総選挙の圧勝を受けて、政治生命をかける日朝国交正常化を在任中に実現することを望みたい。首相のさまざまな政策には異論があるが、朝鮮政策だけはきわめて的確だと私は思う。首相が歴史に名前を残すため、過去100年にわたる朝鮮と日本との不幸な過去に終止符を打つことを心より願う。 朝鮮半島の緊張緩和を目指して6カ国の指導者が現実的な選択を行っても、安倍晋三・自民党幹事長代理だけは、わが道を行くようだ。毎日新聞によると安倍氏は9月20日夜、日朝交渉再開について「(朝鮮側が)時間稼ぎをする交渉であってはならない。次の交渉で誠意をみせないなら、経済制裁で臨まなくてはいけない」と記者団に語った。 また、「対話再開に際し拉致問題の解決を強く求めなければ、国内世論の反発を買う」(毎日新聞)などと、いまだに、自分たちが創り上げた「世論」を理由にして、日朝正常化を妨害するのが日本の大手企業メディアだ。 虚言を暴くべき 安倍氏がNHKに対して憲法違反の検閲を行った問題を、調査報道で明らかにした朝日新聞は9月30日、曖昧な形で最終決着を目指す方針を打ち出した。 今年1月12日の朝日は、安倍、中川昭一の両衆院議員が日本軍「慰安婦」問題を取り上げたNHK番組の放送前日である2002年1月29日に、NHK幹部を呼んで「偏った内容だ」と指摘し、NHKが内容を変えて放送したと報じた。安倍氏らとNHKは結託して、朝日の記事を否定した。 朝日は9月30日、この記事に関する取材内容を整理した社内資料が社外に流出した問題で管理責任を問い、吉田慎一編集局長らを更迭する処分を決めた。 また朝日の秋山社長は1月の記事の中に「不確実な情報があった」として陳謝した。 魚住昭氏が「月刊現代」9月号で、「証言記録を独占入手!『政治介入』の決定的証拠」と題して載せた、安倍氏らと朝日記者の一問一答を読めば、安倍氏らがウソを繰り返していることがわかる。 朝日は取材記録を全文公表して、安倍氏らの虚言を暴くべきだったが、安倍氏との対決を避けた。 安倍氏は9月30日、NHKに「ねつ造記事であることは明らかになった」とコメントした。10月3日の記者会見では、朝日は訂正、謝罪すべきだと述べ、「取材資料を持ち出した実行犯を特定できないのでは、調査は不十分」などと指摘した。 「実行犯」という言い方が非正常だ。朝日の社員が記事に関する取材記録を外部に出したのは、朝日が記録を公表しなかったからだ。これは良心的な記者による内部告発であり、断じて犯罪行為ではない。 安倍氏の祖父は岸信介・元首相である。岸氏はA級戦犯容疑者として巣鴨プリズンに収監されたが、東條英機らA級戦犯7名処刑の翌日に釈放された。 朝日が次期首相候補とされる安倍氏の検閲問題を徹底的に追及し、祖父を敬愛する彼の歴史観、世界観を徹底的に調査報道することが、読者の信頼を取り戻す唯一の道である。 弱者には冷たい 総選挙での小泉首相の圧勝に、ブッシュ米大統領は「小泉首相は大胆な指導者であり、よい友人だ」と絶賛した。しかし、米国で最も信頼されているニューヨーク・タイムズは投票の4日前の9月7日、「なぜ日本は一党に統治されることに満足なのか」と題して、「他の民主国家では当たり前である政権交代という新しい政治体制が、日本に生まれるのはまだ先のことになるだろう」「自民党の長期政権保持は中国や北朝鮮と同様の『一党独裁』のゆえに可能」と論じた。また、「韓国や台湾はより若い民主主義国家だが、政権交代を経験したことがあり、能動的な市民社会や独立した自由なメディアといった民主主義体制の基本要素が、日本より栄えているように思われる」と述べた。 また、選挙後の13日、「日本の総選挙で一つだけいいことがあった」と題した社説で、郵政民営化が近づいたのはいいことだったと指摘し、総選挙結果で「小泉首相の好戦的な軍事的ナショナリズム」が勢いを増すことの危険性を指摘した。 また韓国の主要紙は9月12日、1面トップで自民党の圧勝を伝える中で、「与党が全議席の2/3以上を獲得して、憲法を改定し、軍国主義化する危険性がある」と報じた。 海外の論調は、翼賛体制化した日本のメディアと違って、冷静に日本の政治状況を分析している。 小泉首相は虐げられている人々、弱者に冷たいと私は感じる。第3次小泉内閣発足を受けた小泉首相の所信表明演説が9月26日に行われたが、沖縄の将来にかかわる在日米軍再編問題についての言及がなかった。 翌日の沖縄タイムスは「沖縄を忘れたか」という題の社説を掲げて、在沖米軍基地問題を無視した首相を批判した。琉球新報も「『郵政』以外は説明不足 在日米軍再編問題も触れず」と題した社説の中で、「沖縄の負担軽減に努力する」という一言もない演説に失望感を示した。 私は9月25日から28日まで同志社大大学院のゼミ学生12人と共に沖縄で調査した。昨年8月13日に起きた沖縄国際大学米軍ヘリ墜落事件をめぐる報道で、本土と沖縄のメディアの差異を解明するのが目的だった。 行政、報道機関、市民団体などのグループに分かれ、伊波洋一宜野湾市長や、沖国大の学生らから聞き取り調査した。 伊波市長はヘリ事件に関する本土メディアの報道について、「きわめて軽く扱われた。その後3万人の市民大会なども、非常に軽く扱われた」と述べた。また、「マスコミとしての主張がない。米側の主張だけを伝えるような役割を演じている」「マスメディアが大きくなりすぎた。結局、日本国株式会社のなかに存在するマスコミになり、自己規制が働いているのではないか。日本は戦争にむけて準備をする国になっている。こういう時代のマスコミに求められているのは批判力だ」と強調した。 「解体的」出直しを誓う朝日は伊波市長の直言を受け止めてほしい。(浅野健一、同志社大学教授) [朝鮮新報 2005.10.7] |