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〈月間メディア批評〉 歴史認識に「折り合い」はつかない

米紙の靖国記事 

 米国の首都にある第二の新聞、ワシントン・タイムズは7月28日付で、「怒りを招く東京の神社」という見出しで、小泉純一郎首相の靖国神社参拝問題を取り上げて、「日本の首都の真ん中にある靖国神社は、現代のベルリンの中心部にナチス・ドイツのアドルフ・ヒトラーの神社があるのと同じぐらい、全く想像もできないことである」などと報じた。

 この特集記事を書いたのは同紙にストリンガーとして記事を書いている神林毅彦記者。記事は靖国神社の歴史を紹介し、小泉首相の靖国参拝が日本にかつて侵略されたアジア太平洋諸国、とりわけ中国、朝鮮から激しい反発を招いていることを指摘した。

 また、靖国神社の歴史博物館「遊就館」の展示物や記録映画で、「真珠湾攻撃はルーズベルトの政治的陰謀だ」などと主張していることを紹介。最近台頭してきた国家主義的な文化人が極東国際軍事裁判を「戦勝国の正義による裁判」と決めつけ、「米国の原子爆弾投下、東京大空襲も裁かれるべきだった」などとコメントしている。

 ニューヨークタイムズ、ボストングローブなどの有力紙も、靖国問題と日本のナショナリズムを関係付けた長文記事を載せている。

 この記事が出た日のホワイトハウスのマクレラン報道官の記者会見で、米国人と思われる記者(名前はLes≠ニしかわからない)が「あと約2週間で日本の降伏60周年だが、今朝のワシントン・タイムズに靖国神社に関する詳しい記事が出ている。大統領は、8月15日に小泉首相が東条英機とほか13人の戦犯が祀られている神社に参拝をしないのが賢明だと考えているのか。それとも、われわれは(フィリピンでの激戦地)バターン死の行進を忘れてしまうべきなのだろうか」と質した。

 報道官は「この問題はたしかにその地域内で神経質になってしまうものだ。しかし、この場でそのことに関してコメントはできない。大統領と小泉首相との関係は良好だ。そして、大統領はそのことに感謝している」と答えた。記者は再び「しかし、大統領は小泉氏がこの日本の戦犯たちに関わるべきではないと考えていないのだろうか」と質問。報道官は「今お話ししたように、私はこの問題に関してのコメントはできない」と回答した。

 「米政権は、なぜ、小泉首相の靖国参拝を批判しないのか」という神林記者の問いに、ある米国人大学教授は「日本はいいカモになっているからだ。経済も軍事も米国のいいなり。米国が20年前から狙っていた郵便貯金、郵便簡易保険も差し出すのだから、靖国やナショナリズムのことは目をつぶっているのだ」と答えたという。

朝日3日間の社説

 小泉首相は敗戦後60年にあたっての談話を発表した。10年前の村山富市首相の談話と同様に「かつての植民地支配と侵略によってアジア諸国の人々に多大な損害と苦痛を与えた」として「痛切な反省と心からのおわび」を表明した。首相は同時に「わが国の戦後の歴史は、まさに戦争への反省を行動で示した平和の60年である」と強調した。

 日本の主要各紙は敗戦記念日前後にどういう社説を載せたかを見た。

 朝日新聞の3日間にわたる社説はひどい。まず8月14日、「戦後60年に考える なぜ戦争を続けたか」と題して、「あの戦争は、もう1年早く終わらせることができたのではないか」を論じた。「最後の1年間だけで200万近い人が命を落としている」「損害がふえるばかりのこの時期に、何をめざして戦い続けたのか」。

 また、「軍部には負けを認めぬ狂信的な一団がいた」などと指摘したあと、「検閲があったとはいえ、新聞も追従する紙面を作った。重い戒めとしたい」と書いている。 

 大本営が戦争を続行したのは天皇制を中心とする国体を維持するためだった。朝日が「敗戦」ではなく「終戦」と表現していることも見落としてはいけない。

 全1154字のこの社説は、「1年」の間に、大日本帝国が アジア太平洋諸国の無辜の市民を殺害した加害責任について全く言及していない。拙著「天皇の記者たち」で明らかなことだが、朝日新聞も含めた大手報道機関は軍部と一体となって、占領地で新聞、雑誌を発行していた。軍部に強制されたというより、市場を求めて積極的に侵略行為に加担したのである。「メディアの戦争責任」を他人事のように扱ってはいけない。

 15日の「戦後60年 元気と思慮ある国に」と題した社説では、 「この間、一度も戦争をすることなく、経済、技術の発展は社会を別世界に変えた。60年前に比べれば、はるかによい国になった」などと述べた。

 また、中韓で高まった「反日」の動きについて、「これは互いのナショナリズムの悪循環だ」と指摘。「日本のナショナリズムにも理由はあろう。加害の歴史を半世紀以上も責められ続け、首相が繰り返し謝ってきた。それでいて、中国ばかりか北朝鮮まで核やミサイル開発で周囲を脅かす。『加害者扱いはもういい加減に』と被害者意識が広がっていたところに、北朝鮮の拉致問題では本当の被害者になった」などと、「行き過ぎた『反日』」を批判した。

 日本が加害者であることを忘却して、東北アジア各国のナショナリズムの悪循環だと問題をすり替えている。

理性の麻痺を意味 

 16日の「首相談話を生かしたい」は最悪だ。靖国やソウルの「8.15」に触れたあと、こう述べた。

 「ナショナリズムは、いつまでも折り合いがつかないものなのだろうか。なぜ中国や韓国からそれほどまでに批判されなければならないのか。この春の反日デモなどの激しさは、逆に日本人の間に反発の気持ちを生んだ。

 日本がまた軍事大国化し、他国を侵略することなどあるはずがない。過去の非を追及するのもいい加減にしてほしい。そんな憤りが、中国や韓国に対する批判的な見方や、うっとうしいと思う感情を醸し出していく」。

 この社説は、主語をぼやかして、国民の誤った情緒的な歴史観に迎合している。朝日新聞の論説委員たちは日本の自衛隊がイラクの強制占領に参戦していることを忘れているのだろうか。日本軍「慰安婦」や朝鮮人、中国人強制連行の事実を認めない政治家がうようよいることや、アジア太平洋への侵略を「解放戦争」だと言い切る極右勢力が増大していることを知らないのか。朝日新聞がまず監視すべきは日本政府の危険なナショナリズムである。

 醍醐聰・東大教授は16日の社説について、「過去・現在の一連の事実から目を背けて、『民族心』『うっとうしいと思う感情』などといった心情の次元に歴史問題をずらすのは、ジャーナリズムとしての理性の麻痺を意味すると同時に、道徳的退廃をも意味する」と批判している。

 朝日新聞は8月30日の「党首討論会」の「論戦 2人が読み解く」では、松原隆一郎東大教授が「『憲法9条を前面に掲げた福島党首』について、「『平和憲法があれば戦争にならない』という論理には無理があると国民みんなが思っている。拉致問題のような自体が起きたとき、平和憲法でそう解決するか、という説明が必要ではなかったか」と論じている。ここには日朝間に「国交があれば拉致事件は起きなかった」という小泉首相の認識さえない。私も日本国民だが、「平和憲法があれば戦争を止める根拠にできる」と考えている。

 毎日新聞も15日、「終戦記念日 とんがらず靖国を語ろう 還暦機に幼稚さから脱して」と題して、日中両国が「レベルの高くないナショナリズムをあおりあって、国内政権維持に利用しあうのはおろかなことである」などと論じている。

 読売新聞は16日、「小泉首相談話 軍国主義への回帰はあり得ない」という見出しで、「中韓両国は、日本の軍国主義化≠批判している。しかし、日本が戦前の軍国主義に回帰することなど、あり得ない」と断じた。

 一方、仏紙ルモンドは8月16日の「日本の孤立」と題する社説で、「アジアのどの国でも、1931年に中国で始められた戦争の終結を祝うために日本を招待することなど想像不可能であっただろう」「小泉氏の日本は、無条件に合州国を支持し、自らの地域を無視してきた」と指摘。「この状況が、より不健康であるのは、日本の世論が、ばく然と自らの地域での優位性を中国の台頭によって脅かされていると感じて、中国の反日世論によって被害者の立場に立っていると感じていることだ。保守勢力側の新植民地主義的なスローガンを受容してしまいかねない危うさがある」と警告した。(浅野健一、同志社大学教授)

[朝鮮新報 2005.9.2]