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被害者との溝埋める努力を

 戦後60年を迎えたが、日本はアジアで孤立を深めている。日朝、日韓、日中の関係は悪いままだ。その引き金となったのは、小泉首相の靖国神社参拝だ。それに象徴されているのは、日本がこれまで戦争被害の問題に向き合ってこなかったということ。被害を受けた人の苦しみが解決されていない。これがずっと基盤にある。

 この問題は、日本の外交が国益をどう考えたかにある。とくにアジアの国との戦後処理において、日本の外交官らの頭の中には、2つの考えがあったと思う。一つは、侵略戦争の責任を認めない、つまり国家や天皇の威信にキズをつけないということ。もう一つは、補償額を最小限にとどめようということだ。

 このような国益概念のはきちがえが戦後からずっと続いている。1949年の外交文書や53年の日韓交渉の際の「久保田発言」にもあるように、当初から日本は植民地支配と侵略戦争を認めなかった。過去を克服し、近隣諸国の信頼を得ることが最重要の国益であることを理解しなかった。

 その後、韓国と経済援助、中国とODAで国交を結んだが、これは過去の戦争責任と正面から向き合ったものではない。不正義を追求していない。

 戦後50年の時に、村山談話などがあったが、「日本の流れ」にならなかった。過去に向き合うことは私たち自身のために必要だ。過去の非人間的行為を心に刻もうとしなければ同じ過ちを繰り返すことになる。これを国民の共通の記憶とする努力が求められている。

 強制連行された朝鮮半島出身者のうち、数十万人の行方が今もわかっていないと言われている。それを考えると、現在、日本で判明した遺骨はごく一部だ。

 日本政府が調査に着手したことは意義のあることだが、情報提供だけの取り次ぎの役割で終わってはいけない。日本政府はもっとも人道的な問題として、遺族の心を癒し、被害者と加害者の間の溝を少しでも埋められるよう努力しなければならない。

 われわれ調査団も各自治体に要請し、協力もしている。「強制動員真相究明ネットワーク」が結成され、いい流れが生まれている。若い世代も調査や証言の聞き取りといった現場にたずさわることで活動に参加してほしい。

 現在、日朝関係がこう着状態にあるが日朝関係の悪い部分は、在日の人たちにもろに跳ね返ってくる。両政府が誠実に協議し、国交正常化の糸口を切り開いていくことを心から期待している。(空野佳弘、朝鮮人強制連行真相調査団日本人側全国連絡協議会事務局長)

[朝鮮新報 2005.8.23]