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〈月間メディア批評〉 食糧袋問題 WFPに取材し訂正を

 昨年3月に病に倒れ療養してきた芥川賞作家で共同通信の先輩、辺見庸氏は「週刊金曜日」7月5日号から、「いま、『永遠の不服従』とは何か」と題した集中連載を行っている。辺見氏は、連載のなかで、「この国の政治家の多く」に「救いがたい卑しさ」を感じ、「加害者の記憶は被害のそれより忘却しやすい」「戦後60年で歴史的な過誤はすべて時効になったがごとき言い草ほど無知かつ無恥で、聴いていて背汗を禁じえないものはない」と述べている。

 日本の多くの政治家や知識人が、朝鮮の侵略から100年、アジア太平洋戦争の敗戦から60年たった今年、侵略された国々と人民にどういう姿勢を見せるかが問われている。

宋さんの会見報じず

 在日朝鮮人の元日本軍「慰安婦」、宋神道さんが7月27日、東京・有楽町の日本外国特派員協会で記者会見した。

 84歳になる宋さんは宮城県在住で、1993年、日本国に対して謝罪請求の裁判を起こし、最高裁で03年敗訴が確定した。会見には宋さんと「在日の慰安婦裁判を支える会」の10余年の歩みを描いた映画を制作中の安海龍監督も同席した。

 宋さんは会見で、「どんな戦争もしてはならない」「日本、朝鮮、中国が戦争に巻き込まれてはならない」と強調した。宋さんは米英とともにイラクで戦争に加担している小泉政権を激しく批判し、「日本はわれわれに謝罪して、二度と戦争を起こしてはならない」と訴えた。宋さんの会見を報じた日本の主要メディアは全くなかった。

 7月23日には、京都で「自衛官110番」主催で、社会学者の日高六郎氏の講演会があった。日高氏は「フランスから見た日本」と題して、最近の憲法改悪の動きや高まる偏狭なナショナリズムを批判した。日高氏の講演のあと、鶴見俊輔氏との対談があった。

 日高氏は「高校、中学の教員が日の丸、君が代で徹底的に弾圧されているのに、大学教員は何も言わない」と知識人批判をした。

 日本が過去を清算するには、02年9月の日朝平壌宣言を誠実に履行して、一日も早く朝鮮と国交正常化を実現すべきである。日本政府にとって、7月26日に再開した6カ国協議は、朝鮮との対話再開にとっても重要な契機である。ところが、日本は「拉致問題の解決なくして国交正常化なし」という「世論」の前に自縄自縛に陥っている。

 朝日新聞は7月26日の社説で「交渉に応じない北朝鮮の姿勢は許しがたい。日本が6者協議などあらゆる場で拉致の解決を迫るのは当然のことだ」と強調した。

 しかし、7月27日の各紙朝刊は、拉致問題を全体会議での議題にすることには、「中韓ロ3カ国が反対」(朝日新聞)し、米国も消極的であることを認めざるをえなかったと報じた。

 主要メディアは「政府は、厳しい対応を求める国内世論との間で板ばさみになっている」「26日の自民党外交関係合同部会でも『最終的に日本だけが浮いてしまうのではないか』と孤立感を懸念する声も出た」(朝日)、「(各国が冷ややかな中で)それでも、国内世論の北朝鮮に対する反発が強まる中で、日本にとって協議で拉致問題に言及しない選択肢はなかった」(東京新聞)などと論評した。

中山文科相の改ざん

 今回の協議を前にして、安倍晋三・自民党幹事長代理が「協議で進展がなければ、経済制裁を発動するしかない」と繰り返し、拉致被害者家族連絡会も「経済制裁を発動せよ」と訴えた。

 家族会の人たちは、極右政治家に利用されているのではないか。朝鮮に肉親が居住しているというなら、朝鮮当局や朝鮮人民を刺激するような言動は抑制して、「国交があれば不幸な拉致事件も起きなかった」という小泉首相の考え方に同意したほうがいいのではないかと私は思う。

 自民党の岡田直樹参院議員が7月10日に開かれた参院拉致問題特別委員会で、連絡会の横田滋代表らへの質疑のなかで、「今も生存していると信じる拉致被害者の方々が、経済制裁によって、万が一、不測の事態が生じはしないかということがわれわれも心配でならない」と発言した。

 この発言を報じたテレビ朝日「報道ステーション」の古舘伊知郎キャスターは「(そうした可能性を論じること自体が)無神経」と批判したが、岡田議員の発言は妥当だと思う。

 日本が朝鮮人民に対して行った40年の悪行と60年間におよぶ敵視政策を忘却して、「拉致」だけを日朝間の最重要課題という非正常な世論をつくったのは日本の反動政治家、文化人とメディアである。

 安倍氏と共に「拉致」を国民世論にしたのが中山恭子氏であった。彼女の配偶者が、歴史改ざん主義者の中山成彬文部科学相だ。中山氏は7月10日、福岡市での講演で、「そもそも従軍慰安婦という言葉は当時存在しなかった」という自らの発言(6月12日)を支持するカナダの大学院で学ぶ女性からのメールを読み上げた。

 メールは「(意に反して売春させられたのは)古い時代の日本の農村で見られた情景とそう変わらない」「男の心をなだめ、一定の休息と秩序をもたらした存在と考えれば、プライドを持って取り組むことができる職業だったという言い方もできる」と述べている。

 20代だというこの院生は、日本という国家が朝鮮の女性を性奴隷として拘禁したことについて知らない。また、女性を「男の心をなだめ」「休息と秩序をもたらした存在」と捉えるなどあまりに無恥、不見識である。

 日高氏は前述の講演で、「1930年代もそうだったが、若者を洗脳することはたやすい。歴史を十分に学んでいないから、簡単にだまされる」と指摘していた。この院生は日本に帰って歴史を学び直したほうがいい。

RENK発表たれ流し

 朝鮮に対する誤ったイメージは日々のメディア報道で醸成される。毎日新聞は6月22日朝刊に次のようなソウル発の記事を掲載した。

 「『救え!北朝鮮の民衆/緊急行動ネットワーク(RENK)』は21日、ソウル市内で会見し、政府が北朝鮮に送った援助米が横流しされているとして、日の丸などが印刷された食糧袋入りのコメが市場で売られている『証拠写真』を公開した。

 RENKによると、協力者が4月下旬、北朝鮮の平安南道・安州市の市場で、コメ50キログラム入りの『日本政府寄贈』と書かれた日の丸印の食糧袋があるのを見つけ、撮影した」

 RENKのビデオ映像をともなう情報がTBS、産経、新潟日報などにも流された。

 これに対してフォトジャーナリストの伊藤孝司氏は「世界食糧計画(WFP)日本事務所は、この件についての日本のメディアからの問い合わせを受けていないという。日本政府が贈った食糧を実際に扱ったのはWFPであり、その名前が入った穀物袋が問題になっているにもかかわらず、WFP日本事務所に電話取材さえしていない。RENKによる事実に反した発表をそのまま流すならば、DPRKでの多くの庶民の餓死に加担することになる」と述べている。

 リチャード・ラガンWFPピョンヤン事務所代表は6月22日、「ソウルで一NGOが報道各社にビデオ映像と写真を配布し、日本政府の援助食糧が朝鮮の市場で売られていることの証拠であると主張したが、WFPはこのような全く根拠がない主張は認めない」「今回NGOが流した映像に写っている袋が再利用されているものであることに、WFPは何の疑いも持っていない」「このNGOはこれまで一連の疑惑を公表しているが、今回のこの疑惑をWFPは遺憾とするものであり、絶望的なまでの飢餓にさらされている数百万の朝鮮国民のための食糧援助を確保するわれわれの努力を、台無しにしかねないと危惧するものである」(翻訳=寺尾光身氏)などとする声明を発表した。

 RENKの発表を垂れ流したメディアは、WFPに取材し、訂正すべきだ。(浅野健一、同志社大学教授)

[朝鮮新報 2005.8.1]