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横田めぐみさんの遺骨鑑定 ヘラルド・トリビューン紙の内容

ブギーマンに変貌

 1998年、北朝鮮が日本の上空を越えてミサイルを発射したことは、日本を再び軍国主義化しようとする政治家たちにとって非常に有益な出来事となった。

 北朝鮮からの脅威なしには、日本の政治家たちはイラクに軍隊を派遣し米国のミサイル防衛計画に加わることができなかったであろう。北朝鮮なしには、現在のように、日本の大抵の人々が平和憲法の改正を支持するという世論調査の結果はおそらく出なかったであろう。

 やがて、北朝鮮は大衆文化の中でブギーマン(訳注、悪い子をさらっていくといわれている「子取り鬼」)へと変わっていった。北朝鮮の指導者の映像がニュース番組で流されるたび、音楽の曲調は、まるでダースベイダーが登場する時のように、暗く悪意のあるものへと変わっていく。

 しかし何よりもまず、日本人の怒りとナショナリスティックな感情を喚起したのは、70年代に北朝鮮によって拉致され数年前に帰国した被害者たちの物語に対する日本政府とメディアの猛烈なフォーカスであるということだ。

 半年前、その怒りは、北朝鮮が偽の遺骨をそれと知りつつ日本側に渡したと日本政府が発表した時、頂点に達した。

 その時以来、政府が完全な真実を語っているのかどうかについての疑惑がわきあがっているが、政府はそれについて公式に語ることを拒絶しつづけている。その上、ますますナショナリスティックな雰囲気に支配されている日本では、政府の対北朝鮮政策に対し異論を唱えることがタブーになっているため、日本のメディアはほとんどこの問題に対して無視を決め込んでいる。

 この問題は、13歳の時北朝鮮によって拉致された横田めぐみさんの身の上に起こったことを中心として展開されている。北朝鮮の発表によれば、彼女は北朝鮮の男性と結婚し、娘をもうけ、そして90年代のはじめに精神病院で首を吊って自殺した。

 拉致被害者家族のリーダーになっている彼女の両親は、北朝鮮側の説明を受け入れることを拒否し、自分たちは北朝鮮で彼女がまだ生きていると確信していると言っている。今は初老の彼女の両親がテレビの画面上で感情を込めた嘆願をする光景は、それ以外ではほとんどありえないような方法で感情を呼び起こしている。

「日本は嘘ついている」

 昨年11月、北朝鮮は横田めぐみさんの火葬された遺体の遺骨なるものを日本側に渡した。日本において、いくつかの骨片は警察に渡ったが、警察はいかなる結論も得られなかった。遺骨の一部は帝京大学にも渡ったが、そこで法医学の専門家である吉井富男氏は、5つのサンプルの中からDNAを抽出することに成功したと話した。

 鑑定結果は何を意味したのか? 昨年12月に政府は、遺骨はめぐみさんのものではなく、2人の他人のものであったと発表した。「主に帝京大学の法医学研究所で行われたDNA分析の結果に基づき、われわれは遺骨が横田めぐみさんのものではないと結論付けた」と、細田博之官房長官は発表した。

 他の政治家もすかさず、北朝鮮を非難し、経済制裁を要求した。政治家と新聞の社説は、北朝鮮は日本人をばかにしていると非難した。

 めぐみさんの両親は記者会見を開き、「娘の遺骨をねつ造した」北朝鮮に対して激怒していると話した。北朝鮮に対する厳しい制裁措置への支持が高まっているという世論調査の結果が示しているように、日本人の怒りはますます増大した。

 小泉首相は、「国民が、北朝鮮の不誠実でひどいおこないに対し厳しい反応を見せることは理解できる」と語った。

 しかし、DNA鑑定結果は本当に、日本政府が主張したようなものだったのか? 英国の一流科学雑誌「ネイチャー」2月号に、第一の疑問点が示された。「ネイチャー」誌とのインタビューの中で吉井氏は、氏の鑑定結果なるものは決定的ではなく、サンプルが汚染されていた可能性があると話した。

 しかし吉井氏は、誰かほかの人にインタビューされる前に、大学でのポストを離れ警視庁の新たな職場に移った。警察は現在、彼が会見に応じることは法的に禁じられていると言っている。

 一方、北朝鮮は、遺骨は横田めぐみさんのものであり、日本側は嘘をついていると強く主張してきた。

沈黙を守ったまま

 警察の高官は、インタビューは断りながらも、質問に書面で応じることを承諾した。2ページにわたる回答の中で警察は、DNAが抽出されたという5つのサンプルから吉井氏はその内の4つからめぐみさん以外の誰かのDNAを見つけ、そしてもう1つのサンプルの中からもう1人の人物のDNAを抽出したと言っている。警察は、サンプルの汚染を避ける努力は行われたと付け加えた。

 吉井氏について警察は、彼は「ネイチャー」誌に対し一般論としてサンプルの汚染や鑑定結果の不確定性について語っているのであって、今回のテストについて語っているわけではないと話した。

 警察の返答では、それらの遺骨がめぐみさんのものではなく、また北朝鮮が故意に他人の遺骨を提供した、という点については明確にされていない。独立した法医学の専門家は、政府のように、そのようなDNA鑑定の結果だけに基づいてこう主張するのは不可能だと述べた。

 たとえば、DNAが検出されなかった遺骨が、ひょっとするとめぐみさんのものかもしれない。

 「われわれがこの検査から結論付けることのすべては、提供された遺骨から2人のDNAが検出され、それらがめぐみさんのものと一致しなかったということだ」と、筑波大法医学教授である本田克也氏は「われわれがその遺骨が横田めぐみさんのものではないと結論するまでには、また別のぼう大なステップが必要だ」と話した。

 関西医科大法医学教授である赤根敦氏は、「火葬された骨は他人の皮膚や唾液によって簡単に汚染されてしまう」と述べた。日本政府の発表について赤根氏は、「もしあなたが専門家でなければ、他人のDNAが検出されたと聞けば、あなたはその遺骨が彼女のものではないと推論するかもしれない。政府の発表はきわめて慎重に行われた方がよかった」と話した。

 10年以上にわたり吉井氏と共に働いた経験を持つ、帝京大法医学名誉教授である石山c夫氏は、「われわれが言えることは、めぐみさんのDNAは鑑定の結果、どの骨片からも検出されなかったということだけだ」と話した。

 政府は声明の根拠を、検査結果だけでなく、他の無関係な要素にもおいていると、石山氏は話した。「公安警察は、彼女が離婚していたという事実も含めた情報を持っていると思う。彼らはそのような情報を全て集め吉井氏が整理したデータと合わせ、遺骨が他人のものであると判定した」

 一方、政府は沈黙を守ったままであり、遺骨を北朝鮮に返すことを拒否している。専門家の中には、新たな鑑定のため遺骨を中立国か、あるいは米国や中国の研究者チームに渡すことを提案する人もいる。

 しかし、この問題をめぐる疑惑は新聞の一面を飾ることはなかった。朝日新聞の控えめな記事やテレビ朝日の報道、それにいくつかの週刊誌を除いて、この国の巨大で反北的なメディア機関はこの論争を無視している。したがってほとんどの日本人は彼らの政府が、よく言っても真実を曲解するか、悪く言うと、彼らを騙し誤った方向に導いているのかもしれないということに気づいていない。(中見出しは編集部)

[朝鮮新報 2005.6.23]