〈月間メディア批評〉 放置される政治家の妄言 |
「無知の極み」 日本の土、日曜日の午前中に放送される各テレビ局の時事番組は、日本人を歴史健忘症にして、反民主主義者になるよう洗脳している。極右政治家、御用学者が中国の「反日教育」を引き続き非難し、作家、漫画家やら弁護士が無責任な発言を繰り返している。おまけに横浜市長までが出演して、低劣な政治評論を行っている。「あなたの仕事は横浜市をどう良くするかではないのか」と言ってあげたくなる。 ひと昔前なら、政府与党を批判する進歩的、左翼的文化人も討論に少しは加わったものだが、最近は、右翼・反動の人士ばかりが登場する。公共の電波における公平さを装うことさえしなくなった。 5月21日朝の日本テレビの番組を見ていたら、「この中で日本の常任理事国入りに反対の人はいませんよね」と司会の辛坊治郎氏が出演者に問いかけた。手を上げる者はいない。中嶋嶺雄・東京国際大学学長が、国連をつくった戦勝国の中国は今の台湾にある中華民国だなどというアナクロ妄言をした後、「中国の反日デモは国際的に批判されて失敗だった」と断定した。こんな「学者」に教育を受ける学生が哀れだ。 アジア太平洋諸国と日本が共生するには、過去の侵略と強制占領を清算するしかない。ところが、小泉純一郎首相は国会で、靖国神社参拝についての近隣諸国の批判を「内政干渉」と批判し、「罪を憎んで人を憎まず」と言ったのは中国の孔子だと述べた。孔子のこの言葉は、犯罪の被害者が語る言葉であって、加害国の日本側が使うのは不適切であろう。 5月15日午前に放送されたNHKの「日曜討論」で、各党代表が郵政法案、中国・韓国との外交関係、靖国問題などを討論した後、司会の山本孝解説委員が「小泉外交は今後どうしたらいいか」と武部勤自民党幹事長に振った。 武部氏は「もう一つはなかなか理解されていないようですが、野党のみなさんが(笑いながら)おっしゃるくらいですから。韓国や中国は国論が統一されていますけどね、まあどこの国の人かわからないと思えるようなこともみんな言えるわけです。日本はまあそういう民主主義の国であるということです」 この発言の前、中韓関係、靖国問題などを討論したが、市田忠義・共産党書記局長が首相の靖国参拝を厳しく批判。又市征治・社民党幹事長も、韓国の盧武鉉大統領の日本批判発言を度々引用して、日本政府の歴史認識を問題にした。 武部氏が「どこの国の人か分からない」ことを言ったと批判したのは、市田氏と又市氏を指すものと見られる。 中国については確かに一党独裁の国であり、国論が統一されているという言い方も許されるかもしれないが、韓国は日本以上に民主化が進んでいる。韓国を独裁国であるかのように見下す武部氏の政治家としての資質を問題にすべきだろう。 私は番組の終了後、NHKの担当プロデューサーに電話し、「武部氏の発言は不当であり、NHKの政治部記者は彼に取材して、訂正・謝罪を求めるべきだ」と伝えた。プロデューサーはビデオを見て、武部氏の発言内容を確認してくれたが、「政治家の発言内容をNHKが問題にはできない」と主張した。 放送法は、NHKの放送が民主主義の発展に寄与することを義務付けている。何百万人もの視聴者が不当発言を聞いて、影響を受ける。その後、NHKがこの発言を問題にすることは、私の知る限り、なかった。 日本のマスコミはこの発言を一切問題にしていない。 私は又市議員の秘書に電話したが、秘書は「武部さんはしょっちゅう問題発言をする。今回、とくに抗議とかはしていない」と答えた。武部氏のこの問題発言は日本共産党の機関紙にも載らなかった。市田氏の秘書は「確かにひどい発言で、貴重な指摘を感謝する。しかし、テレビ討論での発言でもあり、とくに問題にはしていない」とコメントした。 武部氏が暴言常習犯だから、とりたてて問題にしないという姿勢は納得できない。石原慎太郎都知事と、小泉首相の登場以降、政治家の言いたい放題が放置されている。「命がけで憲法を破る」「竹島に自衛隊を送れ」「自衛隊が派遣されるところが非戦闘地域だ」「自衛隊は軍隊だ」などという暴言が許されている。 東京に本社のある報道機関が、妄言を繰り返す政治家を追及しないからだ。国民も極右政治家のうそに騙されてしまう。 「どこの国の人かわからない」というのは、日本国憲法、国連憲章の国籍、出自についての規定に違反する差別発言だ。 武部氏は5月6日、公明党の冬柴鉄三幹事長とともにソウル市内の青瓦台で、盧武鉉大統領と会談しており、この日の政治討論でも、「盧武鉉大統領は在韓被爆者問題などで日本政府に感謝すると言っている。(冬柴公明党幹事長と)われわれ2人は会って話を聞いている」と述べていた。 読売新聞(杉田義文記者)の報道によると、大統領は、日本側に「過去の謝罪と賠償」に取り組むよう求めた自らの演説について、「われわれは日本政府に新たな反省と謝罪を要求しているわけではない」と述べた。ただ、大統領は「反省や謝罪の精神に反する勢力が日本の政界にある。(そうした言動が)繰り返される中での日本の謝罪は真の謝罪ではないと受け止めざるを得ないのが韓国の立場だ」と指摘した。 武部氏こそ日本の政界の中にある「反省や謝罪の精神に反する勢力」の頭目であることを自ら暴露した。 私は16日、ネット新聞である日刊ベリタ(www.nikkanberita.com)に、「『韓国は国論が統一された国』武部自民党幹事長がまた暴言」という見出しの記事を書いた。武部氏は、日本は民主主義国と言いながら、憲法、国連憲章を踏みにじる発言をして、またそれを野党もメディアも全く問題にもしない。これがこの日本の危機である。武部氏について、「無知の極み」だと韓国人留学生たちは呆れている。 進む政界とのゆ着 5月14日の読売新聞2面「小泉首相の一日」に、小泉純一郎首相が「13日午前11時58分、東京・紀尾井町のホテルニューオータニで、ジャーナリストの田原総一郎氏、御手洗富士夫キヤノン社長らと会食」とあった。 どこの国に、「ジャーナリスト」を職業とする人間が、首相と公式に「会食」することがあろうか。 15日のテレビ朝日「サンデープロジェクト」で田原氏は安倍晋三、石破茂、岡本行夫各氏らを招いた。田原氏は、安倍氏が米国で歓待されたことを持ち上げた。その後、朝鮮の金正日総書記を呼び捨てにして、「北の核開発」を国際社会への「大挑発」「脅迫」「けしからん脅しだ」などと非難した。 安倍氏は、「北が6カ国協議に復帰して見返りを与えても、結局、経済的困難の解決にならない。米国も腹の底では、金正日体制の存続を認めない」などと経済制裁は不可避との認識を示した。安倍氏は、「小泉首相は靖国参拝を続けるべきだ。次期首相も参拝すべきだ」と強調した。 日本ではジャーナリストが政治家、高級官僚とゆ着してもたいした問題にならない。田原氏だけではなく、ジャーナリストの肩書きでテレビ、ラジオに登場する人たちのレベルの低さには、呆れてしまう。その1人、鳥越俊太郎氏が今年3月から毎日新聞のテレビコマーシャル(CM)に出ている。元毎日記者だから起用されたのかもしれないが、ジャーナリストを職業とする人間がCMに出るというのは民主主義国ではあり得ない。鳥越氏はテレビドラマに出演、損害保険業界のCMにも出ている。鳥越氏は関西大学教授としてジャーナリズムを教えているが、自分の報道倫理を分析したほうがいい。 また、テレビ朝日やTBSでアンカー役を務めた蟹瀬誠一氏も株式会社日本テレコムのCMに登場した。彼もまた明治大学で教授としてジャーナリズムを教えている。 米紙ワシントン・タイムズなどの特約記者である神林毅彦東京特派員は2月4日、次のように報じた。 「鳥越氏は、彼の著書でジャーナリズムの倫理的問題を論じているにもかかわらず、『そんなことにいちいち答えなくちゃいけないの?』と不機嫌そうに聞いてきた。結局、鳥越氏はコメントを控えた。また、関西大学もコメントを断った」 「朝鮮は『悪い国』」 きわめて残念なことだが、6月8日、平壌で行われる予定だったサッカーのW杯最終予選、朝鮮対日本戦がなくなった。国際サッカー連盟はバンコクで「無観客試合」と決めた。朝鮮側が異議申し立てをせず、そのまま決まった。 産経新聞などが「北朝鮮では危ない」と主張してきたようになってしまった。 日本から3000人近くの市民が訪朝することで、友好親善が深まると期待していた。朝鮮サッカー協会、朝鮮総連はチャーター便の受け入れも含め、準備が着々と進んでいたのに、もったいないことだ。 日本のメディアのFIFAの決定についての報道姿勢は朝鮮を「悪い国」と決め付けている。「南米や欧州で観客が暴れたケースとまったく違う報道姿勢にはあきれる」とある記者は言う。 イラン戦における朝鮮の観客の行動は、審判の不当な判定に対する抗議であり、現にバーレーン戦では何もなかった。日本サッカー協会の川淵会長は「予定通り平壌で開催を」とまず言うべきではなかったか。異議申し立て期間が過ぎて、最終決定が下るまで静観すべきだった。 私は5月10日、「平壌開催でFIFA再説得を」という次のような投書を朝日新聞「声」欄へ送ったがボツになった。 「平壌での対イラン戦での混乱は、審判の判定に対する不満の表明であり、被害者は出ていなかったので、処分は厳しすぎると思う。その前に行われたバーレーン戦では何も起きなかった。北朝鮮側はイラン戦での警備の不備を認め、6月の日本戦では『観客数を減らしてでも警備に万全を尽くす』と確約しているという。 私はネット新聞の記者として、4月9日に埼玉で行われた第1戦を取材したが、白熱した好ゲームだった。両国応援団のマナーもすばらしく、試合後に日本サポーターが北朝鮮選手に大きな拍手を送った。 Jリーグに所属する2人の在日朝鮮人選手のテレビなどでのコメントは、今、戦後最悪の関係にある日朝関係の改善に向けての第一歩だった。 安英学選手(名古屋グランパス)はFIFAの処分について、『平壌の良いところも悪いところも見てほしかった』と語っていた」 「万景峰92」号の入港でも悪意に満ちた報道が続いている。また、拉致被害者の子どもたちの帰国から5月22日で1年を迎えるのを前に、メディアはまた「拉致報道の犯罪」を繰り返している。フジテレビに出たある教員は、「気持ちの持ち方で、人間はこんなに表情が変わるものか」と述べていた。教育者が極右の宣伝に洗脳されている。反動一色の報道である。(浅野健一、同志社大学教授) [朝鮮新報 2005.5.26] |