〈教科書検定問題−下〉 子どもと教科書 全国ネット21 「あぶない教科書NO!」の声−俵義文事務局長 |
扶桑社の「あぶない教科書」が今回も中学校用教科書の検定で合格した。扶桑社を含め全社から「慰安婦」記述が削除され、「強制連行」も減少と、全体的に歴史教科書の記述が後退したと考えられる。 前回2001年の採択の時には、自民党などの政治家と共同した「つくる会」の働きかけによって文科省が採択制度を改悪し、現場教員の意見を排除して教育委員会による採択を実施した。「つくる会」は、教育委員にさまざまに働きかけ、危機的な状況を作り上げた。 その一方で、歴史をわい曲し、戦争を肯定・賛美する教科書、人権をないがしろにし、個人よりも国家を優先させ、憲法改悪を目指す「あぶない教科書」を子どもに渡してはならない、学校に持ち込ませてはならない、という保護者、市民、教員、研究者、労働者などが各地で立ち上がり、「つくる会」教科書の採択阻止の活動に取り組んだ。 教科書は全国の採択地区ごとに選定される。4年前には各地に400を越える教育、教科書の市民組織がつくられ、千数百カ所で学習会や集会が開催された。多くの人たちが「つくる会」教科書の「あぶない」内容を知り、それぞれの地区で「こんな教科書を採択しないで」と声を上げ、世論が各地の教育委員会を動かして、最終的には「つくる会」教科書を公立中学校542の採択地区で1地区も採択させなかった。 彼らは今回、全体採択率の10%(約13万冊)達成を目標としている。 「多数派」をめざす自民党の政治家たちが本気で取り組み、全面的に乗り出している今年の状況は容易ではない。「つくる会」の教科書が彼らの目標どおり10%を超える危険性も、今の状況では十分考えられる。
その反面、今回も「ゼロ採択」という可能性もないわけではない。「つくる会」の教科書内容で、子どもたちを教えて良いと考える人がそれほどいないと思えるからだ。 01年のように多くの人が声を上げて、地域の世論を持って教育委員会に「つくる会」の教科書採択を断念させられるような状況を作ることができれば、どの地域でも採択を阻止させることは十分できると思う。 われわれの活動は、8月の採択までにこの教科書の危険性をどれだけ多くの人々に伝えられるかにかかっている。あとは日本のメディアがどう動くか。メディアが01年のときのような姿勢でやってくれたら運動自体はうまくいくだろう。2005年は私達にとって、大変ではあるが大きなチャンスなのである。 また、18日には日本、中国、南共同編集の歴史の副教材「未来をひらく歴史−東アジア3国の近現代史」が3カ国で同時に発刊される。私たちはこれまで、「つくる会」の歴史教科書に対して、日本の過去の侵略戦争や植民地支配を正当化し、歴史をわい曲する自国中心、排外主義の教科書であるなどと非難してきたが、ただ単に非難するだけでは歴史教科書問題は解決しない。日本の子どもたちをはじめ、アジアの子どもたちにどのような歴史を伝え、学ばせ、どのような歴史認識を共有するのか。歴史認識の共有は子どもたちだけの問題ではない。 私たちは、2001年7月に北京で開催された中国社会科学院日本研究所が主催するシンポジウム「日本の軍国主義研究」で、中国、韓国、朝鮮民主主義人民共和国の研究者に対して、日本の歴史教科書問題を解決するために、歴史認識についての連続的、継続的な対話−フォーラムの開催を提案した。 この提案に3国の研究者が賛同し、東アジアの平和な共同体をつくるために歴史認識の共有をめざすことを目的にした「歴史認識と東アジアの平和フォーラム」を開催することになった。フォーラムは、02年3月に中国・南京、03年2月に日本・東京、04年8月に韓国・ソウルで開催され、朝鮮大学校の康成銀教授も参加された。 その過程で、東アジアの子どもたちが歴史認識を共有するために、共通の歴史副教材をつくることができないだろうかという話になり、各国で東アジア共通歴史副教材開発、作成のための委員会が組織された。 副教材は、序章「開港前の3国」、第1章「開港と近代化」、第2章「『大日本帝国』の膨張と中韓両国の抵抗」、第3章「侵略戦争と民衆の被害」、第4章「第2次大戦後の東アジア」、終章「東アジアの平和と友好を求めて」で構成される。在日朝鮮人についても触れられている。市販が中心となるので、在日の方々にも読んでいただきたい。 残念ながら共和国からの参加は実現しなかったが、今後は共和国も含めて、東アジアの平和のための教科書づくりに励みたいと考えている。(取材、構成 金潤順記者) [朝鮮新報 2005.5.11] |