〈教科書検定問題−上〉 反日行動は正義と不正義の衝突 「歴史は苦痛を受けた人の立場から」 |
5日、文部科学省が発表した来春から使われる中学校用教科書の検定結果は、扶桑社を含めて8社すべての歴史教科書から「慰安婦」の用語が消え、95年度検定ではすべての教科書であった「強制連行」の記述も2社に減るなど、第2次世界大戦時のアジア諸国に対する「加害記述」が抹消されることとなった。また、社会科の教科書では4社が政府見解に沿う形で独島(竹島)の領有権などを記述。扶桑社においては「外務省のホームページに載っている記述に基づき直した」として、「韓国が不法占拠している竹島」と修正して合格。拉致事件をめぐっては歴史8社、公民8社のすべてに記述するなど、自国の恥ずべき侵略戦争の歴史を消し、朝鮮への敵視を露にする内容となっている。 日本は依然として加害の歴史に対する内的な反省がない。80年代の教科書記述の是正にも、アジア諸国の強い反発による外的な力によるところが大きかった。82年の検定で、中国への「侵略」を「進出」に書き換えたことを発端に中国や南北朝鮮では激しい抗議が行われ、外交問題に発展した。日本政府は歴史わい曲の事実を認め、「政府の責任で是正する」と約束。教科書検定基準に「近隣諸国条項」が設けられた背景には、アジアの人々の強い反発があった。 91年に日本軍「慰安婦」の被害者が名乗り出てから日本軍の戦争犯罪に対する国際的な非難が高まりを見せた。その後93年には「慰安婦」に対する軍の関与を認める調査結果と河野洋平官房長官が談話を発表、その後、高校・中学歴史教科書全点にはじめて日本軍「慰安婦」が記述された。 これを受けて、「慰安婦」などの記載を「自虐的」と攻撃し、教科書から「慰安婦」や南京大虐殺を削除せよという激しい反撃がはじまった。その中心的役割を担ったのが西尾幹ニ、藤岡信勝、高橋史朗、小林よしのり氏らである。彼らは97年に「つくる会」を結成し、歴史教科書の侵略、加害記述への攻撃をエスカレートさせてきた。日本の教科書問題が単に記載内容そのものに限ったものではなく、全体的な政治的流れの中で起こっているものであることを忘れてはならない。 「つくる会」の発足以降、ガイドライン関連法、国旗・国歌法、通信傍受法、住民基本台帳法、テロ対策特別措置法が成立し、「つくる会」の教科書が検定を合格、自衛隊艦船のインド洋派遣、「有事関連3法」も成立した。今国会では、昭和天皇の誕生日である4月29日を「昭和の日」と改め「国民の休日」とする案が提出され、衆院本会議で可決された。「昭和」を美化する日本国内のこうした潮流こそ現在、日本が侵略した中国、併合した南北朝鮮から激しい反発が起きている原因である。 過去の戦争を美化した検定結果に対し、アジア各国からは猛烈な反発の声が上がっている。日本政府はこれに対し、国定教科書ではない以上、政府は教科書の記載内容に対して具体的に関与できないなどと弁明しているが、近隣諸国条項は日本がアジアの人々に苦痛を与えた事実を認め、教科書記述に反映させるとした国際的な取り決めである。 01年、『つくる会』教科書の採択率が低かったのは、我々も含め、日本や南北朝鮮の市民団体などが闘ったためである。日本にはレジスタンスの伝統がなく、今では『つくる会』の教科書が市民レベルで受け入れられる雰囲気があるのも危惧される。 マスコミでは、中国や南朝鮮での反日行動を取り上げて、「反日」とそれに対する日本の反発、どっちもどっちといったような、まるでこの問題がナショナリズムの対立であるかのように扱っているが、これはナショナリズムの対立などではない。正義と不正義の衝突である。日本は近年過去の過ちに対してそれを認め、謝罪するようにはなってきたものの、それを実質的な行動に移そうとはしていない。心からの反省がないという点では変わりはない。 数日前にも旧日本軍による「731部隊」の人体実験で被害を受けた中国人被害者や遺族らが日本政府を相手取り裁判を起こしたが、裁判所は「国際法上、戦争の被害者個人が相手国に賠償請求する権利はない」とし、門前払いした。これは常識的に考えられないことだ。彼らは、60年もの間無視され続けてきたのに、遺族たちはどう思うか。こうしたことをナショナリズムの衝突だなどと言うのは大きな間違いだ。教科書問題も日本政府の姿勢の表れ。今、中国政府が日本に要求しているのは靖国参拝の中止と侵略戦争に対する真の反省である。同じ過ちを2度と繰り返させないという被害国民としての安心感が欲しいのだ。歴史は最も苦痛を受けた人の立場から見なくてはならない。在日同胞も20世紀に最も苦痛を味わった犠牲者である。日本がかつての侵略の歴史を教えるのは当然の義務である。(朝鮮大学校・康成銀教授、談) [朝鮮新報 2005.4.29] |