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〈月間メディア批評〉 過去の侵略事実伝えない新聞

盧大統領の批判

 韓国の盧武鉉大統領は島根県議会における「竹島の日」条例の制定を受けて、「日本の植民地支配の正当化」を「断固処断」するという対日政策に出ている。

 大統領が3月23日に発表した「国民への手紙」では、「日本は最近、自衛隊の海外派兵のための法的根拠を準備し、いまや再軍備論議を活発にしている」「再び覇権主義を貫徹しようとしている意図をこれ以上黙って見ているわけにはいかなくなった」と強調した。

 盧大統領は、ドイツの過去清算の取り組みを評価し、日本に歴史認識の是正を再三求めている。共同通信によると、町村信孝外相は14日、これに対し、「心外だ。国情も違うし、単純に比較するのはいかがなものかと思っている」などと述べた。韓国の外交通商省は15日、「(外相発言は)日本と近隣国との未来に向けた和解と協力に役立たない」と批判する論評を出した。論評は「日本は植民地支配で行った反人類的行為による近隣国と国民の犠牲や苦痛を決してあいまいにしてはならない」「日本は公式に反省と謝罪をしたが、政治家の歪曲発言が続き、歴史を歪曲した教科書が検定に合格した。これはドイツと日本の姿勢の差であり、日本は(ドイツから)教訓を学ぶ必要がある」としている。

 韓国の国連協会が4月15日公表した韓国人の意識調査によると、日本が目指す国連安全保障理事会の常任理事国入りについて、「日本は過去の歴史を反省していないので、反対する」との回答が全体の92.3%にのぼった。韓国の国連大使は3月末、日本の常任理事国入りに反対する姿勢を表明している。

 韓国KBS(韓国放送公社)テレビの「メディア・フォーカス」番組の記者が私のところへ取材に来た。日本の右傾化と反動化の主な原因に、マスメディア報道があるのではないかという視点で番組を制作し、4月16日にオンエアされた。ジャーナリストの魚住昭氏らにもインタビューした。

 産経新聞は16日、「シンポ隠し撮り放映 つくる会『発言わい曲し報道』」という見出しで、「KBSテレビが、10日に東京都内で開かれた『新しい歴史教科書をつくる会』(つくる会)のシンポジウムを隠し撮りした映像を放映したことが分かった」と報じた。「つくる会」は法的措置も含めて対応策の検討に入ったという。

 KBSは1日深夜の報道番組などで、シンポのパネリストの一人が「韓国の学者が『元慰安婦の団体など韓国の反日運動の背後に北朝鮮がある』と発言した」と述べたことを批判的に紹介したという。産経の記事は、「今月13日には東京・本郷の『つくる会』本部に取材クルー5人が無断で入り込み、退去させられた」と指摘、「建造物侵入罪や著作権法違反に問われる可能性があり、対応を急ぐ」としている。

 「つくる会」はKBSの取材を拒否していた。シンポの取材を制限し、韓国を代表する公共放送の取材を拒絶する団体に歴史を語る資格はない。

歴史認識の甘さ

 朝鮮や韓国に対しては居丈高な姿勢をとる日本の新聞は、中国各地で日本の首相靖国神社参拝、教科書問題などに抗議するデモが激化している問題では、やや抑制的な論調である。それでも、主要新聞、放送局、出版社の歴史認識の甘さは相変わらずだ。

 まさに極右メディアが日本人をマインドコントロールしていることが問題なのだ。

 同志社大学の学生の中にも「民主主義のない中国は歴史を正しく教えていない」と断言する学生がいる。本屋に行けば、南京大虐殺はなかったとか、日本軍慰安婦は単なる売春婦だった、などと歴史を改竄する書籍や雑誌が並んでおり、テレビには「反省することがひとつだけあるとすれば、領土問題で毅然たる態度を一度もとってこなかったことだけだ」などという暴言を吐く中田宏横浜市長や、「江沢民以降、反日教育を徹底してきた結果だ」などと主張する中嶋嶺雄・東京国際大学学長らの御用学者が相次いで出演するから、若者たちが洗脳されてしまうのだ。

 中国や朝鮮が行ってきたのは「反日教育」ではなく、英雄的な抗日戦線を闘い、共和国を建設してきた国家建設の歴史である。インドネシア、シンガポールなども同じだ。

原因は明らか

 日本国内の中国公館などもペンキ、金属片などで攻撃を受けており、事態は深刻だ。

 日中外相会談が17日に開かれ、下旬には首相と胡錦濤国家主席との首脳会談を開く方向で調整することを確認した。16日の民放テレビで、コメンテーターが日中首脳会談について、「どうして東京や北京でやらないのか」「なぜジャカルタなのか」などと述べて、出演者の誰もインドネシアでアジア、アフリカ会議(バンドン会議)の50周年を記念した会議が開かれることを知らなかった。

 温家宝首相は12日、ニューデリーで「アジア各国からの厳しい批判で日本は反省を迫られるだろう」と述べた。

 また、キューバのカストロ国家評議会議長は17日、外国報道陣に「反日デモが広がる中国の状況をどう見るか」質問され、「原因はよく理解できる」と答えた。議長は、歴史問題のほか、台湾に武器を輸出している米国の「ナンバーワンの同盟国」に日本がなっていることに反感があるとの見方を示し、「われわれも(米国から)独立した日本を望んでいる」と述べた。

 私は、小泉首相の過去4回の靖国神社参拝と歴史教科書問題が対日抗議行動の原因だと思う。中国は1972年の国交正常化時の共同声明で中国侵略にかかわる賠償を放棄して、日本が「戦争で中国国民に重大な損害を与えたことへの責任を痛感し、深く反省する」と公約したにもかかわらず、戦前回帰の動きが顕著になったことへの異議申し立てだと思う。

本質報道なし

 ところが日本の政府とメディアは、デモの現象に目を奪われて本質を報道しない。

 中国との関係を重視してきた朝日新聞は13日の「事実を伝えてほしい」と題した社説で、北京の日本大使館がデモ隊に囲まれ、激しい投石を受けたことを、「中国のメディアはこの事件を国内に報道していない」と指摘。「日本のメディアは、なぜこんなことが起きたのかをさまざまに分析し、歴史問題に対する真剣な対応を小泉首相に求めたりもしている」と自画自賛した。また、「愛国教育などによって、多くの中国人は侵略当時の日本軍の写真や映像を繰り返し見ている。その半面、武力による紛争解決を禁じた憲法を持ち、核兵器は持たず、戦争に加わることのなかった日本の戦後史はほとんど知らされていない。靖国神社や一部の歴史教科書の問題ばかりが強調される現代日本への認識には、相当な偏りがあるのではないか」と述べた。

 15日の「日中経済 こちらの知恵も試される」と題する社説では、「中国では中央政府の高官が靖国問題でしかめっ面していても、地方の首長は日本企業の誘致に奔走している」などと論じた。

 この社説を書いた論説委員は、自社の系列のテレビ朝日のコメンテーターたちの発言を聞いたことがないのだろうか。彼や彼女は日々、朝鮮に関する情緒的で悪意に満ちた番組をつくって、偏狭なナショナリズムと排外主義を煽っている。

 朝日新聞が日本の過去の侵略についての事実を伝えていると本気で思っているのだろうか。朝日が軍部と共謀して、日本が侵略したアジア太平洋諸国で新聞、出版を完全統制したことを市民に伝え、反省しているのか自問したほうがいい。朝日の戦争責任については、拙著「天皇の記者たち 大新聞のアジア侵略」(スリーエーネットワーク)を参照してほしい。

 日本は戦後、戦争に加わることがなかったというのは、外務省の見解と同じだが同意しがたい。日本が戦後、戦争を起こしたことがないのは事実だが、日本の戦後史には、朝鮮戦争への米軍基地提供と戦争特需、ベトナム戦争への全面協力、湾岸戦争への130億ドル供与などというきな臭い歴史がある。昨年1月からは、米英のイラク侵略、占領への自衛隊派兵、参戦を強行している。イラクの女性や子どもたちの理不尽な死に日本は関与しているのだ。

 「靖国神社や一部の歴史教科書の問題ばかりが強調される現代日本への認識」と中国を非難するのは不適切だ。

反動的新聞の横行

 日本最大の新聞、読売新聞には、またしても自己責任=自業自得論が登場した。17日の社説は「中国は自らリスクを高めている」と題して、 「江沢民前政権以降、中国政府は徹底した愛国『反日』教育を行ってきた。いわば自業自得ではないか」と断じた。

 18日の社説では「関係改善の責任は中国にある」という見出しで次のように主張した。

 「『歴史』認識の問題について、中国側は小泉首相の靖国神社参拝、歴史教科書などを問題視した。だが、いずれも、日本の内政問題である」「歴史に関する共同研究を行うことで両国が一致したが、歴史認識の共有など不可能だ。学問の自由が保障され、歴史についても多様な学説がある日本に対し、中国は南京事件の死者数ひとつとっても、共産党公認のひとつの学説しかない」

 読売新聞には社内に言論の自由はなく、自民党右派もびっくりするような極右、対米追従の論説しかない。

 13日の産経新聞の「主張」は「日中外相会談 筋を通した姿勢が必要だ」と題して、「反日感情の政治利用ともとれる中国政府の姿勢」を非難した。また、「国際法違反の不法な行動に対して日本側が国益を踏まえ、凛とした外交姿勢を取らなかったことが、今日の事態を招いた」「靖国参拝は日本人の心の問題であり、内政干渉に日本政府は動ずることはない」。

 靖国参拝問題を「心の問題」などと規定するのでは、無知蒙昧としか言いようがない。

 18日の日経新聞の社説「事態の沈静化に日中の連携強化を」はこう述べる。

 「反日デモがここまで拡大した原因は、中国政府が投石や殴打などの破壊、暴力行為の責任を回避していることにある」「中国は日本の一部の歴史教科書を強く非難しているが、日中戦争に偏った中国の歴史教育にも大いに問題がある」

 こういう反動的な新聞の横行こそが、日本の誤った歴史認識を浮き彫りにしている。

 NHKの日本軍慰安婦問題のテレビを検閲した安倍晋三・自民党幹事長代理は講演やテレビ出演の中で、「明らかに内政干渉だ」「(中国における)貧富の格差から生じた怒りの表れ」などと発言している。

 安倍氏ら極右勢力による教科書攻撃(すべての教科書から「慰安婦」の記述が消えた)や、靖国参拝問題などが、近隣諸国の政府と人民に対日不信を招いていることが、安倍氏や反動メディア幹部には見えない。

 朝鮮が過去半世紀にわたって、一貫して主張してきた日本の軍国主義の台頭の危険性を、韓国、中国の人民も共有してきた。近隣諸国は団結、連帯し、日本こそがアジアの中で疎外され、孤立を深めている。

 過去の侵略戦争に「無答責」で経済大国化を成し遂げたゴーマニズム・日本のリストラが今求められている。(浅野健一、同志社大学教授)

[朝鮮新報 2005.4.23]