インタビュー 山口大学・纐纈厚教授 「経済制裁は軍事恫喝、平和憲法破壊行為」 |
山口大学人文学部で、現代政治社会論・日本近現代政治史を教えている纐纈厚教授に、朝・日関係と今後の課題について聞いた。 −日本では最近、朝鮮に対する経済制裁を求める声が高まっています。 ●経済制裁は、いうならば極めて軍事至上主義的な恫喝であり、それは戦争を辞さないとする強硬手段であると思います。そればかりか、経済制裁という手段の行使は非人道的政策の実行を意味しますから、国際法にも、また、日本国憲法の平和主義からも大きく逸脱した行為となります。 経済制裁の狙いは、ただ単に朝鮮への制裁に留まらず、実は朝鮮への人道的支援に全力を挙げている日本国内のNGO組織による民際支援活動を阻止する意図が隠されています。日本政府が経済制裁に踏み切れば民際支援の道が阻まれ、日朝人民による交流の糸が切断されてしまう恐れがある。私は経済制裁論を説く政治家たちの本音は、ここにあると思っています。 日本は戦後、過去における侵略戦争と植民地支配の負の歴史を教訓とし、2度とアジア民衆に被害を与えることなく、共生と共存の関係を取り結ぶことに全力を挙げることを現行憲法において誓ったはずです。私たち日本人民は、平和と民主主義の理念をあらゆる機会を通して実践し戦争責任を果たし、アジア民衆からの不信を取り除くことができると想います。 −2002年の首脳会談、国交正常化を目指した平壌宣言の発表にもかかわらず、朝・日関係の現状を常にマイナス評価する向きが一部にあるが。 ●その背景には、日本が米国との運命共同体的な関係を、軍事的にも政治的にも採用しているということがあります。日本は米国との連携のなかでしか外交政策を決定することが出来なくなっているのです。それにくわえて、現在日本国内で高まっている排外主義的なナショナリズムが、あえて孤立への道を選択しようとしているのです。一見不思議な言い方かも知れませんが、日本国内にあっては、米国との同盟関係さえ堅持しておけば、あえて孤立の道を歩んでも構わない、とする雰囲気が強くなっているのです。6者協議について腰が引けてしまっているのも、日本の外交がまったく自立しておらず、米国依存型の外交という点に理由が求められます。 −その旗手となっているのが安倍自民党幹事長代理ということですね。 ●ここ山口県出身の安倍氏は、言うならば自民党の本流に属する政治家ですが、その本流は平和憲法を見直したいとする政治的なスタンスに立っている政治家です。ですから、朝鮮に対する経済制裁は彼にとっては極めて「正当性」を持った政策になっている。安倍氏らの発言を並べてみると、そこには政治的な一貫した意図があります。それは朝鮮に対し全面的な対決姿勢を見せることによって米国との共存関係が初めて成立するということです。要するに、米国の機嫌をとることでしか日本は生きていけない、そういうスタンスが濃厚になっている。そのような卑屈さが身に付いてしまっている。それが本当の民主主義国家と言えるのか、私は大いに疑問を抱いているのです。 −朝鮮は近年、EUなどほとんどの国と国交樹立をしています。それとは随分と対照的です。日本の外交スタンスは。 ●朝鮮は、いわゆる「先進諸国」といわれる国々で、米国と日本を除き、ほとんどの国と国交樹立をしました。恐らく米国から圧力はかかっているはずだが、国際道義上、2000万人以上の人々が暮らしている国家と国交を結ばないというのは許されることではない。日本はかつての中国との関係のように、全力を傾けて国交樹立に取り組むべきです。 −中国との場合、日本より米国が先に国交を正常化しました。 ●1972年に中国と国交を結んだときにも、日本は最後まで足踏みをした。 日本が過去に多大な迷惑をかけた中国民衆に対して、国交回復をしたなら莫大な戦争賠償を要求されるかもしれない、ひょっとすると天文学的な経済賠償を要求されて日本の経済成長は鈍化するかもしれない、と経済界も反対していました。ところが米国が、先に国交回復に踏み切りました。それを見て日本は大慌てで国交を結んだという経緯があります。日本は米国の態度を日本の「頭越なし」と表現して不満を表明したのですが、今回もその可能性がありえますね。 その米国は、21世紀の軍事戦略のターゲットとして中国に射程を据えています。今回の米軍再編もその延長です。そのために、朝鮮半島を米国に有利な状態にしておかねばならない、との意図から米国主導の朝鮮統一を考えているのです。つまり、戦略上の目的から朝鮮との国交正常化をある意味では日本よりも真剣に考えているのかも知れません。 −日本の今後の課題は。 ●国交を樹立することで、日朝間に横たわる懸案をひとつひとつ解決していくことが求められていると思います。その動きを阻む雰囲気が国内に漂っていることは確かですが、懸案を解決するためには国交を樹立し、相互の交流を深めていくしかないことを、日本国民はもっと自覚すべきだと思います。 お互いの国家が抱える課題を指摘し合うためには、その前提として相互信頼、相互支援の原則を踏まえることが重要です。現状のままでは課題を先送りするばかりで、両国にとって矛盾の拡大を待つばかりです。そのためには、何よりも国家の論理よりも、人民の論理を、軍事の論理よりも平和の論理を念頭に置くことが大切です。 そのためにも、日本は、36年間に及んだ朝鮮植民地支配の責任や、1943年以降だけでも約80万人に達する朝鮮人強制連行の責任を清算することで信頼を取り戻す努力を果たさなければなりません。その事無くして、両国間の懸案事項の解決の糸口は見つからないことをあらためて強調しておきたいと思います。(まとめ、金潤順記者) [朝鮮新報 2005.3.14] |