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〈月間メディア批評−下−〉 品格あった朝鮮代表

感動的なシーン

 サッカーW杯アジア最終予選の日本対朝鮮民主主義人民共和国(朝鮮)戦が2月9日、埼玉スタジアムで行われた。私はインターネット新聞、日刊ベリタの取材団の一員として、南サイドスタンドに設けられた朝鮮応援団席で取材した。

 試合は、朝鮮が1−2で敗れた。しかし、かつて「赤い稲妻」と呼ばれ、1966年に行われたイングランド大会でイタリアを破ってアジア勢初のベスト8進出を果たした朝鮮が伝統の力を発揮した。

 試合を前にしてテレビの情報番組では、ソウルの市民にマイクを向けて、「日本と北朝鮮のどちらを応援するか」という愚かな質問をしていた。回答した市民が全員、「北朝鮮」と答えていたのを見て、頭を傾げるキャスターもいた。韓国と朝鮮の友好が進んでいることを知らないのだ。

 スタジアムの「朝鮮応援団」の中には、韓国籍をとっている在日朝鮮人や韓国からの留学生や労働者も多数いた。

 試合後、両チームが中央に整列した後、白のユニフォームの朝鮮選手たちが日本選手とにこやかに固い握手を交わした。その後、朝鮮選手たちが朝鮮応援団席に、拍手をしながら近づいた。特に安英学(J1名古屋グランパスエイト)と李漢宰(J1サンフレッチェ広島)の二人は、大きな仕草で同胞たちに感謝の意を表した。その後、メインスタンドの前を通って退場したが、その際、青一色の日本人の大観衆から盛大な拍手が巻き起こった。多くのファンが立ち上がって声援を送った。朝鮮イレブンは日本のサッカーファンに何度も敬礼した。感動的なシーンだった。このシーンはテレビ中継では映らなかったようだ。

 この試合で日本の対戦相手を「北朝鮮」と呼んでいるのはマスコミだけだった。主催者の日本サッカー協会は「朝鮮民主主義人民共和国」と正式名で呼んだ。英語のアナウンスも「DPR KOREA」だった。テレビ中継のアナウンサーは「北朝鮮」と言っていたが、場内アナウンスは、選手交代のときも「朝鮮民主主義人民共和国」という国名を使っていた。

 1991年に国連に加盟した主権国家の国名を勝手に「北朝鮮」と呼んでいるのは、日本の企業メディアと、メディアに影響された日本人だけだ。

一人浮き上がった教授

 ある学生は「テレビで見たが、とてもいい試合だった。10日付のテレビ朝日の『報道ステーション』に安英学選手が出演していた。彼は在日朝鮮人と日本人、それから日本人と朝鮮人をつなぐ重要な役割を果たしたように思う。昨日の日朝戦で日朝関係がすぐによくなるとは思えないが、古館キャスターが言っていたように、『スポーツが政治を変えることもある』ということもあるかもしれない」と話した。サッカーファンとテレビ観戦した日本の人民は企業メディアの情報操作に影響されず、サッカーをサッカーとして楽しんだ。一人だけ浮き上がった男性がいた。試合後も、「北朝鮮代表は帰国後は反省会をさせられる」という見出しで10日付のスポーツニッポンに手記を書いた重村智計早大教授だ。

 重村教授は代表チームが金正日総書記に「勝利のプレゼントを誓って来日しているはずだ」とか、「来日した代表チームの選手たちは、北朝鮮による拉致事件が日本で大きな問題になっていることを知らない」などと書いている。「毎日新聞のときは、あんな人ではなかったのに、何があったのだろうか」と多くのジャーナリストが話している。

 「拉致」問題は朝鮮で度々報道されているから、朝鮮代表が知らないはずがない。彼らは朝鮮民族の800万人以上が日本帝国主義によって拉致、強制徴用されたことも知っている。重村教授が後者の重い事実を語らなくなっただけだ。

常識と品格ある報道を

 同日のスポーツニッポンに前WBCスーパーフライ級王者の徳山昌守(金沢)選手の手記があった。徳山選手は記事の中で、「朝鮮代表の安選手が東京朝鮮中高級学校の後輩ということもありテレビで観戦しました。日本に育ちながら、祖国のため日本を相手に戦った彼の立場は難しいものだったはず。精一杯のプレーに心から『ありがとう』の言葉を贈りたい」と書き、両国選手が試合後に握手したことを喜んだ。

 「在日の星」とされる徳山選手は01年5月、二度目の防衛戦として、ソウルで韓国人の元王者と再戦したが、「試合後、『北朝鮮籍』の私を包んだのは怒鳴り声ではなく、満場の拍手だった」と述べ、スポーツには国境がないことを強調した。

 このすばらしい記事に、「北朝鮮籍」という誤った表現があったのは残念だ。

 日本がアウェーに回る日本―朝鮮の第2戦は、金日成競技場でキックオフとなる。日本政府は朝鮮の航空機の飛来を認めていない。「拉致」以来、チャーター便の往来もない。朝鮮は日本から5000人の日本代表応援団を受け入れる意向だ。日本政府は日本のサポーターが一人でも多く、安価な方法で平壌に飛べるように、対策を講ずるべきであろう。ホテルが不足しているのなら、船舶で宿泊する方法もあるだろう。

 日朝関係が最悪になっている時期に、両国がW杯最終予選で同じブロックに入ったのは、日本の政府と国民に「隣人と仲良くするように」という世界の声かもしれない。

 あと4カ月の間に、両国の関係が改善され、平壌で埼玉以上にいいゲームが行われることを祈りたい。

 朝鮮外務省が10日、核問題をめぐる6カ国協議の無期限中断と核兵器保有を表明したことについて、一部のワイドショーを除いて、日米両政府もメディアも比較的冷静な報道を行っている。自民党の安倍晋三幹事長代理も11日、冷静に対処すべきだとの考えを示した。日本と韓国には朝鮮や中国に照準を定めた核兵器が無数に配備されているはずだ。日米両国が朝鮮に「核を持つな」と命令することは難しい。

 サッカーから学んで、日朝関係に関する常識と品格ある報道を望みたい。(浅野健一、同志社大学教授)

[朝鮮新報 2005.2.25]