〈教室で〉 北海道初中高 高級部 社会科 金有燮先生 |
「出力」を意識した「入力」で考える力育てる
2003年から初級部、04年に中級部、今年高級部で新しい教科書が採用された。各地の学校では、教員たちが生徒たちのためにさまざまな工夫を凝らした授業を行っている。本欄では月1回、各地の学校で民族教育に情熱を傾ける教員たちの心情と教授方法を紹介する。 北海道初中高高級部で社会科を教える金有燮先生は、今年1月に東京で開かれた第18回総聯各級学校教員たちの教育研究大会で論文賞を受賞した。テーマは、「出力」を意識した「入力」の実効性。 同校では学期ごとに 2、3回、朝青朝高委員会主催の「朝鮮新報作文コンテスト」を開催している。生徒たち各々が選択した記事を、授業内容と関連づけて作文を書く。発表された作文は学期に1度、生徒たちの小論文集「ぼくらは勝つ」に収録される。 高2のある女子生徒の社会科のノートには 6.15共同宣言発表5周年に関する朝鮮新報の記事が張り付けられていた。重要だと思われる部分には蛍光ペンでラインが引かれている。彼女は、6.15共同宣言の意義を6者会談と関連づけて、北南統一を妨害する勢力に対してこう考えている。「米国はどう考えるだろう? 米国経済は戦争によって維持されている。米国は、他国を支配し、経済的収奪を繰り返している。イラクで大量破壊兵器は見つからなかったし、人々は米軍によって殺された。発言と行動の矛盾。本当におかしい…」。 生徒は、朝鮮が米国と対等に向き合うために核を持ったと指摘し、「朝鮮が核を持てば他国も持つ可能性がある。それは危険なことにもつながる」と危惧している。
金先生は、生徒たちが「自分の頭で考える」力をつけられるよう、高級部生徒全員を対象に社会、歴史の授業とタイアップさせて行っている。 「社会科を受け持つようになってから二つの考えをもつようになった。一つは、授業で教えた内容が残念ながら生徒たちの頭には残っていないということ。生徒たちは試験勉強をする際、機械的に授業内容を暗誦するが、試験のあとには優等生であっても内容を丸ごと忘れてしまう。生徒たちが日頃学んだ知識を役に立つ形で定着させる方法がないものかと悩んだ。もう一つは、すべての事物の中心をきちんと押さえて整理、分析し、自分の考えを発表する力を育てたいと思った。とくに現在は、大学入試が小論文形式で行われるため、そうした力を授業を通して育んでいくことができればと思った」 悩みぬいたすえ金先生は、授業内容と課外教養を密接に結びつけることに注目。朝鮮新報の学習を義務づけて授業中に生徒たちの頭に入った断片的な知識を今の情勢と社会原理、現実社会とリンクさせ身につけさせようと考えたのである。 生徒たちの問題意識は日増しに高まっていった。 「私たちが暮らしている日本を鋭く観察して、朝鮮新報の記事との対比の中で自分が置かれている状況と立場を明確に見極める。生徒たちには量は質に変わると教え、新報学習と解説を年間100回はさせてきた。はじめは難しがっていても、繰り返す過程で自分の頭で考えて物事を語ることが習慣づけられていく。受身の態勢で聞いてばかりいるのではなく、それを文章化させ発表させることで目標も明確になる」 大学生時代、自然科学を専攻した金先生はこうも語る。 「数学を理解するためには聞いてばかりいてはいけない。自分が直接問題を解く『出力』が伴わなくては力にならない。人は、『出力』を意識すると『入力』の実効が高まり、やりがいも出てくる。社会科科目も『入力』だけ続けていてはいけないと思います」 元は数学の教員だったが、赴任後3年目に朝青責任指導員を任されてから社会科を受け持つようになった。 「生徒たちには日頃から『外部記憶装置』を活用しろと教え、重要なポイントにはメモや線引きをさせている。自ら入力して出力することは自主性、大量にその作業をする力は創造性、それらを支える動機が目的意識性とするなら、授業を通じて主体的な人間を育てることができると思う」 教育へのあふれんばかりの熱情と抱負。教員生活10年目を迎えた金先生の座右の銘は「教養は科学だ」。(金潤順記者) [朝鮮新報 2005.9.4] |