高齢社会を住宅の視点から支える(上)−頻発する「住宅内事故」 |
現代の高齢社会において盲点になりがちなのが住宅の問題。年齢を重ねるにつれて身体的能力は衰えてくる。それにより、たとえ住み慣れた家といっても少しの段差で転んで骨折するといった危険性が高まってくる。介護を受けるにしてもスペースにゆとりがないと困ってしまう。改築、改修の検討や高齢者に対する住宅政策の把握が重要だ。NPO法人同胞法律・生活センターの住まいサポートセンターに問題点と対策などについて聞いた。 概況 日本は1970年に総人口の7%が高齢者(65歳以上)に達し高齢化社会に突入。1994年には総人口の14%が高齢者に達し高齢社会となりました。さらに、2014年には総人口の25%が高齢者となり世界一の高齢大国になるでしょう。 2033年には総人口の30%が高齢者に達し、世界に例をみない速さで超高齢社会を迎えることになります(国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口」平成14年1月推計)。 この高齢社会を乗りきるためには、医療、保健制度、雇用制度、年金制度、福祉制度など、どれをとっても欠かせないこれらの制度の円滑な実施が必要であり、すべて高齢者の日常生活を支える最も重要なことばかりです。 しかし、この制度を整えることに劣らず大切なことが、高齢者と住宅とのかかわりあいだとも言えます。 高齢者、障害者を取り巻く環境の変化 65歳以上75歳未満の高齢者については、前期高齢者(ヤング・オールド)、75歳以上は後期高齢者(オールド・オールド)と区分していますが、高齢社会が進むにしたがって後期高齢者が多くなります。 平均寿命が延び、高齢者の在宅での生活時間が以前に比べて長くなったということは、今後必然的に身体機能が目に見えて低下していく多くの後期高齢者が自宅で生活していくことになります。 一昔前、高齢者が一家の家父長として生活していたころは、たとえ生活動作が不自由になっても妻、嫁、娘といった、主に女性たちによる介護によって生活動作を維持してきました。 しかし、核家族化が進み、女性の社会進出が当然のようになった現在では、家庭内での家族介護は難しい状況にあります。 現在の住宅の問題点について ふだん住み慣れている住宅やそれを取り巻く環境も、いつでも、だれもが、いつまでも安全で快適に住みつづけられるかという視点で見直してみると、多くの問題をはらんでいます。 元来、住宅の大部分は健康な人を対象にして造られており、高齢者や障害者の身体機能が低下した場合を想定して造られたものではありませんでした。 住宅構造の問題点はいくつかあります。 ひとつは、住宅内に多くの段差があることです。 玄関敷居、上がりかまち、廊下と和室、洋室と和室、脱衣室と浴室など、住宅内のあちこちに段差があり、高齢者や障害者の生活動作を著しく不便、不自由にしています。 住宅内で滑って転ぶ、つまずいて転ぶ、階段から転げ落ちるなど転倒や転落、墜落、ぶつかり、挟まれといった「住宅内事故」により数多くの高齢者が死亡しており、それは交通事故死亡者数に匹敵するとも言われています。入浴時の転倒、浴槽での溺死、火災事故も見られます。 このように住宅構造に起因した「住宅内事故」の発生頻度が非常に高くなっています。 次に、介護する際に支障の多い伝統的なモジュール(尺貫法)です。 設計者が常識として決めている廊下、階段、開口部等の幅員では狭いために、介護を必要とする高齢者、障害者、福祉用具を使用する高齢者、障害者の室内移動を困難にしています。 そして、住宅面積が非常に狭いことも問題です。 室面積が狭いことなどに加えて、家具類の使用によってますます狭くなり、介護を必要とする高齢者、障害者、福祉用具を使用する高齢者・障害者の室内移動を困難にしています。 そのうえ、身体的に負担のかかる和式の生活様式です。床座の生活、トイレでの立ったり、しゃがんだり、和式浴槽をまたいで入るなどの和式の生活様式は、高齢者、障害者の身体機能から考えて不向きといえます。 このように、高齢により身体機能が低下し、排泄、入浴、静養、室内移動といった日常生活動作を自分ひとりでできなくなり、家族に手伝ってもらったり、ホームヘルパーに介護してもらうケースが多くなってきているにもかかわらず、住宅内は介護ができるようになっていません。自宅で介護が受けにくい住宅が非常に多いのが実情です。 身体機能の低下をきたした高齢者、障害者にとっては、安心、安全な住宅とはいいがたく、脳血管障害、心疾患等の病気になり障害を持った場合などにはますます自宅は暮らしにくくなります。(林瑛純、福祉住環境コーディネーター) ※(下)では、望ましい住環境整備、住宅政策などについて具体的に紹介します。 [朝鮮新報 2005.11.15] |