〈ざいにち発コリアン社会〉 在日3世の笑福亭銀瓶さん 「ウリマル落語で笑わせたい」 |
「在日だから、ウリマルで落語をやりたい」−関西を舞台に活動する笑福亭銀瓶さん(37)は神戸市生まれの在日3世。本名は沈鐘一。昨年11月から本格的にウリマルの勉強を始め、「ウリマル落語」に挑戦。今年2月に大阪朝鮮高級学校で初めて披露した。その後も、在日同胞のイベントに招かれ「ウリマル落語」の腕を磨いている。 挑んだネタ「動物園」
「今回で6回目のウリマル落語ですけど、今日が一番緊張しました」 4月23日、西神戸長寿会「トラジ会」の月1回のイベントに訪れ、日本語とウリマルの落語を披露した。 挑んだネタは「動物園」。虎の皮をかぶって移動動物園の虎になりすます男の滑稽噺だ。流暢なウリマルと歯切れのよいテンポに、「トラジ会」のメンバーらはすぐに「ウリマル落語」の世界に引きずり込まれた。 会場は終始爆笑の渦に。「とてもうまい。どこでも通用する」と1、2世の同胞らも太鼓判を押した。 初めて「ウリマル落語」を披露したのは2月22日、大阪朝鮮高級学校の生徒らの前だった。 「どうせやるなら、ウリマルを日常的に使っている若者の前でと思っていた。本当に自分の『ウリマル落語』が通用するのかどうか、確かめるには格好の場所だからだ」とふり返る。 大阪朝高の公演では「君たちの祖国はどこですか?」と聞いてみた。生徒たちは迷うことなく「朝鮮」と答えた。その答えに、自然と涙が頬を伝った。 「朝鮮半島が自分の『祖国』だと胸を張って言いたい」−涙はそんな思いからだった。 独学でウリマル勉強
銀瓶さんは、小学校から日本の学校に通った。その過程で、朝鮮奨学会で在日の同世代と出会ったことから、「在日」であることは自然体で受け止められるようになった。 17歳で本名を名乗った。友だちもそれを自然に受け止めてくれたが、自分の中で「祖国」を意識することはほとんどなかった。当然、ウリマルを学ぼうという熱意もわいてこなかった。 小学生の頃の夢は教師になること。しかし、国籍の壁が立ちはだかり断念。その後、親が「エンジニアになれ」と技術系の専門学校に入学。卒業していい会社に就職することも可能だったが、「嫌な事を続けてもおもしろくない。自分が納得してできるものを探そう」と出した答えが落語だった。 88年、20歳の時に笑福亭鶴瓶さんに弟子入り。タレントになりたくて修業に入ったが、師匠の芸の根底は「落語」にあることに気づいた。 92年に日本人の妻と結婚し、96年に帰化。その後、「自分が在日であることには変わりない」とメディアを通して自ら「在日」であることを公言。テレビやラジオなどで積極的に活動しながら落語の修業を積んだ。 9月にソウルで上演 日韓共催のサッカーW杯が行われた02年の前年、ラジオの仕事でソウルに行った。言葉ができない現実に「ここは祖国ではなく外国だ」と感じた。 日本が「韓流ブーム」でわいた昨年、映画「血と骨」を見た。 「自分の体にも朝鮮人の血が流れているんだと感じた。真剣に勉強せなあかんなって思った」 同年11月から約3カ月間、NHKのハングル講座を教材に独学でひたすら勉強に励んだ。 「勉強するうちにこれは話せるようになるなあって思った。落語家だからウリマルで落語をやろかと。それで笑わせたい。自然な欲、落語家の欲ですね」 銀瓶さんがウリマルで演じる落語「動物園」は、かつて桂枝雀さんが英語版を創作し、米国で公演したことでも有名なネタだ。 在日の知り合いに頼んで、ウリマル版「動物園」の台本を制作。発音を吹き込んでもらったテープを繰り返し耳で聴くことから始めた。「とにかく毎晩稽古に励んだ。擦り切れるぐらいに何度も何度もテープを聴いた」。 9月にはソウルの舞台に立つ(同徳女子大で落語会を開催)。「できればいろんな場所で『ウリマル落語』をしてみたい。いずれ板門店でも」と語る。 在日だからこそ、できることを見つけたというウリマルでの落語。一方で「芸人として目の前の人を楽しませる」というスタンスはつねに忘れない。 「(『ウリマル落語』に)挑戦したからには絶対にやめたらあかんと思ってる。落語のおもしろさを日本語はもちろん、ウリマルでもしっかり伝えていきたい」 17年の落語家人生の中、さらに新たなフィールドへ。在日3世の落語家・笑福亭銀瓶の挑戦は始まったばかりだ。(金明c記者) ★笑福亭銀瓶さん出演の公演「はやかぶの会 第2回東京公演」 銀瓶さんの同期の噺家5人で主宰している落語会。 日時=5月28日(土)、午後6時開場、午後6時30分開演。 場所=お江戸日本橋亭(地下鉄銀座線三越前駅より徒歩2分。JR新日本橋駅より徒歩2分)。 入場料=前売2000円、当日2500円(予約受付は5月27日まで)。 お問い合わせ、予約=はやかぶの会事務局(TEL 0729・56・7951、電話は午前11時〜午後11時まで)。メール予約=bunka0714@nifty.com [朝鮮新報 2005.5.10] |