偶発的な「マンナム」 |
ハインツ・コフートという人は、人間の自己愛について研究した人である。 フロイトの伝統的精神分析では、「自己愛」や「依存」を否定的にとらえ、これらを脱却することが人間の成長であるとしたのだが、彼は人間の一生を自己愛が成熟していく過程としてとらえようとした。自己愛の成熟というとき大事なのは、「自己」「対象」との関係である。自分の一部として感じられる大切な対象のことで、赤ちゃんであれば母親であったり、大好きなお人形や毛布や…。 このような共感的な関係を育み、それを自己の内面に取り込むことによって人は、現実的能力を身につけるという。たとえるならば自己愛は、食べ物を飲み込み、消化吸収して体が成長してゆく過程に似ている。自らにとって大切な対象に出会い、愛することによって人は成長していくともいえるのだろう。 反対に、愛着の対象との別れもまた、心に取り込まれてゆく。そう、「出会いと別れ」は人を成長させてくれるのである。 コフートはそれを見事に理論化してみせてくれた。 春。卒園、卒業などのイベントは、ハッキョや幼稚園、ソンセンニムやチングはじめ多くの人による支えの中で、身も心も成長できたことを実感する節目の儀式。そして、少し大げさかもしれないが春は、今まさに生きている自分との新しい出会いの季節なのかもしれない。ハッピーなこともそうでないことも、何が起こるか分らない。 多様で偶発的な「マンナム」がそこに来ている。(辺貞姫、主婦院生) [朝鮮新報 2004.3.29] |