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行動する画家−人間の苦しみ、悩み、うずき、叫びを

 シルクロードに魅せられたもう1人の旅人のことを思い出す。

 洋画家・中村百合子さん。4年前の9月、毎年、開いていた東京・銀座の個展の開催日の前夜、不慮の事故で突然、世を去った。享年68歳。

 中村さんは情熱と強い意思の人だった。少女の頃から、大陸に憧れて、いつも世界地図を飽かず眺めていたと生前、よく話していた。「スケッチブックを買ってもらえなかったので、砂の上に絵を描きまくって、砂漠の国に思いを馳せていた」と。

 願えばかなう。16歳で行動美術展に入選、作家・司馬遼太郎の絶賛を受け、衝撃的な画壇デビューを果たして以来、行動する画家として世界を疾風のように駆け抜けた。

 走りながら考えて、実行するタイプの人だった。20代の終りに結婚したが、夫の深い理解の下にそのまま「狭い日本列島を飛び出し」長らく帰日しなかった。

 日本を出た中村さんは欧州からアフリカ、中東、インド、中国、南北朝鮮という西から東への30余年に及ぶ一人旅を続けた。その間、ロンドン大学で教鞭を執ったことも。東西の歴史に身を委ね、市井の人々への尽きない興味を絵筆に託した。

 中村さんと出会ったのは、平壌への旅を終えて神戸で個展を開いた91年の秋。平壌の人々や景色をこよなく愛していたが、美術館で見た現代画には「どの絵も美しいが、少し物足りない。人間の葛藤、苦しみ、悩み、うずき、叫びをもっともっと叩き込んでほしい」と注文も忘れなかった。

 率直で、何に対しても全力を傾けた中村さん。思い出すたびに懐かしさで胸がいっぱいになる。(粉)

[朝鮮新報 2004.5.10]