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若きアーティストたち(26)

伽倻琴奏者・金オルさん

 「オル」という朝鮮固有語の名前には、「精神」、「魂」という意味が込められている。

 「両親がつけてくれたんです。みんな『オリ』って呼んでますよ」と屈託ない笑みを浮かべる。朝鮮学校に通い始めたのは中1のときだった。伽倻琴に出会ったのもちょうどその頃。
 「クラブ活動の部室をのぞいて音色に惚れちゃったんです。あ、カッコイイなって」

 家族的な雰囲気の学校で、迷わず伽倻琴部に入部した。

 「当時はまだ楽しむ程度で弾いてました。何しろ音色が好きだったし。朝高に上がるとき、テニス部もカワイイなって一瞬、迷ったんですけど、先輩に、伽倻琴は人気があるから早く決めないと取られちゃうよっていわれて。それで入部を決めたんです」

 高3の冬、平壌で金日成主席を迎えて「新春の集い」に参加した。日本から行った初級部4年から高3まで約50人の伽倻琴奏者たちの技術指導を任された。「祖国の先生の熱心な指導を受けながら、もっと伽倻琴を知りたいと強く思った」と熱く語る。

 「ただ好きで」の一心で朝鮮大学校教育学部音楽科に入学。在学中は金剛山歌劇団に伽倻琴を持ち込んでプロの指導を受けるほど熱意を燃やした。卒業後は金剛山歌劇団への入団を夢見たもののかなわなかった。商工会で働きながら伽倻琴を続ける道を模索する。

 そんなとき出会ったのが伝統的な12弦の伽倻琴を奏でる南朝鮮の伽倻琴奏者、ファン・ビョンギ氏の演奏だった。90年に平壌で開かれた汎民族統一音楽会にも参加したファン氏は、梨花女子大学国楽科の教授でもある。楽屋に自前の伽倻琴を持ち込んで、「ぜひ、師事を受けたい」と頼み込んだ。

 金さんがそれまで使っていたのは、ファン氏のものとは違う「改良」された伽倻琴だった。分断された朝鮮の北側では、民族楽器の音域を広げるため、伝統楽器を現代風に改良した。「改良楽器を弾きこなすためにも伝統楽器を知る必要があった」と金さんは語る。

 その後、ソウルに単身留学。「南では、改良楽器の奏者が少ないため、逆に教えてくれと教授に頼まれることもあった。改良楽器を習うため中国に留学する人もいる」。

 金さんの言葉には、1日も早く南北、海外の音楽家たちが自由に祖国を往来し、思う存分音楽を語り合い、ともに演奏できる日が来ることへの切実な願いが込められている。

 5年間の留学の後金さんは、半年も経たぬ間に今度は平壌に飛んでいた。「文化センターで元万寿台芸術団のリ・ジャヨン先生に改良楽器の指導を受けました」。古典楽器を基礎から徹底的に学んだことで、改良楽器の音に「深みが出た」と金さんは言う。

「基本はつながっているんだという当たり前のことが嬉しかった。はじめはただ好きで始めたけれど、伽倻琴の持つさまざまな歴史やドラマを、実体験を通じて感じられたことは何よりもの宝だと思う」

 伽倻琴に出会って17年。いま新たに感じる魅力は、「この音で、素手で奏でる伽倻琴の音色で朝鮮民族をもっと知ってもらいたい。12弦も19弦も元はひとつ。古いのも新しいのもどっちも弾きたい」。

 22日、東京都大田区の池上本願寺で金さん出演のMINACK.C「黄昏コンサート」が開かれる。●問い合わせ:TEL 03・3519・5106(金潤順記者)

[朝鮮新報 2004.10.20]