top_rogo.gif (16396 bytes)

若きアーティストたち(23)

オペラ歌手・鄭香淑さん

 4月、モンゴル国立チンギスハーン歌劇場で「ラ・トラヴィアータ」のヴィオレッタ役を演じた。「椿姫」と呼ばれるこのオペラは、「蝶々夫人」や「カルメン」と並び称される3大オペラのひとつ。そのヒロイン「ヴィオレッタ」は、多くのソプラノ歌手が夢見る役である。

 現地では、新聞、テレビ、ラジオすべてに取り上げられるほどの人気ぶり。公演当日は満員の聴衆で迎えられた。

 きっかけは昨年10月、モンゴル国立歌劇場40周年記念ガラコンサートに出演し、「椿姫」のアリア(オペラの独唱歌曲)を歌ったこと。「全幕歌えるか?」との問いに迷わず「はい」と答えた。歌唱力が買われ、「主役」に抜擢。

 声楽を本格的に始めたのは大学から。朝高時代は新体操部の主将を務めた。成績優秀、卒業を前に日本女子体育大学の推薦入学も内定していた。

 「当時母親は音大受験に猛反対しました。幼少から始めなければ間に合わないほど大変なことでしたから。でも担任の先生は応援してくれて」

 そのとき先生が鄭さんに言った「あなたならできる。しっかり学んで同胞社会に還元しなくてはだめよ」という励ましの言葉が今でも心の支えとなっている。

 猛勉強のすえ、高校卒業資格を取り音楽大学を受験し、見事合格。英才教育を受けてきた学友たちに混ざって声楽の基礎を学んだ。

 卒業後は家業を手伝い資金を貯めてミラノに留学。「イタリア語の修得は大変だったが、幼い頃からバイリンガル教育を受けてきた分、他国の人たちよりも慣れるのが早かった」。

 ミラノではミラノ音楽院に通いスカラ座の名歌手マリエッラ・アダーニ氏に師事。そこにはアメリカ、ヨーロッパ、韓国、日本で1流のプロと呼ばれる人たちも来ていた。鄭さんの歌声は、大陸的な朝鮮の力強さと太さ、そして、日本人の持つ可憐さ、繊細さを兼ね備えているとして注目を浴びた。

 3年間の留学中、オーディションを受けていろいろな舞台に立つチャンスに恵まれた。日本に戻ってからは、東京・渋谷のオーチャードホールで開かれた「オペラティックバトル」最終本選に選抜され、日本全国から選ばれた若手歌手13人でグランプリを競った。出場者のほとんどがオペラ団体の会員たちだった。会場には同級生ほか元担任の先生も駆けつけた。

 「結果は女性部門で4位。友達と先生の応援がうれしかった」

 娘の留学を心配していた母親も、今では最大のファンとなっている。

 「舞台ではいつも感謝の気持ちを忘れない。『観に来て良かった』と言われることが一番うれしい」

 状況に甘えず、自ら道を切り開いて行こうとする姿勢がたくましい。「どんなときでもあきらめない。あきらめたらそこで道は終わってしまうから」と言う言葉が印象深かった。
(金潤順記者)

[朝鮮新報 2004.6.16]