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蓮の花

 わたしは散りゆく蓮の花
 あなたの心は流れの水
 川面の波は留まらず
 蓮花の香りはいつまでも

 ソル・チュク(17世紀前後)

 漢詩である。蓮の花は流れには咲かない。流れていってしまうのは川の水であり、歳月であり、思い出である。また、留まることを知らない酷薄な男の心でもある。散る蓮の花、流れる水、いつまでも残る蓮の花の香りに、消えることのない恋情を託した美しい一編である。

 朝鮮文学史上稀有な存在である雪竹は、安東權氏宅の奴婢であった。詩才に恵まれ、容貌も美しかった彼女は權氏の庇護の下、166編の詩を今に残す。幼い頃から、家の中から聞こえてくる詩文を詠じる声を頼りに、文才を開花させたといわれる。自らを「翠竹」と号したが、その身分の低さからかよく妓生の「翠仙」と混同され伝わることもしばしばあった。

 近代以前の古い朝鮮の詩には、王や王妃、大貴族や高名な文人、またあまたの妓生と共に、雪竹のような最下層の民衆の詩も残っている。それら郷歌、時調、漢詩など、朝鮮の古い詩の中から、愛の詩をひもとき、訳出しようと思う。「愛はすべてに勝る」という言葉がある通り、人が最も共感を覚えるのは「人を求める心」であろう。わたしたちの祖父や祖母、父や母、姉や兄に、そしてわたしたちにつながる「祖先の心の声」に耳を傾けようと思う。(朴c愛、朝鮮大学校非常勤講師)

[朝鮮新報 2004.6.2]