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若きアーティストたち(21)

役者・金民樹さん

 在日同胞たちにとってネイティブな朝鮮語を使うことはそうたやすいことではない。ましてや、3世、4世ともなると、生まれて初めて接する母語はほとんどが日本語、その後ひとつひとつ言葉を覚えていく過程の言語環境も、母国語を教える両親、教師とも日本生まれの日本育ちとあって、必ずしも朝鮮固有の言語感覚を持ち、発音できるとはかぎらない。

 大阪市在住の金民樹さん(29)は、舞台の上でネイティブな朝鮮語を使うことに情熱を注いでいる。「私が普段使っているウリマルは『大阪弁』のウリマル。代を継ぎ日本で暮らすうえで定着してきたこの言葉を否定するつもりはない。しかし、祖国統一に向かう時代の流れに沿って、北でも、南でも、海外でも、通じるウリマルを身につけたい」。彼女はそれを「統一ウリマル」と表現する。

 実際、北であれ、南であれ、本国の人と直に接してみると、日本語訛りのウリマルが「通じない」こともしばしばある。理由は「呼吸が違うから」。こちらとしては一生懸命朝鮮語を使っていても、相手が日本語を使っていると思い込んでしまう理由を金さんはこう指摘する。「朝鮮語には呼吸とリズムがあって、日本語とは発音やテンポが違う。だから単語だけをいくら置き換えてもなかなか通じないことがある」。

 その「呼吸」とやらを文字で表現するのは難しいが、電話をかけるときの「もしもし?」という言葉を例に挙げるとこうなる。日本語の「もしもし?」をただ朝鮮語に置き換えただけの発音と、チャンゴで「クンキタッ!」とリズムを叩くときの短いリズムに乗せて「ヨボセヨ?」というのとの違い。

 「劇団プルナ2000(http://hccweb5.bai.ne.jp/pan/)代表の金智石さんは、その決定的な違いに気づくのに10年かかったと話していた。朝鮮語の神髄に迫ろうとする彼の指導を受け、今でもウリマルの訓練に励んでいる」

 身近な教材は最近流行りの南朝鮮のドラマのビデオ。何度も見て練習し、実生活でも使ってみる。「南の人と接するとき、今ではだいぶそれらしく話せるようになったけど、在日同士だとどうしても照れが出てしまう。演劇を通じて『統一ウリマル』を目指しているのに、実生活ではまだまだ修行中」。

 確かに皆が「在日訛り」の朝鮮語を話している中で、1人「統一ウリマル」を貫くのは難しい面が多い。2児の母でもある金さんは「どうせ朝鮮語を使うなら、やはり多くの人と通じ合えるものを子どもたちに伝えたい。朝鮮語の演劇はたくさんの同胞たちの支持を受けている」と話す。そして、「統一を目指すと言いながら『北の言葉、南の言葉』と線を引き、どちらも駄目だと区分する人がいるが、分断思考にとらわれたままでは未来がない」と考える。

 「統一祖国で役立つウリマルを同胞に伝え、子どもたちに伝えていくのが私の使命」と話す金さんの目が輝いていた。(金潤順記者)

[朝鮮新報 2004.4.20]