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若きアーティストたち(20)

ピアニスト・朴勝哲さん

 こまつ座「兄おとうと」のピアノ演奏が高く評価され、先日、ピアノ演奏では初の読売演劇大賞優秀スタッフ賞に選ばれた。こまつ座代表、井上ひさしさんは「朴さんはこまつ座の宝、そして日本の宝」と喜んだ。朴勝哲さん(36)とこまつ座との出会いは、12年前、ひょんなことがきっかけだった。友人の紹介で芝居の演奏を引き受け、ときどき役者としても舞台に立つようになった。

 「今でこそ台詞がないと寂しさを感じますが、はじめは舞台の上で居場所を探しておろおろしていました。ピアノを弾く場面になるとほっと胸をなでおろしました」

 母親の嫁入り道具であるピアノを弾きはじめたのは幼稚園の頃。高学年からは芸術コンクールに出場し、金賞を7回受賞した。こまつ座『the座』発行人の渡辺昭夫さんは「朴さんの感性あふれる演奏力は、周囲の高い評価を受け、今ではこまつ座で欠かせない存在」と称賛する。

 「はじめての音楽体験」は、花見の席で「花吹雪のなか、楽しそうに踊るハンメたちのオッケチュムとチャンゴのリズム」。学校では朝鮮の名曲に包まれ、「多感な時期に親しんだウリ音楽は僕の宝物」と振り返る。学校を一歩出ると、当時は大好きな坂本龍一らの音楽が街にあふれていた。クラシックや日本の歌謡曲などジャンルを問わず自然に触れた。大学生の頃、夏休みを利用して、平壌音楽舞踊大学で1カ月間の短期留学も経験した。多様な音楽環境の中で育ったことを、彼はプラスに受け止めている。

 「在日はマイノリティーとしてさびしい思いをすることもある。でもそれは悲しいことではないと思えてきた。人類の、長い時間をかけて築きあげたこの世界の多様性。僕はそれをすばらしいと思うし、今を生きる僕たちの財産でもあると思えてワクワクする。僕たちもその多様性のひとつ。そのひとつひとつがつながっていく課程で希望が生まれるんだと思う」

 こまつ座の芝居を通じて、朴さんは「暗い時代を読み解くための豊かな視点を学んだ」と語る。井上ひさし氏の作品には、戦中、戦後の庶民の姿を描いたものがたくさんある。朴さんが平壌生まれのピアニスト・崔明林役で出演した「連鎖街のひとびと」もそのひとつ。敗戦直後の大連で日本軍に置き去りにされた日本人はソ連軍の軍政下でソ連軍を激しく非難した。それに対し崔青年は、「日本の軍隊はどうだったか?」と相手に迫る。作品を通じて朴さんは「その時代を必死に生きた祖父母たちのいろいろな思いを想像するようになった」と語る。

 19日からは「太鼓たたいて笛ふいて」が、神戸、名古屋、福岡、東京、新潟、山形で上演される。朴さんはピアノ演奏で出演。劇中歌にはジャズ、クラシック、ミュージカルナンバーから選りすぐった歌曲11曲が盛り込まれている。朴勝哲さんは演劇での演奏のほかに、作、編曲、演奏と幅広く活躍している。(金潤順記者)

 ※公演の問い合わせ=こまつ座(TEL 03・3862・5941)

[朝鮮新報 2004.3.10]